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猫に小判、ゾンビにPCメガネ

古着屋のマネキン人形の設置から、ずいぶんと客足が増えた。


ありがたいことに店頭の格安セットも動きが良くなったが、本日の天候は雨。

昨晩からの豪雨で、客は姿形も見かけず我々は暇に明かして陳列を見直すことなった。

まぁ、近頃は忙しかったので、たまにはこんな日もありがたい。


「ではマスター。売れない物を裏の棚に片してきますので、箱に分けて準備しといてください」


辣腕店員であるリコくんに言われるがまま作業にとりかかるが、花粉用メガネ.......は、花粉症の人がいないからいらない。

お風呂用のメガネ.......も、みんなお風呂そんな入ってないからいらない。

パソコン用のブルーライトカット.......いらない。

物語シリーズの羽川翼フィギュア.......必要。

ライチ光クラブの単行本.......これもいるな。

ギャンパレのCD.......飾っとこう。


「マスター.......」


「――はいッ!」


「その箱の中にいらない物をいれるのに、いらないものばかり広げて逆になってませんか? 」


「あっ.......いや、はい」


気づくとテスト勉強さながらに、僕の周りは漫画にフィギュアと散乱し転がっている。

大変お怒りでいらっしゃる。

まずい、探し出さなければいけない。

この絶対的窮地に、逆転の一手を.......


「あっ、ほら!この羽川翼フィギュアなんて黒髪と白猫の2体あるよ! 白くて長髪なんてリコくんそっくりだよね! 」


よし! よし! よし!

大抵の男友達ならば、やめろよ~と照れながら満更でもない顔をする必殺のアニメキャラ例えだ。


「ほぅ.......そんなに猫がいいんですね」


そぅ羽川翼と言えば、物語シリーズの猫物語において巨乳委員長キャラ兼猫耳兼メガネっ子なのだ。

これほどの人気キャラに例えられて悪い気がするわけもない。


「巨乳に猫耳.......ねぇ」


リコくんは無表情のまま、僕のフィギュアを雑巾のようにねじ切った。


「いーーーーやーーーー!!!!」


「バカを言ってないで早く片付けてください」


どうも先日から彼女の機嫌が悪い気もするが、この際手元に残ったブラック羽川メガネverだけは死守せねばならない。


ここは大人しく従い、商品をまとめることにした。


「そういえばリコくん」


「今度はなんですか」


――怒ってらっしゃる。


「この世界って僕らにしたらファンタジーな世界なんだよ」


「えぇ、マスターのスマホで見てもそれは分かります」


「でもさ、目の構造なんかは案外普通なんだなーって」


「それはそうでしょう。同じ人間ですからね」


実際、こうしてメガネ屋を開いて1年ほどになるのだが、意外と苦労はない。

不思議なもので、例えばナーサキさんのお父さんは正しく2本足で歩き回る猫だが、目の構造も猫そのもののようで、動くものはしっかり捉えるが止まっているものはそうでもなく、色に対しての反応も鈍い。


