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リコリスと日陰者

あれは日も傾きだした頃でしょうか。

いつもどおり客の来ない眼鏡屋で、私は一日の勤務も終わる店じまいの準備をしていたのです。


石造りの街並みは薄暗く、夜になれば明かり無しでは歩くことすらままなりません。


開けた通りになっている中心部の酒場辺りを除けば、日が落ちると共に寝る生活の方が一般的で、当店もそれに倣って店をしめることにしていました。


被さる雲のない満月の明るさに、少し叙情的な気持ちになりそうです。


「そういえばリコちゃん聞いたがぁ?最近この辺りにゃ夜な夜な化け物が出るそうだぞ」


「そう言うアナタもよっぽど化け物みたいですがね」などと言いたい気持ちを押し殺し、3メートルほどの巨躯に単眼の牛乳屋のオンクさんを私は見上げておりました。


「なんでもすごい牙と爪らしいべ、食人種ならどうしようか、食われたりせんかなぁ」


「オンクさんなら大丈夫ですよ筋肉質で硬そうですし、食い出も無さそうですし」


「そうかなぁ、特に女の子が狙われるそうだべ、リコちゃんも気ぃつけてくれよぉ」


「ご忠告ありがとうございます」

彼女、1つ目巨人族のオンクさんは怖がりで、いつも市などからの行商帰りは明るい当店の前を通ります。

巨人族の中では小柄で臆病な部類の彼女に限らず、最近では防犯のために明るいうちの前を通る方も増えられました。

ただこれだけの灯り、普通なら高い薪をくべて火で照らすものなのですが、当店の灯りはこの世界のものでなく、店主の暮らす世界からひかれてる電気というものだそうで、何かと魔法じみた不思議な話と常々考えさせられます。


「ところでリコくん、今日こそちゃんとメガネをかけてくれないかな」


オンクさんの大きな背中を見送った私に、さっそく気だるげな声がかかります。

こうやって日々私に、メガネをかけるよう迫ってくる死んだ魚のような目をしているのが、イズミという私の雇い主であり、この世にも珍しい眼鏡を販売するフクロウ堂の店主マスターです。

それこそ嘘のような話に、私も最初こそ驚きましたが、マスターは異世界『ニッポン』からこの店の裏口を使用し毎朝出勤、その後は休憩抜きの9時間労働を終えると、また裏口から『ニッポン』へ帰って行くという、何ともおかしな日々を送る生粋のメガネバカです。


「かけてるじゃないですかマスター、マスターなど噂の通り魔に襲われて、指先から少しずつ臼歯ですり潰されて穴という穴から悔恨混じりの体液を垂れ流してください」


「いやキミのは検査用の備品だから言ってるの。しかも殺し方のプランニングが怖いよ、そんなこと考えながら普段僕と接してたの!?」


彼のツッコミは長く勢い任せ、私のボケに対するレスポンスがこれなら残念な方と言うしかないでしょう。

さすがの私も、日々のため息だけで肺活量が鍛えられる思いです。


「何を仰ってるのですか、この国の方々はメガネを見慣れていません。だからこうして私がかけることでお客様方の測定などの恐怖心を取り除いてると言うのに.......」


「リコくん、キミはそこまで考えてくれてたのか.......」


もちろんそんな考えなどデマカセなんですが、こうすると彼は何も言い返して来なくなるのです。

もちろん私がこんな無骨な検査用の物を使うのは理由があってですが、そこは乙女の秘密ですね。


「じゃ、じゃあ、せめてそのメイド服はやめてくれない? 私服でもいいから、ほら変な趣味の店に思われそうだから.......」


「わかりました。マスター.......この服しか持ってない私、リコは肌を露わにするとします.......うっ」


マスターの要望に従って私は胸元のボタンを外し、目を潤ませてみました。

彼は顔を真っ赤にしてますし、こういった対応に免疫がないことは存じてますので、こうしてからかうのは常なのです。


ただ、その日は少々勝手がちがいました。


「は、肌を晒すだと!ご婦人に恥をかかそうというのか!破廉恥な卑劣漢め!!」


大声と共に店の中に青白い肌で黒で纏めたハットにコートと貴族の子弟の風な装いの男が飛び込んでまいりました。

激高するその方は、マスターに掴みかかり殴りつける勢いで、私は「これはいけない、止めなければ」と必死に考えました。


「そうですお客様! この男が嫌がる私に無理矢理およよよよ」


「許せん!立場を利用し下の立場の者を辱めんとするとは何事か!」


「お客さま! 後ろ!後ろ舌出してるから!リコくんも止めて」


失敗です。お客様の静止に失敗しました。

しかし挑戦した私の精神性は尊いものと理解しております。

人の心とはわからないものですね。

まぁ、マスターにはここからが雌伏の時間といいますか、私腹だけに臍を噛む思いをしていただきたいものです。

人の使い方を学ぶ良い機会になったればという私の優しさも伝われば幸いです。

別に上手いことを言ったなどとは思ってませんが.......


