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柊 蒼依観察記録 3

 初めての出逢いは、図書館だと記録している。

 読みたい本に手が届かない様子の彼女に取ってあげたことから始まった。

 彼女は、僕に本には載っていない様々なことを教えてくれた。

 草花の匂いや人間(ひと)温かさ。感情。それは、僕が持っていない。持つことができないものばかりだった。

 草加の手助けで女性。蒼依の喜ぶことを教わって、実践してみたら成功した。これが人間(ひと)の喜ぶことなのかと理解した。

 蒼依と花火を見に行った帰り、雨宿りをしていると蒼依に好きだと言われた。でも、僕は人間(ひと)とは違う。感情を持たない人工知能型アンドロイド。

「蒼依と一緒になれない。だって僕は……」

次の言葉が紡げない。

 だって僕は、アンドロイドだから。これは、想い合っていても結局は、一緒になれないと草加にしつこいくらいに念を押されていた。

 告白というものをされたが、僕は断った。それからは、なにもなかったかのように蒼依は振る舞っていた。手を握ったり見つめたりした時に身体を強張らせていたのを感じた。

 蒼依と出逢う前は、どうだっただろう。本ばかりの知識。先生に教わる人間(ひと)のこと。

 出逢わなければ、こんな感情芽生えなかった。

 出逢ったからこの感情が芽生えた。

 この想いは、偽りか本物か。創られた想いでもこの想いは他の誰でもない蒼依にだけ使いたい。これは、蒼依が教えてくれたものだ。

 そんな蒼依が、僕を助けて事故に遭い僕のことだけ忘れてしまった。

 僕も、忘れることができたのなら。記憶を消去(デリート)できたらと。

 忘れたい。

 お互い交わした小説の内容も。

 忘れたい。

 あの時、摘んだ草花の匂いも。

 忘れたい。

 一緒に行った水族館。

 エサを求めて竜巻のような動きを見せたマイワシのトルネード。

 水槽の中を自由にダンスしているクラゲ。

 擬態している魚の水槽を見ては覗き込んでどこに隠れているか真剣に探した。

 忘れたい?

 夜空に咲いた大輪の華。

 僕を好きだと伝えた蒼依の顔。

 僕を見る蒼依の笑顔。

 忘れたくない。

 全部、消えていい記憶じゃない。

機械()に体温はないけれどあの時、触れられた温もり忘れたくない。


 井之原教授の希望的観測


 私は、自身が勤める大学の研究室で電源を落とした人工知能型アンドロイドの横で研究をまとめていた。

 人の気持ちは移り気で好意を寄せている相手に気に入られたいと行動を起こす。相手の好きなものをあげたり喜ぶことをしてあげたり。当事者の気持ちなんて考えずに。それは、行動をインプットされている人工知能も変わらない。子どもが、大人のしていることを真似するように人工知能が周りの人間に影響され徐々に覚えていく。そのこととどう違うのだろうか。

 人間の命には限りがある。それは平等に与えられた権利だ。でも。それは、人間だけだろうか?この機械だって、部品がなくなれば、メンテナンスをする者がいなくなればいずれは、なくなる。壊れてしまうことだってある。それは、事実的な死と変わらないのではないのだろうか。

 姿かたち、その人をコピーしたところで本当にその人だと言えるのだろうか。

 創られた感情だとしても偽物だとしても当人がよければ他の人が口出す権利はない。

 その想いは、残酷だ。相手の気持ちを弄ぶような行為だと言った青年がいた。果たしてそうだろうか。確かに、人の気持ちを弄ぶような行為は、褒められたものではない。だが、それは、相手のことを思ってやる行為とたいして変わらないものではないか。 

 そして、自分だけが片想いをしているようだと口にした女の子がいた。果たしてそうだっただろうか。

 あいつは、自分の記憶を消してしまうことだってできた。だも、そうすることを望まなかった。それは、感情が芽生えたことに他ならないんじゃないか。

 私は、そうであって欲しい。これからの研究のためにも。

 君は、どうだい?




 初めての出逢いは、図書館だったと記録してある。

 図書館にいつものように行くと読みたい本にあと一歩届かない女性がいた。後ろ姿だったが、ひと目で誰だか判断できる。 

 僕は、本を取ってあげ手渡し言った。

「こんにちは。僕は、()()ジン。僕と友だちになってください」

蒼依は、微笑み僕にこう言った。

「柊 蒼依です。よろしくね。ジン」

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