5
大学が長期休みに入る数週間前、図書館の入り口に設けられたベンチに座りいきなり投げつけられた。
「しばらく会えなくなる」
「え。どうして?」
「少し、メンテナンスが必要になったんだ」
蒼依は、復唱するように呟いた。メンテナンス……。健康診断のようなものだろうか。それとも、どこか身体が悪いのだろうか。それにしても、妙な言い方をすると思ったが口にしない。どのみち蒼依も長期休みに入る前には、テストやらレポート提出があり図書館にも行けなくなる頃なので丁度よかった。
「じゃあ、それが終わったらどこか遊びに行かない?」
「どこかってどこに?」
「夏休みだよ。プールとか海とか夏祭りとかあるじゃん」
蒼依は、指折り数える。
「プールとか海はちょっと……」
ジンは、少し言いにくそうにやんわりと断った。
「そっか。なら水族館とかはどうかな?」
「水族館?」
「そう。行ったことない?」
ジンは頷いた。
「海の生物を飼育しているのは聞いたことがあるけど、実際に行ったことはない」
まただ。また、妙な言い回し。たしかに水族館や動物園は、生き物を飼育し展示している。だけど、そんな言い方をするのはあまり聞いたことがない。
「じゃあ、約束」
蒼依は、小指をジンの方に差し出した。ジンは不思議そうに小指を見つめている。
「ゆびきり!やったことない?」
「ああ」
その時、ジンはなにかを思い出したようだった。蒼依の小指にジンも絡めると、
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます。指……」
そろそろ、チャイムが鳴る頃だ。次の時間、蒼依は講義を取っている。指を切ったら行かなければならない。でも、切りたくない。
「指切らない!」
そう口にしたが、指を離した。
「言葉と行動が伴っていない」
切られた指をしげしげもジンは見ている。
「いいの。約束だからね」
ジンの返事も待たずに蒼依は、教室へと駆け出した。