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第一話 寝起きは最悪

完全リメイク中。しばらくお待ち下さい。

世界が変わるのは人類の新たな可能性の始まりに過ぎない。


二十年前。

人々の生活は劇的な変化を遂げているが、人間自身に変化が訪れることなく歳月が流れた。

機械の発明、文化の発展、世界各国の貿易など当たり前になっていた時代。人類は確かに繁栄したと言えるだろう。無機物な建物に囲まれた街に走る車のエンジン音。通学路を通っていく学生達の姿なんてものは特に珍しくもない現代。だが世界は何気ない出来事で変わることすらありえるのだ。


それこそ、ある女性が留学するために日本に訪れたのがきっかけだった。


女性は後に『全ての母』と呼ばれるほどの存在であったが、何故そう呼ばれたのかは明白な理由がある。彼女自身が既に人を越えた特別な力に恵まれていたからだ。

それは常識を覆すような力であり、『能力者』と後に名づけられた。まるでおとぎ話に出てくるような不思議な力を彼女は確かに持っていたのだ。日本政府はその力の研究をするために彼女を保護したが、彼女の出身であるロシア政府も興味を示していた。


結果として、彼女の所有権を互いに主張する日本とロシアの関係は最悪な状態にまで陥っていくことになったが、彼女は互いの政府に嫌気が差して脱走を決意し、世界の在り方を変えてしまう事件を不覚にも引き起こしてしまう。彼女の影響によって数多の『能力者』としての力に目覚めた一般人が日本を中心に劇的に急増してしまい『能力者』の存在を隠蔽することが不可能なまでになってしまうが、問題はそれだけではない。


能力者達による暴走や犯罪が急激に増えて、事態は悪くなる一方であった。


日本政府とロシア政府はこの事件を収拾する組織をすみやかに結成させた。『全ての母』と呼ばれた彼女を筆頭に一部の強力な能力者達で構成された組織は『チェーニ』と呼ばれ犯罪者達に恐怖を叩き込み、非常に恐れられた。犯罪を起こした能力者のほとんどがこの組織の活躍により逮捕された。彼らの優秀さを語るならばこの事態を一年も掛からずに収束させたことだ。現在ではこの組織は解体されなくなってしまったが、生きる伝説として彼らは再び自分の道を歩み始めたと記録が残されている。


世界に不思議な力をもたらした彼女の行方も事件と共に姿を消した。

それでも、彼女は人類に新たな可能性を与えた。

『能力者』彼等は異質の目で見られていたが、緩やかな時の流れと共に人々に受け入れられる存在へと変わりつつある。世界各地では『能力者』を育成する施設を創り上げようとする中で日本は斬新なやり方で彼らを育成しようと試みた。施設を一つの都市として作り上げることによって、能力者達が自由な生活をできることを可能にしたのだ。研究施設による不便な生活に比べてしまえば、彼らにとっても生活しやすい環境であることは間違いなどない。


輝かしい人類の未来を思い描くこの都市は『栄光都市』と名づけられた。


栄光都市では一般人が暮らすような街と大した違いはない。栄光都市が建設された当時は一般人の出入りは禁止されていた。これは不要な能力者と一般人による接触を避けていざこざを未然に防ぐ処置である。当時は牢獄のような都市としての意味合いも強く、偏見を持った能力者の家系から批判が相次いだが、日本政府は数年後には一般人の立ち入り許可を視野に入れた提案を発表し、誰もが住みやすい都市にすることを約束した。栄光都市と名づけられた名前に恥じない都市を国ぐるみで生み出すことに尽力する。


歳月が流れて二十年が経った頃には一般人と能力者が互いに共存することの可能な都市として完成し、約束は果される事となった。


時代の流れに合わせて能力者達の研究も盛んに行われ、わかったことがいくつかある。能力者として目覚めた人物のその子供は能力者として目覚める可能性があるという点。親から子へと継がれる遺伝子のように能力者の家系は誰しもが能力者としての素質を持って生まれてくると言われている。

今では能力者としての素質を持つ『未能力者』と呼ばれる存在が多くいるが、そこから能力者として目覚める者は少なくなってきていた。しかも、年齢を重ねるごとにその可能性は低くなる傾向が考察されており、十三歳から二十歳の間で能力者になることがなければ良くも悪くも一般人となんら変わりのない存在として認識される。


この発見から能力者を育成する学園を作り出すきっかけとなった。未能力者持ちと診断された家系は義務としてこの栄光都市に住むことを命じられるが、悪い話ばかりではない。能力者としての目覚めた人物は優待されており、国の貴重な人材として輝かしい未来も約束されることになる。世界にもこの国にも貢献できる素晴らしい存在として。家族にとっても名誉を得られる機会でもある。


だからこそ、この栄光都市に進んで移住する者も多く海外からの評価も高い、国際的な場所の一つとして先進国の中でも注目されていた。そんな栄光都市に住む一人の入学式を控えた高校生もいた。輝かしい未来を掴もうとするわけでもなく、だらだらと怠惰な日々を送っているだけのまま。


「もう朝か。もう少しぐらい寝てても怒られないだろ、どうせ入学式なんてつまんないだけだしな」

寝ぼけた顔を晒しながらカーテン越しの朝日を睨みつける。日差しが隙間から漏れていてうっとおしくて仕方がない。大事な高校の入学式を控えているにも関わらず、笑みは影に染まり、どんよりとした雰囲気を晒しながら、心底どうでもよさそうだった。


彼は自分自身の興味を持ったこと以外には、理解もせず、話も聞かず無視を貫いた。

自分勝手な性格だと他人からも指摘されたが余計なお世話だった。

他人と関わるだけ面倒だと気づいた時、周囲に自分を合わせるのもすぐやめた。本来の自分はこんなもんなのさと納得しながら。人と関わってきた結果にたどり着いた彼のやり方は少し歪んでいた。