「お客様.......そこまでになさってください。この貧相な、三十路にして矮小で猥褻で歪曲してしまった人間性の店主は私に狼藉を働いていたわけじゃないのです」


「よいのか? 今ならばこの人の形をした汚物は我が矯正してやるが」


「いえ、私も急なお客様の来訪に驚いてしまい、気が動転したのです。それになによりこれ以上はマスターの体ももちそうにありませんので」


そろそろこのやり取りに飽き.......もとい掴み上げられ軽く酸欠で土気色の顔をしたマスターを助けねばと思い至り、お客様の気を鎮めることにしました。


「何と? ご婦人の言うことは本当なのか?」


「えぇ、そうですとも......あなたの耳は女性の声しか届かない仕様なんだと僕は諦めてましたけどね」


「そ、そうなのか。.......許せ。ちなみに本当にそなたがこの店の主か? 」


「えぇ、矮小で汚物な眼鏡屋の店主ですよ」


さてさて、本日の営業終了間近にして初の訪問者というのに、床に降ろされたあとも、犯罪者扱いされたことに拗ねるマスターには困ったものです。


「いや、すまない。ずいぶんと濁った目をした者に美しい婦人が脅されてると早とちりをしてしまった」


そう言ってハットを脱がれたお客様は、烏の濡れ羽の様に黒い三つ編みに結われた髪と、色素が薄く金色に光る月のような瞳。

日に当たったことすら無いような白い肌の美青年。

ハッと私はきづきました。

お客様の笑みから見える尖った犬歯に冷えた肌から、この方は世にも珍しい吸血鬼だと。

不死と名高く、亜人の多く住むこの国にも数人といない存在。

これは是非とも確認せねばなりません。


「失礼とは存じますが、お客様は.......吸血鬼なのですか?」


「いかにもだご婦人。サーの称号をもつコラリー家13代目当主とは我のことに他ならん」


「吸血鬼ですか.......僕は見ての通り不健康な体なので襲うなら定番の若い女性からにして下さい」


「最低ですね」


「見下げ果てたものだな。それに今どき吸血鬼が人を襲うなど聞いたこともないだろう。低俗な噂話だよ」


マスターは卑屈になり自分の株を下げに下げて

ますが、おかげでコラリー様の落ち着いた振る舞いがより目を引きます。


「そうなんですね、てっきり私は美少女ばかりを狙う選民思想の強いお貴族様なんだとばかり」


「そうなんだ、てっきり僕はイケメンで地位も名誉もある人生勝ち組かと」


私としては通常運転ですが、僻み根性のマスターとこういう時ばかり考えが一致するのも悩みものです。


「そなたらはどうにも斜に構えた物の見方が強いようだが、まぁ先に無礼をしたのも我であるし仕方ないか」


「それでその吸血鬼のコラリーさんはどういったご用向きですか? うちはしがない眼鏡屋ですよ」


お尻をはたきながら立ち上がるマスターに、コラリー様は何やら困った顔をされてモゴモゴと口ごもりながら要件を仰られました。


「に、苦手の克服をだな......」


「苦手ですか? ニンニクとか......十字架みたいなことです? 」


「あと他に吸血鬼の苦手なものといえば、銀製品に日光、水流を渡れないことですね。マイナーなものでは特定の周期で生まれた女性などがあります」


「リコくんどこで調べたのさ、そんなの」


「マスターのスマホです」


「.......」


時たま休憩時間にマスターのスマホを拝借していますが、今回それが功を奏したのにマスターは不思議な表情を浮かべています。

それほど画像フォルダに大量のメガネ美少女の画像を保管しているのを隠したいのでしょうか?