逆に娘のナーサキさんは見た目も人間そのものだが、目の構造も人間のようだった。

ようだったと言うのは、解剖をしたわけではないからなのだが、黒目や虹彩などを見る限り奥にブドウ膜、硝子体といった.......まぁ、人間っぽいということだった。


つまり眼球を含めて臓器なども、人間よりならば人間に近く、動物よりならばその動物の特徴に近いと思っていいようだ。



「それでさ、ゴーストとか妖精フェアリーとかもいたりするの?」


以前にファンタジー世界ならではと、ドラゴン、魔法、ダンジョン、勇者なんかのことを彼女に質問した際のことだが、


ドラゴンは存在する.......らしい。

らしいと言うのは、彼女のドラゴンの認識と僕らの認識に多少ズレがあるからのようだ。


魔法はあると聞いたことはあるが、占術や医術の類で、ファンタジーな攻撃魔法は酒の席での噂話か、教会などの権威付けに存在しているとされる事が多く。

概してそう言った物は魔法ではなく奇跡と呼ばれるそうだ。


ダンジョンは主に、廃村や山奥の集落などに野盗や国に良からぬ者が集まった際に呼ばれるらしく好ましくない。


勇者も同様に絵本の中の存在で、王侯貴族や街の有力者の祖先は誰も彼もが勇者だと言われるらしいのだが、今ではその真偽を調べる人間の方が本当の勇者扱いだそうだ。


当時は、「まぁ、実際そんなもんか」と

日々訪れる異形の客に困惑し忙殺されていたが、ココ最近放置できない疑問となっていた。


つまり、僕は、お化けが怖い。

お化けが、というより見えない存在やオカルト全般がものすごく受け付けない。


スプラッターならなんてことはない。残虐な映画を見ながら一人焼肉を嗜むことも、どうということはない。


しかし、お化けは無理だ。『世にも奇妙』『木曜の階段』『本当にあった』なんかの番組は幼少期の僕をボコボコに、それこそボッコボコに打ちのめしてくれた。


「いる.......という噂ですが、どれも眉唾です。居ないという証明も出来ません。」


なるほど.......


そこは僕らの世界同様で、いないという証明はできない。

いわゆる悪魔の証明だ。

いないという証明は、いるという証明になる。

悪魔でも.......もとい、あくまでも、いないことを証明すると言うのは不可能.......とも言える言葉遊びだ。


これは安心だ。

こちらでもオカルトはオカルト。

ファンタジー≠オカルトで安心するのもバカバカしいが.......


「ですが.......」


「え.......」


「――屍人ゾンビならマスターの後ろに!!」


バンッ――


「邪魔するっす!」


「きゃぁぁぁあぁ!」


悲鳴を上げた僕は咄嗟にリコくんの腕にしがみついた。


ゾンビが出た!?ゾンビなんて......え?.......ゾンビ?


「おや、本当にお邪魔したみたいっすね」


雨の中濡れ鼠ならぬ濡れ猫となって現れたのはナーサキさんであった。

お邪魔とは...そう考えたころには、リコくんは笑顔で僕の腕に調整用のマイナスドライバーをあてがっている。


なるほど!スプラッターは見る専門で願いギャッッ!!

僕の腕にはマイナスネジはなかったはずなのだが.......


「それで、ナーサキさまはどのようなご要件で」


リコくんは、丁寧にマイナスドライバーを拭きエプロンにしまう。

彼女に工具の扱いを教えたのは僕だが、なるほど熱心に工具の扱いを覚えたのは趣味と実益を兼ねられそうだったからか。

しばらく、レンズ掘削用のドリルについて教えるのは止しておこう。

僕の体がスポンジボブになりそうだ。


「いやね、表を通りがかったらお客さんがうずくまってたから連れてきてあげたんすよ」


麻の葉で出来た生地、薄いリネンのシャツは雨で見事に透けて肌に張り付き、褒めてとばかりに胸を張るナーサキさんの立派な胸部をより引き立てている。

D.......いやF.......マイナス.......プラス.......ん?


「ナーサキ様、羽織るものをお貸しします。ザルツァ様もこちらに」


間一髪だった。

これからニコンエシロールのレンズは不意に眼球目掛けて飛んでくるドライバーにも大丈夫とセールストークに加えよう。


「マスター」


しかしやはりニコンはいい。

国産カメラメーカーとして名高いが、実はメガネレンズメーカーとして発足、以降カメラ事業に参入したわけだけどカメラレンズのように遠方を見ることに、


「マスター」


重きを置いていると思うよね。

僕個人としては、同様にカール・ツァイスも良いしコダックやペンタックスもカメラで有名なメガネレンズメーカーだけどなかなかにどうして.......


「もう一体のフィギュアも壊しましょうか」


「なんですかリコくん!!」


「お客様です。」


顔を上げると、奥のテーブル席には大柄のスキンヘッドの見慣れた男性が、その見事な肩幅を寄せて肩身が狭そうにしていた。

いや見事なバルクである。

キレッキレだ、ゴリラよりゴリラ。


さて、彼はザルツァさんと言い、酒場『月ノアニス亭』のボーイである。

見事な逆三角形の肉体で、以前は海の向こうの北の帝国で将軍をされていたとかなんとか.......