それが正しい行いかどうかわからずも楽な逃げ道でもあることはわかっていたから。


入学式に参加したところで数多の人間と仲良くなれるわけでも、これから続く長い関係など卒業してしまえば終わりなのだ。だから、最初から期待もせずに自分の思ったように生きた方が煩わしい友情とか恋とか青春に惑わされることなく生きていける気がするはずだと。排他的な性格の彼が心を開いているのは父親と特定の人物だけである。


「最初から期待なんかしちゃいないさ……」

枕に顔を埋めながら小さく呟いた声は部屋の片隅にも届かず消えていく。朝日は眩しいほど輝いているのに気分は最悪だ。それでも気の進まない支度をしなければいけないのは何故か。目を擦りながら、小さな机の上に視線を送る。机の上には乱雑に置かれた鞄と教材達の中に生徒手帳も紛れていた。

表面にはわざと目つきの悪い顔で映った写真が見える。その下には彼の名前が記載されている。

神埼大和、これが彼の名前だった。生徒手帳を手に取り鞄の中に放り込んでいると、一階から騒がしい声て呼びかけられた。


「大和ー!朝だぞ、ご飯の時間だっ」

疲れ知らずの精力的な男の名前は神埼大吾。大和の父親である。どうすれば意欲的に日々を振舞えるのかと羨ましくも感じていた。数分後に大和はゆっくりと階段を下り、眩しい笑顔に迎えられた。

健康的な肉体と筋肉はよく引き締まっており、大柄な体格もあって格闘家にでもなれそうな見た目をしている。だが実際はペットショップの店員である。


それに、こんな容姿にも関わらず料理や家事ができるのは驚きを隠せない。母親がいない大和にとって必要だからこそ、父と母親の役割を果すことができるように努力した父の賜物であろう。少なからず父に大して感謝の気持ちを抱いていたが言葉にすることはなかった。正確には恥ずかしさとくすぐったい部分が感謝の言葉を告げるのを邪魔していた。素直になれないのである。自分自身が暗い気分の朝を迎えようが、日々代わらず明るく振舞う父には太陽と似たような暖かさを感じる。目先に映るテーブルの上に置かれた朝食は入学式当日のこともあって、普段より少し豪華な食材を使っているようだ。


「しっかり食べるように、今日は大事な日なんだからな! 入学式だぞ入学式!」


「なんで俺より父さんの方が楽しそうなんだよ。代わりに行ってほしいぐらいだよ」

不満そうな声で大和は言ったが、表情は少し和らいでいた。

そのまま、朝食を楽しみながら何気ない会話をしていく。息子よりもはしゃいでいる父親の姿に少し呆れながら、考えてみる。高校生活が始まることによって、起こる環境の変化は楽しいのかもしれないとほんの少し芽生えた興味を実感していた。


もしかしたらという淡い期待や楽しい日々が待っている可能性だってある。大和の心情を察した父は優しい声で励ました。


「大和、少しは自分に自信を持ったらどうなんだ? 父さんがお前の頃は、はしゃいで夜更かししてたぐらいだ。今日は余計なことは考えずに他の子と同じ様に素直に楽しむべきじゃないのか。そうだっ……一緒に行ってやろうか!」


「一緒に行くわけないだろ! それに仕事があるだろ香織さんとこの。勝手にサボる気かよ」

父親が働いているペットショップの店長の名前は三葉香織。個人経営の小さなお店だが評判もよく客足が絶えないことで有名であった。

大和にとっては幼い頃からの知り合いでもあり、父の職場という事もあってよく遊びに通った思い出が鮮明に残っている。独身であった彼女も大和を自分の子供のように可愛がっていて、母親のような存在であった。その名残なのか現在でも少しばかり子供扱いされることがある。


「なーに香織さんなら笑って許してくれる。あ、いいことを思いついたぞ。香織さんも大和の入学祝をしてもらおうじゃないか!」


「嫌だよそんなの、大したことでもないのに迷惑になるだろ。それに、苦手なんだよそういうの。恥ずかしいだろ特に香織さんの前じゃ余計にさ」

心の底では嬉しいと思っているが、口では嫌がっているような事ばかり言ってしまう。素直になれない大和は食べることに集中して気を紛らわそうとしていたが、大吾はニヤニヤしながら言い放った。


「お前もそういう年頃になったんだな息子よ。わかるぞ、最近の香織さんは更に色気づいてきた。俺も隣で立っていると男として……我慢がならんッ。わかるか、隣にいるだけいい香りがするんだ、香織さんだけにだ!」

話の聞いていない父親に呆れた顔で溜息をついた。父親の渾身の親父ギャグに愛想笑いを添えながら手元にあったコップの水を飲み干す。普段から、暇があれば思いついたギャグを何度も披露する親父ギャグ機械の相手は気がつけば日常のような感覚で慣れてしまっていた。大和にとって香織は特別であって、黙っていても受け止めてくれる心の拠り所である。


彼女の為なら無茶なことだってやり遂げようとするだろう。それほどまでに彼女の存在は大きいのである。


「一つ言わせてよ、父さんに香織さんが恋心を抱くようなことは絶対にない。俺が保障するし父さんは絶対女心って奴を理解してるとは到底思えないね、ついでに歳も離れてるし期待するだけ無駄だって」

香織の話題となると自然と大和は饒舌になっているが、本人は自覚していない。


「まともに女の子と遊んだことのないお前に言われるとは父さんは傷つくぞ」


「……俺の方がなんか傷ついたよ」

ここまで読んで頂きありがとうございました。次回の更新も楽しみにして頂ければ幸いです。

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