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 蒼依は、まさか自分が告白されるとは思っても見なかった。地味だし、本を読むのが好きくらいしか取り柄がないと思っていた。そんな蒼依だったが、ジンに出会って変わった。明るくなった。と、そう指摘された。そう言ってくれた同級生に告白された。

 誰かに好意を持たれて嬉しくなかったわけじゃない。この人がだめだから別の人。何て割りきれなかった。自分の気持ちに嘘をつきたくなかった。好きでもない人と付き合ったところで、ジン以上に好きになれる自信もなかった。

 蒼依の足は、ジンのいる研究室に向かっていた。息を大きく吐きノックをした。中から教授の声が聞こえてきて蒼依は中に入った。

 パソコンに向かっていた井之原教授は、蒼依を見るなり眉根を上げた。

「講義を受けているわけでもないのにすみません」

蒼依は、小さく頭を下げた。

「いやいいよ。なにかあったのかな?」

井之原教授は、蒼依をソファーに座るように促し、コーヒーを淹れた。

「この間の子はいないんですか?」

首を傾げて、蒼依は聞いた。

「この間の子?」

「この前、ここに来たときにコーヒーを持ってきてくれた子です」

蒼依がそう言うと、井之原教授は納得したかのように頷き、少し嬉しそうに顔をゆがめた。

「どうしたんですか?」

「いや、研究生以外にロボットのことをあの子なんて言った人はいなくてね。嬉しくなったんだよ」

井之原教授は、そう言うとコーヒーを蒼依に渡した。

「ありがとうございます」

「ジンとなにかあった?まさかけんかでもした?」

そう言われて蒼依は、首を振って否定した。

「あいつが人間(ひと)と喧嘩するわけないか」

「私、ジンに好きだと伝えたんです。でもジンは私とは一緒になれないって……」

「そうか」

「花火大会の日、ジンはいつもと違っていて私の喜ぶようなことを言ってくれたり、してくれたりして嬉しかったのにそれなのになんで一緒になれないんだろうって。ジンのことがわからないんです」

「一緒になれない理由は聞いた?」

黙って首を振る。

「あいつは、子どもなんだよ。誰かを好きになったことも好きになってもらったことがない。だから好きだという感情も解らない。勝手かもしれないけれどそれを君に教えてもらえると嬉しい。頼めるかな?」

「頼まれてすることじゃないです」

断られると思ってもいなかった井之原教授は、少しがっかりした顔を見せたが蒼依はこう続けた。

「ジン以上に好きな人なんて今は、できそうにないからはっきり嫌いって言われるまで頑張ってみます」

蒼依は、笑顔を見せてはっきりと井之原教授に告げた。


 井之原教授に宣言した通り蒼依は、今までと変わらずにジンに接した。

 日中は、図書館で課題や読書。陽が落ちてくると蒼依の自宅までジンが送ってくれた。

 陽は、暮れてきても降り注ぐセミの声も蒸し暑さは変わらないが、それが日課になった蒼依は嬉しかった。

 ジンへの気持ちは、なくすことができなかったがそんな素振りを見せないように振る舞った。でも、ふとした時に手を握られたり見つめられたりするとどうしたらいいのかわからず胸が締め付けられた。

 車道側をジンはなにも言わずに歩き、たわいのない会話の内容のほとんどはジンの知っている雑学がほとんど。役に立たないと言われてしまえばそれまでかもしれない。

 横断歩道で信号待ちをしている蒼依とジンの方に一台の車がものすごい勢いで向かってくるのを蒼依は、ジンの肩越しに見た。

 蒼依は、精一杯の力でジンを歩道の方に押しやった。

 車は、蒼依を撥ね飛ばし数メートル先で止まり真っ青な顔をして男が出てきた。

 ジンは、蒼依に駆けより抱き抱えた。

「蒼依……なんで?」

頭から全身から血を流している蒼依は、おぼろげな目線のままジンを見ると、微かに口許が動いた。それは、聞き取れないほど小さく、

「ジン……。よかった」

震える手でジンの頬を撫で目を閉じた。

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