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魔導図書館のroundabouts  作者: 飯塚 喆
魔導図書館のroundabouts
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レタリックパンク

topic:魔導図書館

魔導書が保存されている図書館。

国や街で有無や仕様は異なるが、今回の舞台は私営業の魔導図書館である。

 霧雨が降る深い森の奥で、こんな会話があった。


「僕がなぜこんな小さな図書館で働いているかって?

 それはね、特に古い本には言えることなんだけど、年季を帯びた紙に染みた魔導因子のあの芳しい匂いがとても好きだからですよ。

 特にこじんまりとした雰囲気にあるのがいい。

 たまたまここに出会って、前のオーナーに働かせてもらえないかと頼んだんです。んで、ここに至りました。

 そういうオーナーはどうなんですか?」


 オーナーは、うっ。と一瞬口を噤む。

 正直なところ、彼女はこの古くさく、小さい図書館を継ぐのが嫌であてもなく地方という地方を彷徨っていたのだ。 

 が、父が倒れた。と聞いてしょうがなく継いだという経緯があった。

 …あんなに素敵な話の後にそんなことは言えるはずもなく、「まぁ成り行きで…ははは。」と微妙な返答しかできない。

 それでも彼、ルーインはニコニコして「出会いなんて人それぞれですから。」と爽やかにフォローする。

 くっ…イケメソッ!と彼女は心の中で思うが、毅然とした態度をとる裏で草食系なところもあってか、実は毎日こんなイケメンと喋るでさえ精一杯なのだ。わりと欲望には従順な方だが、恋愛感情だけはどうしても抑え込んでしまう。

 一歩踏みだせない代わりに思わず「はぁ…」と息を吐いてしまった。

 彼はオーナーが疲れていると思って気を使ったのだろうか。「どうかしましたか?ため息なんかついて。疲れてるなら今日は僕が一人で番しますけど…」と心配そうに言った。

 

「べ、べつに。ちょっと呼吸の魔術応用試してただけだから、ね?」


 誤魔化すようにして本の整理に向かおうとする。

 と、その時、重たそうなドアが開いてお客様が入ってきた。スーツに身を包んだスケルトンだ。

 受付までやってきて、「ここに真通骨の書があると聞いてやってきたのですが、ありますか?」と、とても丁寧な口調で尋ねてきた。

 ええ。安心してください。といつもの感じで返事をする。

 ここは小さな図書館ではあるが、父が古今東西から取り寄せた変わり物の本が多く、よくそれらを求めて様々な者がやってくる。まったく、父もよく集めたものだ。どうやって集めたかはわからない。

 かなりこの前のことだ。本の整理中にある一冊の魔導書を見つけて戦慄した。

 本の題名は「存在の否定」と、哲学っぽい本なのだが、内容がとんでもなかった。

 記されていた内容を要約していうのであれば、<存在するということは万物に認識されることである。よって、有るということを否定するためには、ソレが発生する前にあらかじめ因果を変える、又はソレだけを自分を含めて認識できないようにすればよい。>ということらしい。

