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見ていることがバレた。咄嗟にそう思った。蒼依は、慌てて本に目線を戻した。文字を追うが内容が全く入ってこない。
「あなたは、この二人の未来についてどう思いますか?」
抑揚のない言葉が隣から聞こえてきた。それは、まるで独り言のようにも感じたが、『あなた』と言われたので、蒼依は、自分に投げ掛けられたものだと気がついた。
この二人とは、主人公たちのことだろう。好きあっているのに結局は、決別を選んだ二人。
「私には、納得できません。たとえ、世界を敵にまわしても私を。彼女を選んでほしいと思います」
正直に感想を言った。
「普通ならそうなんでしょうね。でも、二人は住む世界が違った。自分の住む世界を捨てられなかった」
住む世界が違うのだから当然と言わんばかりの口調だった。
「それでも、私は。私は彼に自分を選んでほしいと思います」
「あなたは、彼の暮らす世界を捨てろと言うのですか?」
そのもの言いは、彼にそうしろと言う権限が彼女にあるのかという言い方だった。
彼女に家族がいるように彼にだって家族がいる。仲間だって、仕事だってある。彼にすべてを捨てさせて彼女はなにも失わないなんて公正じゃない。かと言って、彼女の方にもすべてを捨てることができなかった。それまでの想いだったと言われればそうなのかもしれないが。
その結果、気持ちにふたをして、全部なかったことにして忘れたふりをお互いがした。
「じゃあ、あなたはどうなんですか?」
「僕は、どちらも選びません。彼女も世界も」
「……ずっと、ひとりで生きていくんですね」
「そうなりますね」
そうなんでもないことかのように言った。
人それぞれに感想はあるのが当たり前だと思うが、こういった感覚は、正反対よりかは似ているか同じ方がいいにはこしたことがないと蒼依は思う。
二回目の出会いは、最悪とはいかないまでも好感触とはいかなった。
それから蒼依は、たびたび彼を見かけても声をかけたり、近づいたりはしなかった。
なにも変わっていない。名前すら知らない彼に会う前に戻っただけのことだ。