基本的に大国に囲まれたこの島国は、4つの大国が牽制し合うため、様々な事情を抱えた人や種族が多くあまり過去には触れない暗黙の了解がある。



そして、何を隠そう彼は屍人である。


と言っても、死んでいるとかもちろんそういう訳でなく、この世界のゾンビとはいわゆる代名詞なのだ。

戦場で仮死状態に陥った者や、薬物で我を失った者、宗教を盲信した者などから最近では酒で酩酊した者もゾンビと言われるらしい。


そしてザルツァさんも噂では、10年ほど前に起きた北の宗教紛争に参加し、乏しい糧秣の中辛くも勝ちを納めたが、その際に死にかけたとか薬に溺れたとかでゾンビを名乗っている。



「ごめんね、ごめんなさいねぇイズミちゃん。私みたいなのがお邪魔しちゃって」


さめざめと泣くゴリラ、もといオカマ、いやザルツァさんをリコくんは心配そうに見つめている。


「どうしたんですかザルツァさん。うちに何か用だったんですか」


「この間から少し見にくくなっちゃってね、お客さんから、ほらここに行ったらどうにかなるって言われてね」


「わかりました。マスター、ザルツァさまの相手をなさってください。私はハーブティー、いえアップルティー。体を温めるため生姜湯を作ってきます」


「あたしも手伝うっす」


「はいはい、わかりましたよ」


リコくんに限らずザルツァさんは街のみんなに愛されてる。

僕もその1人で、まさか『不死身のザルツァ』などと雄々しい異名は、検査室に内股で歩く姿から想像もできない。

今も現役当時の肉体美を保つためのトレーニングからか生傷だらけだが、これは仕事のドジのせいからかも知れない。



「で、どうかしら?」


「どうなんですかマスター」


「どうどうー?イズミん」


よもやハーブティー片手の視力検査をするなど人生で初めての経験だ。


ザルツァさんの症状は、目のかすみ、外に出たら景色が白く霞み、夜になると急に見ずらくなる。

しかし、検査で矯正しても近視、遠視、乱視と言った屈折異常はそれほどみられない。


症状の前後に何かあったというわけでもないから心因性という事でも無いようだし.......今日も雨で見ずらくて、ウチによったら照明が眩しくてうずくまってしまったとのことだが.......


