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魔導図書館のroundabouts  作者: 飯塚 喆
その他の短編
15/15

夜魔の黄金

 黄金は人を惑わす。

 古より美しいものは畏敬され、魔の要素があるとされていた。それほどに、その輝きは人類が永遠に課題とするモノだった。

 同時に。いつまでも人間は黄金に勝つことができないという醜さをも物語っている。

 今宵は、その一端が垣間見得るであろう話をしよう。

 

 もうそれは書物さえも残っておらず、密かな口伝えによって受け継がれるほどに昔の話だ。

 山の奥深くに山一帯の魔物を従える魔王が住んでいた。

 麓の民たちには崇められ、時には村の初子までも供物として捧げられた。

 魔王は力こそあったが、人間なぞにできることも、してやる義理もなかった。ただ捧げられた生贄をとって喰らいながら、まじまじと愚かさを嘲っていた。

 ある日、人間の子供が魔王の領域に迷い込んだ。

 普段なら半殺しにして、部下どもの慰み物か食料として与えるが、間近で醜い姿を鑑賞してみたいと思い、会話から入ってみることにした。

 魔王が座る台座の前に連れてこられたのは、村の貧しい農家の子供だった。

 牛が塀を壊して逃げたのを追っていると山に入ってしまい、気づいたらここにいたらしい。

 少年は魔王の雰囲気に心が折れそうだった。体が震えて、今にも失禁する寸前だった。

 魔王は内心、今にも吹き出しそうだったが、それでは意味がないといくつか質問を投げかけた。


「キサマの家族は何人だ」


「キサマはどのような暮らしをしている」


「…………あ、……い……で、す…」


 何を言っているのか。喋れないほどに混乱しているのだろう。魔王は人間に気を使うのは心底気に食わないことを我慢し、一声かけた。


「今のところ、キサマをどうこうするつもりはない。答えよ、人間」


 人間の子供の呼吸音が落ち着いた。


「か、家族はいないので、父の知り合いだった人のところで召使いとして雇ってもらってます…」


「ほう」


 少しだけ、魔王はこの人間に興味を持ち始めた。


「では難しい質問をしよう。

 キサマは人間のことをどう考える。私は嫌いだ。

 寄って集って群がって、おまけに仲間でさえも手にかける。ゴミ虫以下にしか思えん」


 少年は少し考えるための沈黙を作ったが、声色をはっきりして返答した。


「同じ種族だから少し主観が入ってるかもしれませんが、僕はそうは思いません。貴方たちや、牛や羊と同じく生きているものですから、みんな対等だと考えます」


 魔王はこの子供はよくできた子だと感じていた。認めたくはなかったが。心は貧弱だが、そのことを理解ながら会話に臨んでいる。


「ふっ、殊勝なことよな。

 キサマのような奴が群がれば少しはマシだったのかもな。よいだろう、褒美だ。今日は帰れ」


「あぁ、ありがとうございます。でも、牛が…」


「それならもう見つけてある。

 キサマの心意気に免じて、黄金の体に変えてやった。

 これで貧しさの足しにはなるだろう」


 魔王は部下に合図を送り、幕の中から金の牛を持って来させ、与えた。

 確かに少年には感心していたが、裏の意図があった。人間の醜さを観察するための仕掛けを施したのだ。

 黄金でできた牛を持って帰れば、村中が大騒ぎになるだろう。

 黄金の輝きで炙り出されるであろう醜悪な人の心。

 そこがみたいのだ。

 

 少年は引き返していった。

 魔王は帰路につく彼の首筋から、養われている家のものに虐待されているであろう証が、うっすら刻まれていることを知った。

 人の子が帰ったのを確認すると、満足して玉座に座ったまま、眠りについた。

 

 数日で倍以上の捧げ物が送られてきた。

 魔王は笑顔が止まらない。

 もうお分かりだろうが、魔王は断じて沢山の捧げ物が嬉しいのではない。戯れが上手くいっていることに愉悦を感じているのだ。

 

 いつしか、時は巡って50年ほどが経った。

 魔王たちにとっては人間でいうところの、3年ほどの感覚である。

 が、何を血迷ったか、だんだんと魔王はお忍びで人間の村に行ってみたくなった。

 部下に着いてくるなと命令し、あの少年に似た人間の姿に化けて、山を降りた。

 村に着いたのは昼だった。

 まず、驚いたのは街並みだった。長閑だった風景は跡形もなく、蠢く人間の開拓跡が気持ち悪かった。

 おまけに、魔王がいつのまにか守護神として崇められていたことだった。

 極め付けは金の牛の行方だった。

 牛の寿命はとっくに超えているはずだし、牛の寿命をいじっていたわけではなかった。

 にもかかわらず、金の牛は人の魔術によってツギハギのキメラとなって無理やり生きながらえさせられており、年々金が取れる量が減ってはいるが、どうにか皮を剥いで純金に加工しているらしい。

 少年の子孫は村を治める一族になっており、たいそう大きな屋敷に住んでいた。

 魔王は耐えられなかった。腹から笑った。

 大声で笑いながら村を走りきり、その状態で山を駆け上った。変身が解け、魔王は自分の土地に戻った後も爆笑し続けた。

 その声は渓谷という渓谷を伝い、村にまで響き渡った。

 不気味な魔王の笑い声は三日三晩続いたと言われている。

 そして、魔王が笑い終わった時を同じくして、ツギハギの金の牛は完全に死んでしまったそうな。

偶像破壊ってこういうことなんだなぁ(遠い目)

ペンネームMさん…魔王には、水を割って渡れるほどの力はあったのでしょうか?

【特別誤訳:これにて活動を1年間の完全休止とさせていただきます。ある意味で終わる終わる詐欺をしてごめんなさい。正直なところ、皆さんに読む価値のあるものをお届けできたかどうかについては不安しかありません。ですが、これだけは確かでした。評価される/されないは一旦置いといて、誰かは見てくれていた。ということです。それだけで嬉しかったです。アクセス解析を見るのが楽しくもありました。

またお会いできれば嬉しく思います。二度目の大学生を謳歌できるように1年間頑張ってきます。ありがとうございました。】

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