プロローグ
アンドロイド……見かけは人間そっくりでできており、中身は『人間酷似型』のもの。見かけだけだと人間かどうか区別がつきにくいものと言われている。それと似ているものが、ロボット。見かけからして機械然としている。また、ロボットとアンドロイドの中間にヒューマロイドと呼ばれるものがある。手足、顔があり、擬人化しやすい。『人間もどき』人間っぽいものを指している。
現在、そのアンドロイドにAI(人工知能)が登載されたものが数多く存在している。理由は、至極簡単。アンドロイドには感情が存在しないからだ。人間特有の面倒くさい自我がなく、疲れや老いがない。雇用する側としては、申し分ない労働者。そんな思想が今の現実だ。
ある日の日曜。蒼依は、大学構内にある図書館に来ていた。
蒼依は、子供の頃から本を読むのが好きで暇さえあれば、読みふけっていた。デジタル化が進んでいる近年、持ち運びに便利な電子書籍もあるが、蒼依は、本の手触りや重量感が好きで今でも紙の本の方を読んでいる。
書棚の上の方に好きな作家の名前を見つけ、背伸びをして手を伸ばしてみたが、あと少しのところで届かない。踏み台を探そうとしたが見当たらなかった。そんなとき、ふと蒼依の上に影が重なった。
「こちらですか?」
抑揚のない声が降ってきて蒼依の求めていた本を渡された。顔を上げ、その方を見ると、きめ細やかな顔立ちをしていて、さらさらな髪質、清潔感漂う服装。蒼依が大学内や街で見る今どきの男の人とはかけ離れている男の人。いわゆる好青年といった感じの男の人が立っていた。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言って、本を受け取ったときに指と指が触れ、それは人の暖かさとはほど遠いものだった。
大学内では、多くの人が出入りするがあんな人がいるなら目にとまったり、噂に聞きそうなところだがあまり構内に友達の少ない蒼依には、この先、関わりがないんだろうなと思い対して気にもしていなかった。
参考文献 「アンドロイドは人間になれるのか」
文春新書 石黒 浩 著