破廉恥なので削除済みなので安心して頂きたいものですが。


「あとは吸血鬼の特徴としては圧倒的な筋力や変身能力に魅了などでしょうか? どれも噂話の範疇を出ませんが......」


「いや、亜人の多いこの島国で、我らの多少の長寿や膂力の強さなど大した特徴にもならんよ。変身や空を飛ぶなども噂されたことはあるが、普通に考えてできるわけなかろう? 」


確かに狼男がケンカをしたなどとは、日常茶飯事で誰も気にしませんが、吸血鬼が街に来たらちょっとした噂にはなります。

ファンタジーな伝承もほとんどが嘘......と言うより誹謗中傷の末と考えるのが合ってるかも知れません。


「それだけ顔が良くてフェミニストぶってたら、吸血鬼関係なくモテない男に色々と噂をされるでしょうしね」


「詮無きことよな」


モテるところを否定しないあたりにコラリー様の余裕を感じますし、反対にそこに反応するマスターに余裕の無さもよく分かりますが、あれだけ巷で噂される吸血鬼のお話が、ただの僻みから出た噂とはショックです。

出来ることなら本当に頑丈なのか、試させていただきたかったのに。


「で? コラリーさんの言う苦手とは何なんですか? 」


「そこなのだ! 」


コラリー様は急にマスターの肩を掴んで揺さぶり始めました。

いや、やはり力強いですね。

マスターが壊れた人形のように首がガクガクと振られて、ちぎれんばかりの勢いです。


「確認するが、そなたが噂のイズミで間違いない な! 」


「え......ぇ矮小のイズ、ミですねぇ」


「猥褻が抜けてますよ、ハツカイズミマスター」


「ネズミみたく言わないで」


「ドブイズミ.......」


(その言い間違いキツイよリコくん)


揺さぶられ続け、マスターの中から魂が抜け幽体離脱を始めているように見えます。

マスターはよく振ることで分離する......覚えておきましよう。


「衛兵隊長を治したそなたを見込んで頼みたいのだ! 私を人間にしてくれ! 」


「は? 」


必死な様相のコラリー様ですが、これには私もマスターと同じく不意をつかれ驚きました。

何をいきなり妄言を吐かれたのかと混乱は当然です。


「いや、人間と言うか......人間のようにだな」


「コラリー様、よろしければこちらで具体的に......」


私は要領を得ないコラリー様の話を聞くため、一旦マスターから剥がし、落ち着いていただくためにテーブル席へと案内しました。


コラリー様の飲み物は、ミルクをご希望と可愛らしい気もしましたが、牛乳屋の1つ目巨人のオンクさんから、最近の吸血鬼は血液の代わりに牛乳をよく注文されると聞かされたことを思い出しました。


勢いよく牛乳を飲み干したコラリー様は、落ち着きを取り戻しゆっくりと話を始められました。


「我は......と言うより我々は光に弱くてな、その為多くの同胞は夜間に動き回るのだが、私はどうも夜目も聞かずせめてどうにかならないかと悩んでいたのだ。その中でも、満月の明るい日だけは私でも足元に不安もなく外出できるので、たまにこうして街へ出てくるのだ......」


「昼も夜もほとんど出歩かない引きこもり吸血鬼ですか」


軽口の多いマスターの頭はお盆で叩くに限ります。


「そして先日、行きつけの酒場に寄ったのだが、そこでとある狼男より人の目を魔法のように治す不思議な店があると聞いてな、これはもしやと探していたのだか、なかなか見つからず.......」


「.......最近この辺りを探し回られていたとかですか? 」


「よく分かったな? 恥ずかしいが誰に聞いてもいまいち見つからず今日ようやく見つけたのだ」


なるほど、近頃の噂の元凶はコラリー様なのでしょう。

それにしてもこの噂もきっと、見かけた殿方の僻みか吸血鬼へのイメージからか独り歩きしていたのでしょうね。


「してイズミよ、狼男はこの店の主人は人の目を見ただけで治し、求めるものを与えると伝え聞いた。そこで、私の目のこともどうにかできぬか」


「それだけでどうにかと言われても難しいですね」


「そ、そうか......」


断ったマスターは腕を組んで考えこみ、断られたコラリー様は落ち込んでしまい、なんとも気まずい空気が漂います。

私としては、どうにか今日の売上を確保したいところで、この状況は大変悩ましいですね。


「横から失礼しますが、ちなみにコラリー様は日光を浴びると重篤な症状でも出られるのですか? 」


「ん? そうだな、重篤と言うほどではないが、目が赤く焼け体が熱をもってしばらく寝込むくらいか。死ぬことこそないが、だからといって気持ちのいいものではないな。それに目を赤く血走らせて日中外を歩くと街の者に怯え逃げられる。おかげで普段話す相手もろくに居ない有様よ」


