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7話 王都4

「俺は傭兵ギルドに行ってくるからユナは適当に見物でもしててくれ」

「私も行っちゃダメ?」


 翌日、ジェイクが傭兵ギルドへ出かけようとすると、ユナも付いていきたいと言い出す。


「かまわないが、多分面白くもなんともないぞ?」

「いいよ」


 リエージュのギルドは傭兵と冒険者ギルドの兼用だったこともあり、女性や一見して戦闘をするようには思えないような者もそれなりに居たが、傭兵ギルドは先日出会った野盗と大して変わらないような奴も多く、あまりユナを連れていきたい場所ではない。

 しかし一度見せるくらいはいい勉強になるかと思い直して同行を許可する。


「それじゃ一緒に行くか」

「うん!」




§§§




 ふたりが到着した傭兵ギルドは冒険者ギルドと比べると入り口がやたらと広かった。これは傭兵は大柄な人間、種族が多く、更に武装を含めて全財産を持ち歩く者が多いためだ。

 中に入ると両側に30人は優に座れるくらいの長テーブルが多く並んでいる。冒険者ギルドでは精々8人くらいが座れるものばかりであるからその大きさの違いが判る。

 その理由としては冒険者のパーティの人数が最大でもその程度あり、一方傭兵はひとりふたりで仕事を渡り歩くような者以外は数十人以上の規模の傭兵団に所属する事が多いという違いだろう。


「……なんか凄いね」

「ここはこれで普通なんだがな」


 ギルド内に足を踏み入れたユナがその雰囲気に圧倒される。

 リエージュの冒険者ギルドとは規模も客層も違いすぎるので仕方がないところだろう。


「オイ、こっちだジェイク!」

「ウッズ」


 ジェイクがカウンターで手紙の送り主について尋ねようかとしたとき、その当の本人であるウッズから声がかけられた。

 ウッズはドワーフという事になっているが、様々な種族の血が入っているらしい。

 その証拠と言うわけではないが、大抵のドワーフが160cmを超えない身長なのに対して180cm近くある。そして、それでいて体つきはドワーフ並みの肉付きなのだからまさに筋骨隆々と評すべき体格をしている。


「よく来てくれたな」

「暇だった、とは言わないが最近はそこまで依頼を詰め込んでなかったからな」

「そういえば冒険者に鞍替えしたって聞いたが?」

「たしかに傭兵の仕事はここのところはやってないな」

「……そうか。ところでその後ろの嬢ちゃんは? まさか嫁さんか?」


 ガッシリとふたりで握手をして、再会を祝いながら近況を話していると、ウッズがふと背後に居るユナに気が付いた。


「いやウッズ、ユナは娘だよ」

「よ、よろしく……」


 ジェイクはユナの背中を押して前に出してウッズに挨拶をさせるが、その体格に加えて顔面が傷だらけ、更には片目はつぶれたままで眼帯もしてないという凶相を前にしてさしものユナも腰が引けている。


