媒体に依存しない新しいカタチ
topic:ルーイン
魔導図書館で元オーナーがいた時から働いているイケメン。強いていうならちょっとだけ残念な性格をしている。いろいろと事情があるせいで秘事が多い。
ドンッッッッ!
ルーインは後ろから窓が壊れるような勢いで閉まる音に体がびくついた。
恐る恐るその方向を見ながら声をかける。
「あ、オーナーどうでした?有益な情報h…ヒッ!」
殺気溢れんばかりのパワーで胸ぐらを掴まれた。逃げることも許されないほどにガッチリと。
そして、死んだ魚のような目で見上げてきた。
「どどどどどどどどっどうしたんですか?」
「ねぇ。私に隠してることとか、ない?」
「いえ、ない…と思いますけど。」
あれだけの強さで胸ぐらを掴んだのにルーインが言葉を発するたびにオーナーの握力はますます強くなってくる。下手なことを言えば殺される、とルーインは思った。
「ねえ。あるよね?クソ親父に隠し子がいたとかさぁ〜あ?!」
「だからないですってば!でも強いて言うならば…」
「強いているなら…?」
二人の傍で朝ごはんを呑気に食べていた銀髪の少年の方へと不意に視線を向ける。
それに勘づいたのか、恐ろしいほど冷たい真顔をルーインにくらわせて、胸ぐらを掴んだままグーで押し倒した!
少年はというと前から人影がかかり、食べかけのソーセージが刺さったままのフォークを置いて食事を中断する。
「キミにちょっと聞きたいことがあるんだけどさ、キミのパパとママってどんな人かな?」
「えーっとね!パパはお髭がもしゃもしゃだけどかっこよくて!ママはびじんさんでやさしいの!」
オーナーのことだから、横の壁を殴るのはわかってたけど。怒りのパンチで頑丈そうな壁に穴が開くとは思わなかった。なんか湯気みたいなものが出てるし。
ルーインは地獄のような状況に戦慄する。
オーナーはやけに笑顔なのに、十分すぎる怒気が抑えられないようで一言一句に震えが漏れている。
「ふーーーーーーーーーーーーん。そうなんだーーー。美人さんなんだーーーー。道理でキミの顔も可愛いんだねー。お父さんに似なくてよかったよかったぁーーーーー」
「お、お姉ちゃんどうしたの?」
流石に子供もこの状況が修羅場だと理解したのだろう。ほぼ初対面のような人間がものすごくキレていることに困惑している。
「その呼び方やめよっかー。普通の意味で言ってるかもしれないけど、ちょっと複雑ゥー。オーナーさんでお願いね?」
「ちょ、オーナー!違うんです。それには事情が…」
「貴方の意見は聞いてないってコト、分かってる?」
黙るしかなかった。同時に。もしかして今のオーナーなら昨日襲ってきた奴倒せるんじゃないかという考察に至った。とゆーかそうでもして無いと乗り切れなかったのである。
★★★★★★★
しばらくするとオーナーは熱が取れて、落ち着きを取り戻した。銀髪の少年はこの場にいるのは危険と判断したのか、そそくさとルーインに絵本の場所を教えてもらい、図書館に向かった。
「ま、悪いのはクズのせいだからここにいる人間を責めても仕方ないわよね。」
「全くですよ。カッコ悪いところ子供に見せてどうするんですか…怖がらせちゃったじゃないですか…」
「めんごめんご」
彼女は片手で軽く会釈する。
「ところで、ヒントはもらえたんですか?」
「ええ。憎たらしいぐらいばっちりとね。次あったらお礼の代わりにどうしてやろうかしら?」
このオーナー、凶暴につき。
「それで話を戻すんだけど、単刀直入に言えばほぼ無いと言っていいらしいの。本当の最終手段として、書庫番号40のラベルℹ︎-Ⅷの本をみればいいらしいいんだけど。その本について知ってたりする?」
正直なところ、ルーインには心当たりという心当たりがありまくりだった。
しかし、それを言っても良いのかという不安に襲われる。
奴は成長する。魂を喰らうのだから、副産物である魂弴力と魔力で編まれた封印を取り込むことだってできなくはない。なにより何者かによって混沌を仕組まれ、暴走してる。
よって、残念ながら仮に本を見て平気でも、封印が成功するかは一概にできるとは言いにくい。
どうせなら本のことを隠し通して自分が犠牲になる方がいいという考えが強く脳裏をよぎっていた。
「ℹ︎か…うーん、そこは元オーナーが個人で管理されていた書庫でしたので僕にはちょっと…」
「へー。」
オーナーの顔が近い。顔が。
いつも勢いでごり押そうとするのは怒ってても落ち着いていても変わらない。
ルーインは唾を飲み込んだ。
一瞬の沈黙があった。
時計のチクタクと秒針を刻む音がやけに耳にこびりついてくる。
「ま、いいわ。ちょっと探して本の中身を確認してくる。」
彼女は身を翻して歩いていく。長くて艶のある髪がふわっとなびいた。
「あの!オーナー!」
「何か?」
「本の中身は絶対見ないでくださいよ!ここに持ってきてくれるだけでいいですから。」
オーナーはこっちを向いて口を尖らせた。
「やっぱり知ってるんじゃない。嘘つき。」
オーナーはそれ以上は咎めることなく部屋を出て行った。
やってしまった。ルーインは誰もいなくなったリビングで後悔する。初っ端からうっかりを発動してしまい、自爆計画は結局おじゃんになった。
グダグダな日常を描いているのは、こんな回もあってもいいかもねっていうご愛嬌ということでご了承ください。そして、本編であぶれてしまった設定なのですが、「最終手段の本」はあらゆる衝撃や魔術が効きません。同期してる獣も同じです。全く影響がありません。
つーかこれ盾にすればいいじゃね。という思考に至ったので次回から盾で成り上がっていく勇者の物語が始まります。嘘です。
(特別誤訳:この前受けた模試で、判定がDというショッキングな英字を見たのでワタクソは頑張ってチャートゴリラおばさんになりたいと思います。本当です。)