「辛いですねコラリー様」


「ご婦人.......わかってくれるのか、この辛さを」


「もちろんです」


私はコラリー様の手に、そっと手を重ねて安心を誘います。

思っていたより冷えていて、それに華奢な手に少し驚きました。


マスターは先程から何やら考え込んで黙ったままですが、このままコラリー様を感動ムードに持ち込めば、今日の売上には繋がるのは間違いないでしょう。


「コラリー様、私のことはどうぞリコと呼んでください。私で良ければいつでもお話に付き合いますので」


「リコ.......良い名前だ、ありがとう。私のことはココと呼んでくれ。親しい者は皆そう呼んでくれるのだ」


「わかりました。ではこれからはココと呼ばせていただきます」


聖女のようにココに接する私の役者ぶりに、いつの間にやら隣で口を開けて、マヌケ顔で驚いているマスターですが、遊んでいるからには解決策も見つかったことでしょう。

少なくともメガネに関わることであれば、普段とは違って多少頼りになりますし、プロ根性に近いものを発揮するのがマスターです。

あくまでメガネに限っての話ですが。


「で、マスター。私のココの悩みを解決するいい手段は思いついたんですか? 」


「そんな都合よく解決策なんてありませんが、ところでコラリーさんはこの店の照明はなんともないのですかね?」


「そうだな、見つけた時は心配であったが特に何もないな、不思議な火の明かりとは思ってはいたが......」


「店の照明は大丈夫で......日光で焼けるとなると、聞いてた症状だと原因は紫外線ですかね.......」


「紫外線とな?」


「見えない光と言いますか、太陽から光と一緒に降り注いでるものが原因なんじゃないかと......専門用語のようなものと思ってください」


「見えてもいないもの信じろとは、オカルトの様だな」


首を傾げるココの悩みももっともだと思います。

聞いたこともないものが原因だなんて言われてもインチキに思われるのも自然な話です。


「あー、紫外線が認知されたのなんて近世ですし、それもそうですよね.......あ、リコくんリコくん、殺菌灯持ってきてくれないかな? 」


「あの消毒用の古いものですか?」


嬉しそうに微笑んでますが、殺菌灯とは検査枠に紫外線をあて消毒する青い光を出す機械の箱。

菌を殺すと教えられましたが、あまり信じてなく物置代わりに使っておりました。

現状そのままを見れば怒られるかも知れませんが、まぁそのまま渡すとしましょうか。


「どうぞ」と、私が検査室から持ってきたバスケット籠ほどの殺菌灯を見て、予想通りマスターは固まっています。


「なんだリコ、その箱の光は? 陽の光のように不快なのだが」


ココは手で目を覆い、反対にマスターは目を見開いております。

何から何まで反対に見えるお二人です。


「リコくん、これなんで僕の食器やコップが入ってるの? 乾燥機じゃないんだよ」


「マスターにはなるべく衛生的に過ごしていただきたいと思い、殺菌灯の効果を試していました」


つい、マスターの触れたもの全般を入れる習慣がバレてしまいましたが、今は接客優先ですね!

マスターの苦い顔はスルーしましょう!


マスターはコホンと咳払いをし、殺菌灯に顔を歪めるココに向き直りました。


「やっぱりコラリー様の原因は紫外線ですかね。.......そこで!! ててててっててーーーんサングラスぅーー!」


ヤケになったのか、頭が壊れたのかと思うでしょうが、これはネタなのだと先日マスターのスマホで学びました。

ココはキョトン顔をしていますし、こういう伝わりにくいボケをかますマスターはネコ型ロボットよりのび太くん寄りですが.......ちなみに私はドラニコフが好みです。


「え、えっと、とりあえずコラリー様には見やすさと暗さを兼ね備えたG15というグリーンカラーのレンズの物、このサングラスをオススメしますね」


マスターは壁面の陳列棚から、黒いふちのサングラスを1つココに手渡しますが、ココも見慣れないサングラスに受け取る手がこわばっています。


「これをかけるのか? リコみたいに」


「そうです。これはコラリー様のように光に弱い方のために、目を光に蝕まれないよう生み出された最初のサングラスというものなのです」


「そ、そうか、うむ.......しかし、これが本当に効果があるのか? どうも口車に乗せられているような気がしないでもないが......」


マスターの無意味なボケが効果的に胡散臭さを生み出したおかげで、ココの手はにぶったままです。

悲しいほど残念な店主に雇われてしまったと、私の涙も枯れそうです。


「ココ、確かにマスターはうさんくさいと思います。でも私もココにそれを勧めたいの。このサングラスだけで全て良くなることはなくても、ココをきっと助けてくれると思う。それにこれからは私が一緒に悩みますから......ね? 」


