草加 彰典的考察2
あの男が、人工知能型アンドロイドだということをいまだに柊さん言うことも確認するとこができずにいる。そのために俺は、なにができるのだろうか。俺の方を見てもらうには諦めさせるしかない。
でもそれは、きっと報われない恋だからやめろと言って諦めさせればいいものじゃないことくらいわかっていた。
だから、あいつの気持ちは偽りのものだとわからせるしかない。これは、彼女を傷つける行為だと解っていた。でも、そうするしかなかった。
相変わらず、夏休みの中は、図書館にいるようだった。冷房も効いているし課題も進められるし問題ない。ただひとつ、二人の様子を見せつけられることを除いては。別に覗き見しているつもりはない。近くに座っているせいか嫌でも目に入る。しかも悲しいことに柊さんは、俺に気がついている気配がない。
『そんなに俺に興味ないかね』
机に突っ伏し目を瞑る。机の冷たさが気持ちいい。ほどなくすると自分の体温が移ったせいか不快になって身体を起こす。
身体を起こすとあの男がこっちを見ている。隣を見ると柊さんの姿が見えない。荷物はあるようだから帰ってはいないようだ。話すなら今だと思い近づいていく。
あの男なんていったっけ?あぁ、たしか……ジンと柊さんは言っていた。人工知能でジン……ね。名前からして気にくわない。
「よう。ジン」
俺は、柊さんが座っていた席に腰を下ろした。視線の隅に予定が目に入り“花火大会”の文字。
『こいつと行くのか』
そう自然と思った。正直、邪魔してやりたい気持ちはある。だが、それよりも俺はやるべきことがある。
「柊さんはいないのか?」
「蒼依ならトイレに行っている」
「そういうときは、すぐ戻ってくるとか少し席を外しているって言ってやるんだよ。本当に人間の気持ちがわからねぇんだな」
嫌みたっぷりに吐き捨てた。
「僕は人間の気持ちが知りたい」
「なら、俺も教えてやるよ」
「人間の気持ちなら蒼依に教わっている」
「人は柊さんだけじゃないだろう。それとも知りたいのは彼女の気持ち限定か?」
ジンは思考した結果、違うと判断したのだろう。
「教えてほしい」
そう口にした。
掛かった。
俺は、顔に出さないように笑いをこらえた。
「明日、お前のところの研究室で待っているよ。井乃原教授にも誰にも言うなよ」
ジンは無言で頷いた。
俺は、柊さんが戻ってくる前に自分の席に戻った。
最低な奴と罵られても俺は、彼女が欲しい。ただそれだけだった。
次の日、奴の研究室に行くとそこには、ジンしかいなかった。どうやら教授は、一日中不在らしい。
人の形をした機械やらコンピューターが動いていた。
ソファーに荷物と一緒に腰を下ろす。
「茶も出ないのかよ」
「僕には必要ないから」
そういう問題じゃねぇだろうと思ったが、それをこいつに言っても意味はない。突っ立ってるジンを隣に座るように促し、カバンからレジャー雑誌を取り出して花火大会のページを開いた。全国の花火大会の日程表や去年の写真が載っている。
「女はだいたい、浴衣を着てくることが多い」
俺は、今年の流行りの柄のページをジンに見せた。カラフルな浴衣を着ているモデルはどれも同じ顔に見える。こいつは、柊さんの浴衣を見ることになるんだろうな。
「そういうときは、なんて言うか知っているか?」
ジンは、首を横に振った。やっぱり教えといて正解だった。
「そういうときは、似合っているって言うんだよ。毎回、いうとわざとらしいがおしゃれしてきたときには、そう言ってやると女は喜ぶ」
「わかった」
「あとは、下駄と浴衣は歩きにくいからいつもより歩きが遅くなる。だから手を繋いだり歩きを遅くしたりしてやる」
「わかった」
俺は、雑誌をめくりページを止める。そこには、夜景スポットが載っていた。
「これは?」
「恋人同士やそうなりたい奴が行くんだからお前には関係ない」
「でも、蒼依が行きたいと言うなら僕も行ってみたい」
きっと、彼女なら言うかもしれない。たぶん、恥ずかしそうに言うのだろう。俺が言われたわけでもないのに胸の奥が熱くなる。
「お前には関係ないだろうが、一応、話しておいてやるよ」
人工知能型アンドロイド以前に男の姿をしている相手に嫌だが俺は、実践して教えることにした。口で説明するよりはやい。
よくよく見るとジンは、顔も緻密にできていて柊さんが惹かれるのも頷ける。ただ今は、誰も入ってこないことを祈るしかない。




