10
蒼依とジンは、花火大会が始まるまで屋台を覗く事にした。
お好み焼きの香ばしい匂いやカラフルなチョコバナナ。キャラクターもののお面にお囃子の音。それらは、ジンにとって珍しいものののようでどこか落ち着きがない。きょろきょろと周りを見ては、あれこれ蒼依に聞いている。
ときおり、蒼依の歩みを気にする仕草を見せる度に胸が締め付けられた。
『なんか、いつものジンじゃないみたい』
「蒼依。どうした?」
顔を覗き込み聞かれた。
「ううん。なんでもない」
赤くなった顔を見られないように下を向く。それを誤魔化すようにカゴでできたバッグから携帯を取り出し時間を確認した。
「そろそろ花火が見やすいところに行こうか」
「あぁ」
少し、会場から離れてしまうが前もってジンが下調べしていてくれていた場所は、人もまばらでゆっくりできそうだった。
その場に座り、始まるのを待った。
「足、痛くないか?」
「うん。平気。ありがとう」
本当は言うと少し痛かったが、ジンが気にしてくれたことが蒼依は嬉しかった。
そうしているうちに、一瞬明かりが灯り、空に大輪の華を咲かせた。
周りから歓声が聞こえてきて蒼依とジンは花火に目を奪われる。
「きれいだね」
「あぁ。きれいだ」
最後は、しだれ柳で終わるはずだったがジンが予測していた通りぽつりぽつりと、雨が振りだしてきた。
蒼依とジンは、近くの公園の東屋に逃げ込み雨宿りをすることにした。
「やっぱり、降りだしてきちゃったね」
「そうだな」
雨は次第に強くなっていく。
「少し、落ち着くまでここにいようか」
ジンの提案に蒼依は頷いた。
雷が鳴りその音に驚きジンの手を思わず握ってしまった。
「び、びっくりし……た」
反対の手で握り返され、蒼依はジンの顔を見た。
ジンの顔が近づき蒼依は、目を閉じた。
だが、何も起こることなく蒼依は恐る恐る目を開けてみるとジンは、
「顔にまつ毛が付いていた」
何でもないかのようにジンは言った。
『キスされるかと思った』
今までのふたりの距離感や雰囲気から見て、先に進めそうな期待はなかったかと言えば嘘になる。蒼依は、覚悟を決めてジンに伝えることにした。
「ジン。私は、ジンのことが好きこれからもジンと一緒にいられたらって思う。ジンはどう?」
「蒼依と僕は一緒にはいられない。だって僕は……」
次の言葉はなかった。
「……そっか。わかった」
蒼依は、涙が零れないように上を向いて息を吐いた。
「変なこと言ってごめんね。もう帰るね」
蒼依は、ジンをその場に残して降りしきる雨の中、帰っていった。
全身を容赦なく打ち付ける雨粒。顔が濡れているのは涙なのか雨なのか蒼依にはわからない。帰り道、ずぶ濡れの蒼依を見て声を掛けてくる同年代の男たちがいたが蒼依は、無視をして家に帰った。
すっかり雨水を吸い込んだ浴衣は玄関のたたきに立つとみずたまりを作り、袖口を軽く絞ると濁った水が滴った。身体も心も冷えていた。蒼依は、その場で浴衣を脱ぎ洗濯機に放り込んだ。
ベッドに倒れ込むように入り考えるのはジンのこと。
これまで好きだとはっきり言われた訳じゃない。でも、言われた訳じゃなかったが今までにされてきたことには、期待を持たせるようなことばかりだった。だからこそ、ショックが大きかった。
頭を枕に押し付け嗚咽が漏れないように蒼依は、泣いた。
次の日、そのまま眠ってしまった蒼依は風邪を引いていた。
あのままジンと別れた蒼依は、会うのが気まずかったから丁度いいと思い買い置きの風邪薬飲んでまたベッドに潜り込んだ。
ベッドの中で朦朧としながら蒼依は、目が覚めたらジンのことを忘れられたらいいのにと思い眠りについた。
セミの声に起こされ蒼依は、目を覚ました。額に手の甲を当ててみると熱は下がっている。軽く伸びをするとぽきぽきと音を立てた。
『簡単に忘れられるわけないよね』
あまり食欲がなかった蒼依は、くだものとヨーグルトだけの朝食を済ませて図書館に向かった。