「リコ......そうだな。イズミよ! 我はこれをいただこう」


マスターは試着のつもりだったようで、ココの即決に焦っていましたが分厚いココの財布を見て何も言わなくなりました。

まぁ貴族でいらっしゃいますし、欲しければ再現なく買われてるのでしょうから執着も無さそうなものです。



「それでは、また陽の出てるときに少しずつ試してください。ココの無理のないようにお願いします」


「うむ。友であるリコの言葉だ! 何よりの金言としておこう。それにかけて見れば存外暗く感じないものだな。早く試したくて陽の光が待ち遠しいなど、初めてのことかも知れん」


会計を終えたココは満面の笑みで、サングラスを胸元にかけ、黒のハットに黒のコートで夜闇に紛れるように消えて行きました。


本日の功労者の私としましては、 久々の笑顔で表情筋が痙攣してしまい、もう今日は笑顔になれそうもありません。

久々に疲れましたが、あとは店の鍵をかけるだけです。


「すいませんリコくん。頑張っていただいたのに1つしか買ってもらえず、しかも原因が紫外線じゃなかったら返品もあるかもですし.......」


......ココがサングラスを即決したあたりからずいぶん静かだと思えば、珍しく凹んでいたなんて、少し想定外と言うか驚きました。


「大丈夫ですよマスター。ココの欲しいモノはしっかり用意できましたから」


「え?サングラスは実際使ってみないと効果の程なんて.......」


「違います。ココは人とのコミュニケーション、要は友達が欲しかっただけですよ。そうじゃなきゃ人間になりたいなんて言わないと思いませんか? 」


「あ! 」


素直に驚いてるあたり、本当にメガネのことしか頭になかったみたいで、部下としては心配になってきますね。



さて、私は今日も昼の市の御遣い終わりに道草を楽しんでおります。

いつもの顔馴染み、巨人のオンクさんの牛乳売りの露店で、自家製チーズ片手に楽しくガールズトーク。


「なぁなぁ聞いたが、リコちゃんココちゃん。通り魔の噂の次は、夜な夜なメガネっ子メガネっ子と呻く声が聞こえるらしいだ」


「それは恐ろしいな、我は聞いただけで身が竦む思いだ」


「えぇ早く見つけ出して指先から石畳で挟んで磨り潰すべきです」


最近の市に来ると、もっぱらこの顔ぶれが揃うようになってきました。

吸血鬼は珍しがられるもののはずが、今ではココはすっかり街中の有名人で、皆に可愛がられるようになっています。


「しかしココちゃんは牛乳好きだなぁ、おら見てて嬉しくなるだ」


「うむ、栄養もあり滋味深い。血を吸うより余程効率的だ! 我にとってはサングラスと牛乳はもう外せぬものだな」


「いいなぁ、リコちゃんもココちゃんも顔につけるの似合っとるなぁ、おらも欲しいよ」


オンクさんが羨ましいと思うのも分かるほど、今日のココは細身のドレスにサングラスに日傘とオシャレにきまっています。

いわゆる宝塚系と言う奴でしょうか?

小顔に黒髪の下ろしたセミロングの対比がよく似合ってます。

自慢気に牛乳片手にポージングをとっているのも、様になっているから不思議なものです。


「オンクのサングラスも今度我が見繕ってやろう。そなたの方が我より上背があるからな、似合うと思うぞ」


「本当か? ココちゃんに言われると照れるべ」


ココは万事この調子で、すっかり広告塔になってくれています。


そういえば、マスターはココを終始男だと思っていたようですが、本当は女性だと教えたらどうなるでしょうか?

.......なんだかメガネっ子と夜鳴きする被害が増える予感がするので、まだしばらく黙っておくとします。


やっぱりスマホの画像を勝手に消したのは相当堪えたんでしょうか?

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