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ライバル現る①

「おはようイズミ殿! さっそくだが来て欲しいのだ」


朝一番、開店と同時に店の前にいらっしゃったのは赤毛に高身長のイケメン衛兵隊長のユアスさんでした。

いつもは革鎧に帯刀という格好なのに今日はなんだかいつもと違います。


「お、おはようございます。ユアスさん今朝はなんだかオシャレで……貴族みたいですね」


そう、貴族っぽいんですよね。

膝くらいまでの長い刺繍に金糸の施された緋色のジャケットとシャツ姿は映画で見る貴族! って感じで、普段のユアスさんと違いすぎて見慣れないからつい思ったまんまを言っちゃいました。


「ははっ……そうだな、そうだイズミ殿。今日の私は貴族である領家の者として貴殿に随伴を頼みに来たのだ」


「え? ユアスさん……いや、ユアス様は貴族だったんですか!?」


「ど、どうしたのだイズミ殿いきなり膝などつかないでくれ」


まずいですまずいですまずいです。

貴族っぽいコスプレでしょっちゅう街をフラフラしてるイケメン吸血鬼のコラリーさんと違ってユアスさん、ユアス様は絶対本物でしょうし、僕を騙す理由がないですし貴族様から見たら一般市民なんて切り捨て御免みたいなもんでしょ?

今まで失礼ばっかりというか偉そうにし過ぎたぁ。

え、まさか今からその件で裁判? 絞首刑……拷問……いやいやいやいやそれは無いでしょう。うん。無い無い。それくらいで裁判なんてね。

そりゃ確かに童貞とか言ったり腹黒って言ったりしたけどそんな……あ、これ不敬罪になるやつかな……


「ポリポリ……どうしたんですかマスター。先祖返りして自分が芋虫と気づいて五体投地されてるのですか? ポリポリ」


「あ、あぁおはようリコ殿、イズミ殿は体調でも悪いのか? 地面にいきなり丸く伏せてしまったのだが……」


「いえ、マスターは頭が悪いだけですね」


店先での騒ぎ声を聞きつけて、後ろから朝ごはんの胡瓜のぬか漬け1本丸かじりしながら当店自慢の看板娘が現れましたよ!

貴族様相手に食事しながら……いや店員として立ち食いはアウトですよ!


「リコくん! 失礼してはダメですよ! ユユユユアス様は貴族でいらっしゃってフゴッ!!」


「まぁまぁマスター落ち着いて胡瓜でも召し上がってください」


うん、我ながらよく浸かってて美味しい……じゃなくて喋ってる途中に口に物を入れないでほしい。


「いやリコくん、貴族ですよ! しかも領家とか領主の家の方でしょ! この街の王様みたいなもので失礼があったら大変ですから」


良かった。リコくんもやっと理解したようで驚いてます。


「マスター……」


「やっと分かってくれましたかリコくん!」


「やっと分かられたんですかマスター……」


……へ? どういうこと?


「リコくん……知ってたの?」


「むしろとっくに気づかれてるのかと……クスッ」


「笑いたきゃ笑ってください」


「アハハハハハハハハハハハハハハ」


「やめて! なんか怖くて夢に出そうだからやっぱり笑わないで」


「ハハハハ……そうですか」


たまにリコくんが分からなくなるけど、女心に鈍いからなんでしょうか。


「あー……イズミ殿、私にもそのようにいつも通りで接してくれると嬉しいのだが……」


「え、でも失礼して縛り首とか……いや、鞭打ちとか三角木馬に乗せられるとか……」


バカなことを言ってしまったようで、ユアスさんは頭を抱えてしまわれました。


「誰がそのようなことを……」


「ポリポリ……あ、私は店の準備をしておきますのでお構いなく」


僕に嘘を吹き込んだ看板娘は、素知らぬ顔で残りの胡瓜を食べながら店の中へ帰って行きました。

嘘つきは泥棒の始まりなんですからね!


「それでだな、今日はイズミ殿に私と共に街の港の方に出来たメガネ屋へ赴きたいのだが……ダメだろうか?」


「へ?」


異世界でメガネ屋なんてウチしかないと思ってましたが……え、メガネ屋あるんですか?

確かにガラス工房もあるらしいですし、あっても不思議じゃないと思ってましたがまさか同じ街にあるなんて!

え? え? じゃあメガネの枠が木でできてたり、皮だったり骨だったりするんでしょうか?

見たい見たい見たいです。


「皮は何でしょうか、マトン? オックス? それともカーフ? あぁ夢が広がる! もしかして水牛の角……いやワニ皮もあるんでしょうか? えぇーー豪華すぎませんか」


「イズミ殿……イズミ殿ぉ」


「レンズもガラスでバッファローホーンとか……くぅぅぅ、仕入れたいなぁ。むしろそんな骨の削り出しなんたまさにチャイナボーンの陶磁器のように白いのかなぁコレクションし」


「イズミ殿!!」


え、あ、心の声が全部出てしまってましたか……恥ずかしい。


「ユアスさん……是非、是非とも同行させてください!」


「で、あろうな……よろしく頼むよ」


こうしてテンション最高潮の僕はやや疲れた様子のユアスさんと共に、街でも一等地になる諸外国の貴族や商人向けの港の商業区に向かうことになりました。




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