 その魔導書から引き出せる力は銀河一個分に高圧縮された忘却のエレメントのようだ。

 銀河一個分の力ということは、要するに一個の銀河を打ち消せるほどの魔力ということだ。

 そんな代物がここに眠っている。

……まぁそんな本ばかりではないが。

 例えばさっきの客が探していた真通骨の書は、骨の魔力の供給スピードを倍速にするコツが掴めるものらしい。引き出せる魔力は変換のエレメント。

 狩猟スケルトン族の一般家庭にもこの本はあるそうだが、うちにある世界に数冊の原典とは違う。

 それはあくまでコストを抑えるために作られた劣化コピーらしく、魔導書の記述はほとんど同じだが引き出せるエレメントの力は弱い。

 かと言って、原典はかかる負担がとんでもなく多いので一般の方がちょうどいいらしい。

 スーツ姿のスケルトンが原典を求めるのはちょっと違和感があるが、無駄な詮索はしないことになっている。

 というかそもそも余程の運や条件が揃ってないと森にすら入れない仕組みになっているのでその必要はないと言ったほうが適切か。

 そうやって難しい回想を巡らせているうちに、彼が接客をしていたようだ。ちょうど本の整理も終わった。

 客は満足して茶色い光沢のドアを押して出ていった。

今日はもう誰もこなさそうだ。閉めようかな。と彼女は思った。

 と、あの分厚いドアから黒い何かが今までにないような勢いで飛んできた。まるで弾丸みたいに。

 そして真っ直ぐに受付近くの本棚にぶつかり、動きが止まった後、そこにドササササと本が覆いかぶさった。

 二人は恐る恐る接近していく…暫くして、オーナーが本を退けようとした瞬間。


「ひゃっ!」


 びっくりして尻餅をついてしまった。

 ピョコっと顔を出したのは、銀色の髪をした少年で、黒いものの正体はマントに身を包んだ彼だったようだ。

 

「くる。」


「へ?」


 彼女は少年に反応することしかできず、尻餅をついたまま思いっきり吹き飛ばされた。

 図書館の内装はこんな時のための緊急回路が作動し、なんとか耐えた。

が、一撃でとてつもない理論で作られているはずのこの建物が半壊している。

 加えて、敵と思われる対象が…さっきの客だ。

しかし様子がおかしい。獣のような四足歩行の体の動きで、至るところに目が生えている。

 このままでは危ない…仕方ないが、とっておきの魔術を使い、敵だけを置いてこの森のどこかに転送するしかなかった。

 今日は次から次へとなんなのよ一体!と文句を言いたいが、今はそんな暇はない。

 

「ルーイン君!少年のサポートを!転送準備を開始します!」


 息を大きく吸ってギュッと目を閉じる。

 図書館の至る所に張り巡らされた結界が赤く光った。


「座標、捕捉対象より魔力探知外へ 

    捕捉対象式:推定7型

    捕捉対象の魔力探知範囲を計算中。

    空間魔力量測定、変位の係数とする。

    空間魔力調整を補正。

    捕捉対象計算完了。

    空間把握完了、固定解除。

    空間魔力変換開始。」


 地面が輝き、崩壊するように揺れる。図書館一帯は粒となって森のどこかに飛んでいく。

 自身をテレポートするくらいなら疲れる程度で済むが、建物ごととなると、脳をフル回転させるためにオーバーフローしてしまう。

 転送が完了した瞬間にすぅっと眠るようにして彼女は倒れた。

 

 まぶたの裏に光が差し、彼女はふと起きた。自分の部屋でいつに間にか寝かされていたようだ。

 ソファーにはあの銀髪の少年がブランケットをかけてすやすや眠っている。

 ルーインが朝食を運んで部屋に入ってきた。


「ああ、オーナー起きたんですね。あれから転移には成功しましたが、オーナーが倒れたので大変でした。オモカッタデスシ…」


 彼女はなんか言った?と眉を潜める。


「まぁいいわ。とにかく昨日の件は父に連絡をとってどういうことかヒントをもらうしかないわね。」


 彼女はそう言ってからサクッとベットから起きて蹴伸びをした。

ヒーッ…今冬も寒うございますね…北の海の道は雪かきが大変でございます。まるでGがいないことの報復とでも言いましょうか、そんな気がしてならないのです。

さて、こちらは私が連載(ちゃんとしてるとは言ってない)しています葉隠雲母のスピンオフとなっておりますが、正直なところ同じ世界というだけで全く今の現状においては関係のないものとなっています。ので多分大丈夫かと。

あとオーナーが使った転移魔術ですが葉隠本編のtopicの通り、人に使って成功した例が少ないという設定があるものの、人に使うという認識ではなく図書館一帯を物として認識して転移させるという裏技を使っていますので失敗する確率はとても低いです。オーナーは魔術の抜け目を使ってチートじみたことができるという怪物的センスの持ち主なのでね。恐ろしや。

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