柊 蒼依観察記録2
大学が夏期休暇に入るのを利用して毎年、メンテナンスをする。だが、今回は異例で僕に友達が出来たことを先生が喜び、そのメンテナンスをテスト期間中にやることとなった。
そのことを蒼依に伝える必要がある。
しばらく会えないことを伝えると蒼依は、それが終わったらどこか遊びにいこうと誘ってきた。夏は、イベントが目白押しらしい。
水場の多いところに行くのは、先生に禁止されているからそのことを伝えると水族館はどうかと提案された。大量の水産生物を飼育しているところと認識している。本で読んだことはあるが実際に行ったことはない。
以前、蒼依が言っていた。本で読むのと実際に見るのは違うと。
僕は、その提案を受けることにした。すると、蒼依が小指を差し出してきた。不思議に思っていると、指切りと言われた。
たしか、本で読んだことがある。人間は、約束するときに指切りをするものだと。
そろそろチャイムが鳴る頃だ。このあと、蒼依は授業を取っている。早く行かなければ遅れてしまうと思ったがなかなか離そうとしなかった。やっと離した蒼依は、駆け出していった。
言動が伴っていない蒼依を眺めていると隣に青年が座ってきた。この間の雨の日、騒いでいた学生の一人だ。
「お前、柊さんのなんなの?」
「なんなのとは?」
「だから、友だちか彼氏かってことだろ?!」
青年は、声を荒げて言った。
僕には、この青年が怒っている意味が解らない。
蒼依と僕は、恋人ではない。かといって友だちかと問われれば言葉に詰まってしまう。
青年は、頭をがしがしとかいた。頭をひざにつけぶつぶつと言っているが聞き取れない。
「ジン?」
先生が僕のことを呼び、隣にいた青年もうな垂れていた頭を上げた。
「……友だちかい?」
「友だちではないです」
「まあ。お前が校内に友だちを作るのに反対はしないよ」
「友だちではないです」
「ははは。いつになく頑なだね」
青年は、僕と先生のやり取りをただ黙って見ていたかと思ったら口を開き言った。
「お前、井乃原教授のところの人工知能型アンドロイドだろ?」
そう言った青年を驚いたように先生は見ていた。
蒼依のテストと僕のメンテナンスが終わり、電車を乗り継ぎ同じ県内の水族館に来た。入口で料金を払い中に入る。
館内は薄暗い。
僕が魚や紹介文を読んでいると蒼依は、楽しいかと聞いてきたのでためになると返答すると、蒼依は女の人とデートすることは楽しいというものだと教えてくれた。
蒼依は、いつだってそうだ。僕に本に載っていないことを教えてくれる。先生も人間との付き合い方を教えてくれるけれど感情までは教えてくれない。
途中、薄暗いせいか蒼依が転びそうになったところを支えた。蒼依とゼロ距離。心なしか蒼依の顔が赤いような気もする。危ないのでそのまま手を繋ぎ館内を回ることにした。
エサを求めて竜巻のような動きを見せたマイワシのトルネード。
水槽の中をダンスしているクラゲ。
擬態している魚の水槽を見ては覗きこんでどこにいるか真剣に探す。
水族館を出ると、陽は沈みかかっていた。途中、蒼依が足を止めなにか言いたそうにしていた。
楽しかったかと問われたので女性にとデートした時は楽しかったと答えると返答したらそれは言っては駄目だからねと笑いながら返された。




