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第八話 病室

能力者研究医学部付属センター。

栄光都市の能力者の身体検査も実施している代表的な場所の一つとされている場所。

ここでは最新の機械技術やITの応用により格段に医療技術が発達している。

すぐ審査、診断、治療の備わった優れた病院の一つとして世間の評価も非常に高い。

栄光都市の住人ならば一度は名前を聞いたことがあるだろう。

世界レベルの医者も数人在籍しているぐらいだ。


元々は大量に溢れかえった能力者の研究を行う場所でもあったこともあり、名前はその名残。大規模な研究所はあるときを境にして、数年の歳月経て人々の命を救う場所と生まれ変わった。莫大な費用をかけて修繕された外観はすっかり綺麗になって、太陽の光を受けながら見事に白く輝いている。だが、噂ではこれでも閉鎖された場所がいくつか残っており、使用されているスペースは半分に満たない模様。


外には広々とした駐車スペースが設けられ、同時に数百人まで利用することも可能。現在では一日で診察にくる人々が千を越えることもあるほどだ。

今日も忙しく患者を運ぶ看護婦や診察を行う医者達が慌てた様子で病院内を駆け回る様子が音となって響き渡る。能力者同士の事故や喧嘩からお年寄りの腰痛や少年少女の病気まで。


彼らは目的を持って人々に手を差し伸べ自分自身の力の限りを尽くしている。


一人の看護婦が大和の額の汗を拭き取る。全身に強度の打撃を受けた状態で運ばれた時は驚きを隠せなかった。彼の表情は苦痛よりも安楽を浮かべていたからだ。背負ってきた女性に身を委ねるように安心しきった顔が印象的だった。それに対して病室の前で待機する女性も周囲からかけ離れた珍しい格好をしている。


胸元に締め付けられたサラシにジーンズは印象的だが、彼女の容姿は女性ならば憧れや嫉妬を覚えること間違いなし。適度に主張された張りのある胸に腰のくびれはすっきりしていて、ファッションモデル顔負けのスタイル。

思わす触れたくなる髪の一本一本がツヤツヤに光沢を放ち僅かな甘い香りを漂わせる。


看護婦は思わず自分のお腹の肉を摘みながら溜息を吐いた。


他の患者との共同の病室ではなく、個室の病室に大和は寝かされていた。

落ち着いた呼吸で寝息を立てる大和は柔らかい枕に涎を垂らしながら染み作っている。

寝返りを何度か繰り返している内に窓の日差しが彼の覚醒を促していく。

看護婦が部屋にあった花瓶の花に水差しで注いでるときに大和はパチリと目を覚まして手を伸ばした。


「ひゃぁああっ? 何するんですか君は」


「いやーお姉さんのお尻があまりにも魅力的だったもので。それにこういうのって許されるの子供まででしょ、だから――」


バシンッと乾いた音が響く。



病室の前で壁に背を当てて待機していた音葉は警戒しながら周囲を見渡していた。

大和に接触を試みる者が現れないとも言い切れず、細心の注意を払いながら。

栄光都市からの監視対象として、栄光都市にとって有害な人物であるか否か。

結論が出されるまで誰かしらの目で監視は続くことになる。

それまで身の安全の確保を優先させねばらない。彼の監視と保護が何よりも重要な任務と判断し、上からの具体的な指示を仰ぐまでは現状はふさわしいと思われる対処を選ぶだけにすぎない。


警戒心を高めていた音葉は小さな悲鳴によって刺激され、扉を蹴り破る勢いで押し入った。

手に握られた木刀に力を込めて、近づく者は容赦なく叩き潰す覚悟を決めながら。


「大丈夫かっ! 今私が助けて……大和君。その顔の原因を教えてくれる?」

病室には大和と看護婦が困り顔で平手打ちを食らわせた直後の光景。

大和の左の頬が赤く腫れて手形が少し残っているのが少し見える。

さきほどの悲鳴と状況から察した音葉は小さく笑うと首を傾げた。



「大和君。君は何をしたのかな……? 正直に私に教えてくれるよね?」

笑顔が怖い音葉がにっこりとしながら詰め寄ってくる。表情は普段と大して変わりないがとげのある口調だ。それでも大和は臆することなく平然と打ち明けた。


「看護婦さんのお尻触ったらぶたれた。別に大したことじゃないぜ」


バシンッと二度目の音が病室に響く。


両方の頬が赤くなった大和は涙目になりながら痺れる頬を擦って、不満そうな声で訴える。


「ねーさんもかよ、ひどくないか。俺って一応病人よ?」


「病人は安易に女性のお尻を触ったりなどしないよ。君はどうして女性に対して軽はずみな行動ができるの。……悪戯は控えるように。今度また同じ様なことをしたらお説教だからね、大和君。お返事は?」


「はは、こりゃ手厳しい。綺麗なバラには棘があるってよく言うし。しょーがないか。

看護婦さんの看護服があまりにも似合ってたもんでつい……男性男子には目の毒じゃんか!

目の前に素敵なお姉さんのお尻があるのが悪い! 俺はやめないぜ」


「君は……もうっ」


音葉の指先が額に当てられてツンと一度突き離れ、お仕置きの意味も含めて優しく諭された。

責任を感じていた音葉は看護婦に変わって少しばかり身の振舞い方を説教したが、

まったく反省しておらず、それよりも年上の女性二人に構ってもらえる状況に満足していた。

大和は綺麗な女性を発見する度に積極的にアプローチすることをやめる気はない。

己に言い聞かせて揺るがない決意を心の内で言い聞かせた。


(ねーさんには悪いけど、俺だって女の子と楽しい時間を過ごしたいの。それにできればねーさんや香織さんと付き合いたいぐらいなんだけど。どうせ、相手にされないだろうしな。ここは色んな女性と触れ合って女性の喜ばせ方を学ぶべきじゃん。でもねーさんには嫌われたくないし……だけど俺はこんな性格だったっけ)


自分に訪れた感情の変化や心の動きに少なからず疑問を抱いていた。以前の自分なら人と触れ合うことが自体が面倒なことばかりだと決め付けて行動していたが、それに対する抵抗感が少なくなった気がした。それに今の自分の振る舞いの方が窮屈なつまらない男よりはずっと賑やかで気に入っている。

好みに関しても年上の聡明な部分や安心感を感じる印象が強くなっていて、身を預けてしまい衝動に駆られている。


音葉に対する好意的な感情は抑えが効かなくなるほどに。


「大和君、ちゃんと私の話を聞いているの? はぁ・・・・・・本当に申し訳ありません。

大和君には私からきつく叱って置きますから、どうか気分を悪くなさらないでください。

彼は私に対しても積極的に触れ合おうとしてくるんですよ」


既に看護婦の女性はまったく怒っておらず、愛想笑いを浮かべた。


「い、いえお気になさらず。私も少し驚いてしまって、ビンタする気はなかったんですけど……。

だ、大丈夫?」


「平気平気、俺って頑丈だから気にしないでよ。ごめん看護婦さん、また触らせて……。いや、反省してます。ねーさん、そんな俺を哀れむような目で見ないでくれッ! ねーさんには嫌われたくないッッ」

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