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RE:ライト  作者: 天
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壱話

 誰しも一度は考えた事があるであろう。

 過去に戻ってやり直したい。もう一度あの人に会いたい、あって話したい。

 これらの過去に戻りたいという欲求、願望、懇願。誰もがかなえたい過去に戻る行為がもし可能だとしたら、あなたならどうしますか?


 夢の中に良く出る風景。

 母と行った駅、父と見に行った映画。

 家族との淡い思い出が私の脳裏に焼き付いていたのだろう。忘れていたとは一概にはいえないが、その夢の風景は夢に出てきた時に思い出せた物ばかりだった。

 そして、当然の如く朝は訪れる。

 気が付けばもう19歳、中学生の頃に思っていた『死ぬまで働くつまらない大人』にはならない。

 そんな決意は妄想であり現実ではなかった。

 鳴り響くスマートフォンのアラーム。

 その音は私の夢の中にまで侵入し、私を夢の世界から地獄のような現実へと引き下ろしてくる。

 ああ、うっとうしい。

 永遠と鳴るアラームに嫌気がさし、けだるそうにスマートフォンの画面を叩く。

「今日もまた糞みたいな一日が始まるのか」

 のそのそと布団をはがしベッドから降りる。

 常に散らかっている私の部屋は歩くたびに何かを踏みつける。故に今日も何かを踏みつけた。

「何だったっけこの写真」

 足の裏にあった写真を確かめる。

 そこには花火を背後に肩を組み合う中のよい友人との姿が映っていた。

 まだ何も知らない純粋無垢な私の姿に少なからず憧れを持ってしまった。

 すぎた過去は取り戻す事は出来ないのに。

 虚無感にかられていた私に母が声をかける。

「早く起きなさい!仕事遅れるよ!」

「今行く」

 ため息しか出ない現状の生活。朝も早く夜中に帰って飯を食べ、再び寝床に付く。

 社会人になり気がつけばもう半年。私の思考はおろか口から出る言葉の一言一句が会社の愚痴、辞めたい理由とその訳。

 SNSで見かけるかつての同級生の満喫しきっている写真を見る度自分の人生がいかにつまらない物だと理解するのは容易であった。

「何やってるの!早く準備しなさい!」

「うん」

「バスに遅れるよ?」

「うん」

「うんうん頷いてばっかりでなんで会話してくれないの!?」

「うん.....」

 気がつけば私は口数すら減っていた。

 朝食を食べ、洗面所で顔を洗い自分の姿を鏡越しに見る。

 そこにはこうは成るまいと思い描いていた社会人の顔があった。私は私に酷い嫌気がさした。

「何やってるの早く行きなさい!」

 母にせかされ玄関に無惨にも脱ぎ捨てられたスニーカーを履く。

「いってきます」

 私は各々の準備を終わらせ玄関の扉を開ける。外は生憎の大雨だった。


 傘をさしても濡れるほどの豪雨は私の感情を表しているようだった。

 激しい中にも静かな音を隠している、大きく嘘で塗り固めた壁を盾に泣いている様に。

 無論この感情を抱いているのは私だけではないだろう、横断歩道の先で携帯電話を操作する女子高校生、傘を忘れたサラリーマン。

 誰もがその盾に縋りついているのだろう。

 気がつけば歩行者信号の眩しい赤色は鮮やかな緑へと変わっていた。

「そう言えば今日あの先輩と一緒だな」

 何気なくつぶやいた一言、気が抜けて手に持っていたスマートフォンを落としてしまう。

「ああ、こりゃあ水没してるな」

 横断歩道の真ん中でスマートフォンを拾う。そのよこから誰かが走ったように水しぶきが起る。

「冷たいな。誰だよ」

 後ろを見ると前に居た女子高生が走っていた。

 周りに居た人々が私になにか言葉を投げかけている、その中の一人が指を指した方向を見るとそこには大型のトラックが居た。

 瞬発的な洞察力という物はすごい物でトラックの運転手の姿を見る事が出来た。

 疲れ果てていたのだろう、いい寝顔をしていた。私がスマートフォンを拾う頃にはトラックは目と鼻の先に居た。

 私はトラックの激しいブレーキの音とともに宙へ跳ね上げられた。

「早く救急車呼んで!」

「おいおいマジかよ」

「運転手はどうなってる?」

「おいおいなんてこった」

「あんたがはねたんだぞ!」

「今は喧嘩している場合じゃ」

「救急車はまだか!」

 人々が慌てている。

 私は必死に立ち上がろうとする。

 おかしい。体に力が入らない。

 目に入る風景、耳に入る音。そのすべてが徐々に薄れていく。

「あ....う......」

 声すらも出なかった。

 赤色灯の痛いほど明るい赤色がもうろうとしている私の目に入る。それを眺めているとふと走馬灯のように私の脳裏に今日見た夢が映し出された。

 それはやはりどれもが楽しく美しいだけではなかった。あの頃泣かせてしまった彼、怒らせてしまった彼女。あの頃こうすれば、こんな事をいえば。

 出てきた回答は所詮タラレバだった。

 ヘルメットをかぶった誰かが私の元へと近寄ってくる。

「大丈夫ですよ!」

「3、2、1、で乗せるぞ!」

「3、2、1!」

「しっかりしてください!目を開け........」

 もう何を言っているのか分からない。私の思考はもう途切れかけている。

 死ぬと言う事を日本では天国に行くと考えるが、海外では虚無に吸い込まれると考える所もあると昔なにかの本で読んだ。

 

 思考が止まる間際の感覚はそれに酷似していた。

 吸い込まれる感覚とともに私と言う存在は無くなった。

 つまらなく、無惨な一生だった。

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