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 無事に単位も取れ、蒼依は夏休みの期間中ほとんどを大学の図書館で過ごすことにした。

 着くまでは、暑さとの戦いだが中に入っていれば空調は効いているのでたいした苦ではない。なにしろここにはジンがいる。

 蒼依が課題をやっている間、ジンは本を読んでいる。わからないことを聞けば答えてくれる。

 毎日、顔を見せるようになってもジンは、特になにも言わない。気にする様子もなく本のページをめくっている。

「夏祭りというものには行かないのか?」

「え?」

顔を上げると隣にいたジンが本を閉じ蒼依の方へ身体を向けていた。

「夏には夏祭りがあるとこの間、言っていた」

蒼依は、夏休みのに入る前にそんな話をしていたことを思いだした。ジンが覚えてくれていたことに嬉しくなる。

カバンから手帳を出し確認した。

「あ、今週末にあるみたいだよ」

花火大会の予定を書き込んだところをジンに見せた。

「たしか、この日の天気は、晴れのち雨。降水確率は……」

「待って。言わなくていい」

蒼依は、手でジンの口を塞ごうとした。咄嗟にしてしまったことだったが、その感触にドキリとした。

『唇ってこんなに柔らかいんだ』

他の人の唇なんて触る機会もなかったし、自分自身の触っても実感したことは無かったが改めてそう思った。

「蒼依?」

「なんかジンが降水確率とかいうと予言になりそうでいや。だから言わないで」

塞いだ手を離し、反対の手で触れたところをそっと撫でる。やはり、温もりはない。でも、ジンに触れたところが熱を持つようで熱い。もっと、ジンに触れたい。そう思うと、身体がカッと熱くなった。

「お、お手洗いに行ってくるね」

そうジンに行って駆け足で向かった。


 鏡を見てみると顔を赤くした蒼依が自分を見ていた。軽くパウダーをしているため、顔を洗うこともできない。

「ジンに変に思われてないといいな」

ようやく顔の火照りがおさまりジンのところに戻ると本を読んでいた。

「お待たせ。夏祭り一緒に行こうね。花火もあがるよ」

「花火。火薬と金属の粉末を混ぜ包んだものか。いろんな色があると読んだことがある」

「まぁ、そうなんだけど。ジンがいうと夢がないなぁ。でも、約束」

蒼依は、小指を差し出しジンもそれに絡める。何回、こうやって指切りをすることができるのだろうか。できればこうして約束事を重ねていけたらいい。蒼依は、そう思った。

「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます。指切った」

蒼依がそういうとジンは、蒼依の顔を覗きこみ、

「今日は切らなくていいのか?」

と聞いてきた。

ジンは、初めて指切りをしたときのことを言っているのだ。さっき引いた熱がぶり返し蒼依の顔はまた赤くなった。

「き、今日はいいの」


 約束の週末。蒼依は、本と牡丹が描かれた藍色の浴衣とにらめっこをし格闘していた。

 浴衣なんて年に一回、着るか着ないか。今は、簡単に取り付けられる浴衣もあるが、花火大会に行くことを母親に告げると大喜びで送ってくれた。そんな母親の気持ちを無下にもできなかった。

 格闘の末、無事に着ることができ髪を器用に結いあげる。

 姿見の前に立ってひとまわりし、変なところがないか最終確認をした。

『ジン。なんて言うかな』

ジンの様子を想像し顔をほころばせる。きっと、ジンは褒めたりしないだろう。こういうときは、褒めるものだと教えている自分の姿まで思い浮かぶ。

 浴衣のため待ち合わせ場所に着くのに時間がかかるのを見越して少し早めに行くことにした。空を見上げ、雲行きが気になる。花火大会が終わるまで持ちこたえてくれるのを祈るしかない。

 約束の五分前にジンは来た。いつもと変わらない清潔感漂う服装。

「浴衣」

蒼依のいつもと違う服装を見て自然と口に出たのだろう。

「うん。せっかくだから着てみた。自分でやったから自信ないけど変なところないかな?」

「大丈夫。似合っているよ」

蒼依が予想していたものと違う返答でびっくりしていると手を差し出された。

「危ないから転ばないようにしないと」

「ありがとう」

差し出された手を蒼依は握り返したが心の中では嬉しい反面、いつもと違うジンに少し戸惑っていた。

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