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弐:出会い

 一方、英慶宮を出た楊毅は頬を数回叩き、気を引き締めて武英殿(ぶえいでん)に引き返そうとしていた。



 一歩踏み出そうとした矢先、右の門から真っすぐこちらに影が迫ってきた。ひらひらと薄手の布で顔を隠しているが、方向から見て間違いなく後宮からやってきた女性であった。


「おっと」


 女性は楊毅の存在に気付いたものの、勢いを殺すことが出来ずに楊毅へ突進した。

 楊毅は飛び込んできた女性――言うまでもなく遼煌であるが――を片手で支えると、寸でのところで彼女を止めた。


「大丈夫ですか? お嬢さん」


 布で口元が隠したままの遼煌が声を出さずに頷くと、楊毅は人の良い笑みを浮かべた。


「怪我が無くてよかったです。人が少ない場所とは言え、今後はお気を付けを」


 楊毅は遼煌の背にあわせ、腰をかがめて目を合わせた。


「その美しい顔に傷がついたら大変だ」


 ようやく追いついた宮女・鄭 博麗(てい はくれい)が、斎宮(さいぐう)から後宮へと繋がる門の前できょろきょろと辺りを見回していた。


「ああ、お迎えですね。では俺はこれで」


 楊毅の言葉とほぼ同時に、博麗は遼煌の背中を見つけ、小走りで向かってくる。


「遼煌様、おひとりで後宮を抜けるのはおやめくださ……遼煌様?」


 普段であれば「抜け出す隙を与えないことね」だの「目を離すから逃げるのよ」だの、自論を展開してくるはずが、何故か黙り込んでいる。

 空を見つめ、呆然としている主の異変に気付き、博麗は顔を覗き込んだ。遼煌の表情は柔らかく、頬が赤色に染まっていた。


 博麗は咄嗟に振り返り、主とぶつかりかけていた男を探したが、後ろ姿すら遠かった。


「……あの人なら、結婚してもいい」


 遼煌の衝撃発言に、博麗の身体が硬直した。




 そして序に戻る。


 その後、楊武と央晧を中心に楊毅の情報を聞き出した。どんな些細な情報にも一喜一憂する姿は父親にすらじゃじゃ馬と言われていた人物とは思えない。すっかり恋する乙女である。


 聞き込みの結果、現在交際している女性は居ない、結婚願望もない、近々北衙禁軍に栄転する、の三つを得た。

 遼煌的には禁軍に身を置いてもらえた方が頻繁に会えるので有難い。父である徳帝に拳を挙げて感謝した。


 しかし、恋する乙女はいつまでも夢を見ていられなかった。


 その後も何度か英慶宮に足を運ぶも、楊毅と出会うことはなかった。

 気付けばあの出会いから数か月が経ち、落ち込む遼煌に追い打ちがかかった。徳帝からまたしても馬付馬(ふば)を選べと言い渡されたのだ。

 相手は、最近頻繁に小競り合いがある地方に配置された都護府長官の息子だ。いわゆる政略結婚である。

 地方の偵察も兼ねた巡行に遼煌も同行することとなり、一目楊毅と再会することも出来ぬまま、彼女は泣く泣く都を出立した。


 それが十日ほど前の話である。

 現在、遼煌は数人の宮女を引きつれ、都から遠く離れた西まで馬車で移動していた。舗装されていない道で、何度もひどい揺れを感じていたが、遼煌は文句の一つも言わなかった。おとなしく馬車に揺られているのには、もちろん理由がある。

 遼煌が馬車の外を覗いた。恥ずかしそうに外を見つめる姿は、この巡行が始まってから宮女たちは何度も見ていた。

 馬車の外には、楊毅と董鶚が騎乗したまま楽しげに話す姿があった。偶然にも護衛の一人に楊毅も選ばれていたのだ。


 数か月前、北衙禁軍に栄転が決まっていた楊毅は、無事に職方司の引継ぎを終えて北衙禁軍へと入隊した。

 そして入隊して一番最初に受けた任務が、地方視察と遼煌の護衛であった。

 本来、皇族には南衙禁軍という皇族直属の禁軍が居るため、自分たちが行く必要があるのか。楊毅は父にそう訴えたが、「行けばわかる」の一点張りで取り合ってもらえなかった。


 そうこうしているうちに当日を迎え、同じ功績から北衙禁軍に選出された董鶚(とうがく)と二人、初任務にして南衙禁軍と合同で護衛を行うこととなった。 

馬付馬…本来は馬へんに付の一文字で「ふ」と読みますが、環境依存文字のため、この通りに記載しております。

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