1話
蒼依は、一日に一回は必ず図書館に行く。それは、授業と授業の合間だったり、休講になっときだったり昼休みの時間だったりする。他の学生は友だちと楽しそうに話している中、そそくさと身支度を済ませこの日も図書館に向かった。手に持っているのはハードカバーの新刊。持って帰るには少し重すぎる。休み時間の間に読みきってしまいたいと思い席をが探すが、昼休みと涼しい館内は賑わっており、蒼依は、小さく息を吐いた。
『木陰なら涼しいだろうからそこで読もうかな』
受け付けロビーに向かおうとしたときにふと、目に入ってきた。
六人用の座席にぽつんとひとつだけ空席があった。離席しているだけかもしれないと思い隣に座っている青年に小声ではなしかけた。
「ここ空いていますか?」
青年は顔を上げ、無言で頷いた。
『あれ?この人どこかで……』
そう思いつつも席に座りページをめくる。
ページをめくりつつ隣に座っている青年のことがなぜだか気になり横目で盗み見た。
「あ」
思っていたより声に出てしまって少し恥ずかしさに体が熱くなった。
『この間、本を取ってくれた人だ』
お礼を改めて言った方がいいのか言ったところで相手が覚えているとは限らないそんなことを考えていると、ぞろぞろと学生たちが出口に向かって歩き出していた。腕時計に目を落とすと始業のチャイムがなる頃だった。それにもかかわらず隣に座る青年は黙々と本を読んでいる。その背表紙には見覚えがあった。この間、蒼依が借りた本だった。
蒼依は、青年がどんな想いでこの本を手に取ったのか少し気になった。作家のファンかあるいは内容が気になったのだろうか。
この小説は、男女の恋愛を描いたものでお互いが好きあっているのにそれが痛いほどに伝わってくるのに二人は決別することを選ぶというものだった。蒼依はこういうままならなさが理解できるほどまだ大人ではなかったし、自分はそうなりたくないと思っていた。
この人はどう思うのだろうか?主人公のようにしょうがないとわりきり思いを秘めつつ次の恋にいくのだろうか。そんなことを考えていた。さっきからページが進まないことが気になったのか、蒼依の視線に気がついたのか蒼依には、わからないが青年がこちらを見てきた。