「随分とでかい娘が居たんだなぁ」

「ユナは犬人なんでな。実際にはまだ4歳にもならんはずだ」

「ああ、そういうえばそういう連中が居たな。んで本題に入るわけだが」


 ユナの紹介が終わったところで、ウッズが前振りはここまでたという感じでジェイクを呼び出したわけを語りだした。


「実は傭兵団を作ろう、――というかもう作り始めててな。それでお前さんにもこうして誘いをかけようって訳だ」

「……そんな事なら手紙に書いておけば良かったんじゃ?」


 ジェイクは手紙には用件が書かれていなかったので、もっと内密な話かと思っていたのでその説明を聞いて拍子抜けする。


「お互い何年もツラを会わせてないってのに、紙っ切れのやり取りで終わらせたらツマランじゃねーか」

「ならウッズが俺のところに来いよな」

「こちとらすでに団長様だからな、ほいほいあっちこっちに行けねーんだよ、コレが」

「その身勝手さは変わらないな……」

「がははっ」


 ウッズの説明にがっくりと肩を落とすジェイク。


「それでどうなんだ? 別に今ここで答えろって訳じゃないが」

「そうだな……」


 ウッズは口は悪いが、見かけによらず細やかな配慮のできる男であり、腕っぷしもジェイクよりも数段上である。

 まさに傭兵団の団長としてはうってつけの人材と言えるだろう。


「お父さん……」

「心配するな」


 考え込んだジェイクを心配げな瞳で見上げてくるユナの頭をなでて安心させてやる。


「悪い話じゃないが、ユナが独り立ちするまでは俺が鍛えてやるつもりなんでな。この話はなかったことにしてくれ」

「独り立ちなんてしないよ、ずっとお父さんと一緒に居る!」

「嬢ちゃんも傭兵なのか?」

「ううん、冒険者になるの」

「そうか、まあしゃあないな」


 ウッズの面相に慣れたのか、ユナは怯えることなくそう答える。


「すまんな、俺にも守るもんってのができちまったんだ」

「イイって事よ。ま、精々幸せになれよ」

「ありがとう。そっちも団が上手くいくことを祈ってる」




§§§




「おい、近衛隊の行進だぞ」


 ジェイクとユナが傭兵ギルドからでてしばらくしたところで、市民の声が耳に入ってきた。

 どうやら王族を守護する近衛隊の行進があるようだ。


「見ていくかユナ?」

「うん、見てみたい!」


 この後用事があるわけでもないので、ジェイクはユナを連れて行進の見学へを向かう。

 どうやら行進と言ってもさほど規模の大きなものではなく、100人ほどが2列で進んでいるものであった。


「ぴかぴかしてるねぇ」

「きらびやかってやつだな」

「王様を守ってるってことはすごい強いの?」


 ジェイクはユナの質問になんと答えるか考える。

 王族の周囲で実際警護に当たっている部隊はおそらく精鋭であろうが、それ以外の――今行進しているような連中は貴族の息子などが拍付けのために入っているだけなのだ。

 はるか以前の王族が戦場で指揮を執っていたころは、その周囲を守護する近衛隊は精鋭の代名詞であったのだが、王族が戦場にでなくなってからはおのずと近衛隊も実践に参加することがなくなってしまったのである。

 そうしているうちにいつの間にか見栄えだけが良い貴族の子弟が集まる集団となってしまっていた。

 しかし、それをこの往来の場で言うのはジェイクとしてもはばかられる。


「……そうだな、王様や王女様なんかの傍にずっとついてる近衛隊は一流ぞろいだろうな」


 とりえあえず嘘は言わずに、余計な部分は切り捨てる方向で話をすることにした。


「へー」


 ユナはその説明に納得したのか、目を輝かせて近衛隊の行進を眺めている。




§§§




 近衛隊の行進見物をした翌朝、ジェイクとユナが泊まる宿に意外な客が現れた。

 リリアナの侍女である。


「よくここが分かりましたね。それと何の御用でしょうか?」

「宿の場所は冒険者ギルドで伺いました。用件の方ですが、申し訳ないのですが守衛所までご同行いただけないかと」

「お父さん捕まっちゃうの?」


 リエージュの街で『守衛所に来い』と言われればそれは逮捕という意味であったのでユナが心配そうになる。


「これは言葉が足らずに申し訳ありません。実は先日の奥様の襲撃の件を守衛隊にお話ししたところ、護衛のジェイクさんにも話を伺いたいと言われまして」

「なるほど、それじゃあ仕方ないな」


 一応ジェイクは冒険者ギルドには話はしてあるが、別に守衛隊と連携した組織ではないのでこのようなこともあるだろうと考える。


「よかったぁ」


 話を聞いてほっとするユナ。


「これからすぐですか?」

「急な話で申し訳ないのですがお願いできるでしょうか」

「大丈夫です。それじゃあ行きましょう」

「私も行っちゃダメ?」

「そうだな……」


 別に取り調べというわけではないのだが、ああいった組織は呼ばれてない人間が来たりするのを歓迎しない場合が多い。


「俺がひとりで行ってくるからユナは見物とか土産物を買ったりしててくれ」

「……わかった」


 ジェイクの言葉に少し不満げながらも頷くユナの頭をなでてやる。


「それじゃあ行きましょうか」

「はい。ユナさんも申し訳ありません」

「ううん、行ってらっしゃい」


 ジェイクと侍女はユナに見送られて宿を出ていった。

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