草加 彰典的考察 3
あの花火大会は、途中悪天候のために中止となったことを友人から聞いて知っていた。二人を見るのが嫌で花火大会には行かなかった。もっとも人混みの中、見つけることは容易いことではないだろうが。
昨日の天気とはうって変わって晴天。セミの声もうっとうしいくらいうるさい。
俺が、あいつに教えたことは実践できたのだろうか。それを確認するために図書館に行った。すると、図書館にいたのはあいつだけだった。
「お前だけか?柊さんはどうした?」
ジンは、首を振り知らないとだけ答えた。
「嫌われるようなことしたんじゃねぇの?」
俺はからかうようにジンに聞くと、読んでいた本を閉じ俺の方を向いた。
「途中で、雨が降ったから公園の東屋で雨宿りをした。雷に驚いた蒼依の顔にまつ毛がついていたから取った」
事務的に報告するジンの様子を思い描く。もちろん、柊さんとジンではなく彼女と俺に置き換える。
「それで?」
「それで。好きだと言われた。頬がかすかに紅かった。……でも僕は、一緒にはなれないと言った。それで蒼依は、帰っていった」
柊さんは、こいつに告白をして振られた。おそらく泣いているのを見られないようにあの雨の中、帰ったのだろう。彼女がここにいないのは、ジンに会うのが気まずいか風邪を引いてしまったかのどちらかだろう。
俺が教えた通り、こいつは女が喜びそうな行動を取った。キスをするような雰囲気だったのだろう。俺ならそうする。それなのにそうすることなく柊さんは告白したが、ジンに一緒になれないと言われた。俺が人とアンドロイドは一緒になれないと念を押したからだ。
俺は、ほくそ笑んだ顔を見られないように手で隠した。
「そう言えば、柊さんは浴衣着てきたんだろ?どんなのだったんだ?」
「藍色の牡丹だ」
柊さんは、あの花火大会の日ずぶ濡れで帰ったため風邪を引いた。だから次の日、図書館に来なかったことを教えてくれた。
心なしか、目が少し腫れている気もしなくはなかったがあえて口にはしなかった。
図書館入口のベンチに座り、入口の方をちらちらと気にする柊さんからその事を聞いた。
傷心のところにつけ込むようだったが、俺は想いを告げることにした。
「俺、柊さんのことが好きなんだ。もちろん特別な意味で」
目を見開き、柊さんは俺のことを見た。
俺は、手を伸ばし頬にそっと触れるが柊さんは身体を強張らせた。
「ごめんなさい。私、好きな人が……」
「うん。知ってる。あいつでしょ?」
柊さんは、当てられ紅くした顔を下に向けた。
「でも、断られた。違う?」
下を向いたまま頷く柊さんを俺は、痛ましいものを見るかのように続ける。
「俺じゃだめ?」
触れたままだった手が頬を指で撫でる。
「ジンがいいの。草加くんだからだめとかじゃないの。他の人じゃだめなの」
「でも、あいつは一緒になれないって言ったんだよね?」
涙を瞳いっぱいに溜め柊さんは、顔をあげた。瞬きをしたら今にも零れ落ちてしまいそうだ。
「俺が忘れさせてあげるよ」
俺は、柊さんのあごを固定し顔を近づける。
「いや!」
柊さんは、俺を突き放した。
「付き合えなくても私は、ジンへのこの気持ちを忘れたいとは思わない。断られた時、目が覚めたらジンのことを忘れられたらって思ったけど、市立図書館でのことも一緒に行った水族館も……花火大会のことも私には大切な想い出なの」
涙が溢れ出し柊さんは続ける。
「この気持ちもジンへのものだけだから」
そう言うと柊さんは駆け出した。
残された俺は、額を抑え呟いた。
「あんなことするつもりじゃなかったのに。焦ってんのかな」