「所見ですが、測定の結果だと視力は出てます」


「あら、問題なしかしら?」


「ただ、ある程度の明るさでも暗さでも視力が鈍ってますね」


「ココのようにですか?」


リコくんの顔が近い。

それだけ気になるのだろうが。


「ココ?誰っすか?」


「コラリーちゃんよ。ほら、あの吸血鬼の。あの子最近ウチに来てはリコちゃんの話ばっかりよ~」


そう話すザルツァさんの顔をじっと眺める。

濃いトルコ石の様な彼の瞳は、やはり少し濁っていた。


「ちょっとカラーレンズいれて暗くしますね」


そう言って彼の検査枠に薄いグレーのレンズをいれる。


「あら、これ楽ね。でも足元が見づらいわ。イズミちゃんこれ.......」


「外しますね。足元はどうです?」


「見やすいわ.......普通のことよね」


測定の様子を目で追う2人を無視して、1つの結論が出た。


「恐らく.......白内障かもしれません」


僕らは医者じゃない。

本来なら、プロであるなら病名を告げることはしてはならない。

しかし、この世界でそれを阻むのは眼鏡屋としての僕の矜持だけ。


「白内障って何かしら??」


「白内障とは、.......白内障とは主に加齢やあとは肌の弱い方なんかがなりやすいもので、いずれは誰でもなるものですよ」


言葉が言い淀む。

伝えにくいこともある。


「やだ! 私そんなおばぁちゃんじゃないわよ!」


「イズミんひどいっす! 乙女には言葉を選ぶっす」


「ザルツァさまはお肌が弱い方ですよ」


「あなたたち.......」


.......なんだこの小芝居。

と言うか僕が悪者みたいだ。


「それじゃぁイズミちゃん。これって普通のことかしら? どうしようもないの?」


「いえ、眩しさを抑えて暗くならないメガネで対応できるかと思います。」


「イズミんそれは都合がいいっすよ」


都合のいいメガネなのは間違いない。

眩しくならないサングラスであり、暗くならない透明でないといけないワガママなのだ。


僕は片付け途中のダンボールをひっくり返した。


「マスター.......その箱の中は片付ける物ばっかりで」


「これです、これです」


「マスター.......」


僕の取り出したメガネを見たリコくんは、羽川翼フィギュアを縦に2分割しようとしている。


「だめ!車裂きはだめ!!それにふざけてないですよ.......このPCグラスは」


ブルーライトカットPCグラス、レンズカラーはライトブラウンの気付かないほどの有色のもの。

お値段2980円と丁度小銀貨1枚くらいになる。


「PCなんて今は関係ないですよね」


「まぁーまぁーリコちゃん落ち着いて、イズミちゃんのお話、私も聞きたいの、ね? 」


リコくんが無表情で黙ってるけど、あれはたぶん相当怒ってるなぁ。


「これは元々ギラつきを抑えて、視力を下げない。説明すると細かくなりますが、白内障用のレンズと設計思想が同じなんです。特にザルツァさんは軽度ですから.......どうぞ」


「かけたらいいのかしら?.......あ、そうね、変な感じだけど.......楽だわ。足元も見やすいし。お店のライトもいい感じね。ただ.......」


ただ? 何か間違えただろうか? 透明の方が良かっただろうか。


「少し景色がムーディーになっちゃうわね。あたしの色気が増すって言う心配.......」


「取り上げます」


「嘘よイズミちゃん!!嘘、嘘!こちら譲ってくださらない」



「まったく.......あとこれは今の状態をマシにするだけですからね。無茶はしないように」


「わかったわよ。もぅ」


まったく.......煙に巻かれてるようだ。

本当にこのゾンビはゾンビらしくないというか。ゾンビゾンビゾンビ.......学名ゴリラゴリラゴリラの間違いか。


「じゃ、帰るわね。ナーサキちゃんも送っていくわ」


「うん! じゃーねーイズミん、リコりん」


リコくんは相変わらずの無表情で、手をヒラヒラと振っている。


「あっ、あとねイズミちゃん」


「はい?」


「あなたエスコートお上手ね。うちのアニスちゃんにもオススメしとくわね」


「それはいいんで、そのメガネに慣れたら次は老眼鏡ですね」


「まっ! ひどい」


雨の中フクロウ堂の前だけは、証明が明るく照らしていた。



翌日は久々のお客様が見えられた。


「イズミ殿久々だね。近くを通ったので寄らせてもらったよ」


あのメガネは.......ペルソール.......剣のモチーフにシルバーの矢の装飾.......えっと、


「あぁユアスさん。いらっしゃいませ」


「貴殿はメガネで人を判断してないか.......まぁ良いが、少し最近ネジが緩いようで、見てくれないか?」


そういうユアスさんのメガネは、確かにテンプル、いわゆる腕がパタパタと動いている。


「たしかに.......リコくんこちらメンテナンスしといてくれないかな?」


バックヤードでメガネの仕上がり確認をしていたリコくんに押し付ける。

あとで文句を言われそうだが、仕方ない。


「それでだな、イズミ殿。昨日の雨の中なのだが.......」


「事件.......ですね。犯人でも捕まりましたか」


「耳が早いな.......ここにも何かあったのか」


「いえ、ザルツァさんが来られて、そうじゃないかと」


「そうか、イズミ殿のメガネはなんでも見通す千里眼の様だな。次の私のメガネはそれにしてもらおうか」


「これでも客商売ですからね。お客様を見たら多少は分かります」


「そうだな、ザルツァ殿がか。.......昨日、ひどく興奮した若い耳長種の青年を部下が捕まえて来たのだが、本人は黙秘していてな。しかし、やはり被害者はそうであったか」


「はい、ザルツァさんは目を患っていました。あれは薬や年齢なんかじゃなく、何度も何度も頭を叩いたり、目に刺激を与えた物で特にここ最近症状が悪化したものです。昨日も店の前でうずくまっていたのに、衛兵は何を――」


少し熱くなる僕に、指を口元に立てて静かにするジェスチャーをする。

息を吐き、少し冷静さを取り戻す。


「.......ふむ、イズミ殿は、ザルツァ殿の出自をご存知か?」


「いえ、北の帝国から宗教紛争のあと後遺症でクビになったとかそれくらいで.......」


「そうだな、それは彼の口から言えば正しい。.......しかし、実のところ11年前、帝国は当時政治で国を進めようとした耳長種を疎み、彼らを宗教の教義の違いという名目で虐殺した。その際に、民や兵から信の厚いザルツァ殿を帝国の旗印としたのだ。」


「は?.......なんでそんな、」


「その際、北の耳長種の生き残り多くはこの島国に逃げ延びた。彼らの多くは力を蓄えて北に一矢報いようとしていた。」


「待ってください。そりゃあ気持ちは分かりますが、アリが象を狙う様なもので、北の帝国なんてそれこそ、」


「そうだ、それこそただの自殺だ。無謀と勇気は違う。蛮勇ですらない。そして紛争の際自分の指示で罪のない者同士の殺し合いでザルツァ殿はひどく落ち込み将軍を辞した。その上で耳長種の窮状を知り、将軍としてこの島にやってきたのだ。自身を帝国の旗印としてな」


「バカげてます!!なんでそんなことを」


「そうだな。事情を知る誰もがそれを言ったよ。そうすると彼は『私は不死身のザルツァで、ゾンビだから大丈夫よ』と言って北の耳長種の族長の娘が営む酒場で給仕を始めたよ」


「そんなことをしたら.......!」


「卑怯な物言いだが、この島の耳長種が帝国に攻撃をすれば事は国を巻き込んだ争いとなる。むしろ帝国はこの島を狙う口実の為に、わざと耳長種を逃がした節さえある。しかしその矛先が全てザルツァ殿に向かう今、なんとか問題が先延ばしになっているのだ」


「それこそ衛兵がしっかりと.......」


悔しい気持ちが喉に迫り上がる。

無関係の自分が何を言っても綺麗事なのに、それでもユアスさんに当たる卑怯にひどく喉が枯れそうになる。


「耳が痛いな。我らも時間が出来れば酒場に足を運んでいる。それに耳長種も元々はザルツァ殿を好いてる者も多いのだ。ただ、どうしようもない者も時に出てくるということだ」


「そうですか.......すいません。失礼なことを」


「また失礼なことをしたんですか? マスター」


振り替えると、トレーに調整の終わったメガネを乗せたリコくんが居た。


「あぁリコ殿。ありがとうお代などは?」


「当店での商品で簡単なメンテナンスはマスターの方針で無料です。また買っていただくためですが」


「わかったわかった。また選びに来よう。次はそうだな.......弓だけでなく訓練でズレない物などがあれば嬉しいな」


「マスター、イケメン様がそう申しておりますよ」


「あ、あぁ.......はい」


「?」


「それではここいらで失礼させていただくよ。街の巡回をしてくるのでね」


「なんで、僕にそんな話をされたんですか?」


そう問うと、ユアスさんは僕が下手に調べるよりも教えた方が良いと判断したと教えてくれた。

それも彼なりの街の治安の守り方だと。


ここは異世界だ。

僕がシャッターを下ろし電気を消せば帰れる日本ではなく、紛れもない僕らの世界と異なる世界。


「どうしたのですかマスター」


「いや、なんでもないよ」


「変な.......いえいつもですね」


「リコくんはいつメガネかけてくれるの?」


「やっぱりいつもどおりですね」


彼女はため息混じりに僕を無視した。

そんないつも通りに、気持ちが少し楽になった。

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