プロローグ1 革命
「キング、人間たちは予想以上に勢いづいています。もうまもなく城へ侵入を許すかと」
王の間、と呼ぶにふさわしい広く荘厳な場所に二人の男が構えていた。
ミラーという愛称で呼ばれるレイディーア王は微塵も焦る様子を見せない。対称的に手前に立つ護衛は落ち着きがなかった。
「城の中にはゴリアテや不死者がどれほどいると思っている? 辿り着ける人間はいないだろうよ。1500年守り抜いたこの王の間を破れる人間はそういまい。来れたとして、たった一人の天才か悪運が強い馬鹿だけだ」
高い塔のような形をした城からは、人々が隊列を成して侵入しようとする姿が模型のような小ささで望める。適当に発砲するだけで何人か死にそうなものだが、レイディーア王はそんなことはしない。
武器は剣のみ。そう法で定め、その不死の魂でもって世界から火薬とそれを作れる者を消し去ったからだ。剣という原始的な武器は、力の差がそのまま勝敗になる。不死となった王の軍勢に剣で勝てる人間はいない。あえて便利な武器を捨てることで勝利を確実にしたのだ。
「何やら足音がする。伝令か?」
護衛は全く音を立てずに剣を抜く。階段をかけ上がる音、扉に手を触れる気配。
「誰でもいい。入れ」
姿を現したのは鎧に身を包んだ屈強な男だった。間違いなくこの城の者ではない。
「名乗れ、天才か、はたまた馬鹿な人間よ」
「革命軍前衛隊隊長、サイラス」
「勇敢な男だ。城の不死者はどうした? ……どうやら馬鹿ではないのかもしれん」
「私たちはお前の暴政に抵抗するためやって来た。貴様が何者か知っているぞ、不死者め。お前は許されざる禁忌だ。そしてお前は不死者同士で同盟を作り、世界を統一した。その間決して平和になったことなどない!」
レイディーア王は全く表情を変えない。身に付けた鎧の色の方がまだ感情がある気がするような。
「……人間。私はお前たちの革命など全く気にしていない。千年の間に何度もあったし、どれも勝利したからだ。しかし私が気に入らないことがある」
レイディーア王が鎧で顔を覆う。腰を上げ、一歩踏み出す。ただそれだけで場の緊張がより張り詰めて割けそうになる。
「私は『決闘は必ず一対一で行う』と法で定めた。今眼下で起きている戦乱を非常に残念に思う。群れなくては戦えぬ人間を、やはり哀れだと言わざるを得ない」
サイラスも剣を握り直した。一瞬でも死に臆した者は、飲み込まれる。場の空気全てが敵対している。
それを乗りこなすように、レイディーア王は一歩づつサイラスに近寄っていく。
剣を握る護衛を片手で制した。
「だがたった一人で王の間に来たお前からは、ある種の精神力を感じる。法で定めたからどうこうではなく、一人の剣士として敬意を払おう」
王は右手を天にかざす。王の右、神の右、世界を握るその右手を。
とてつもない数の光の粒子が集まり、いつの間にかレイディーア王の右手には鏡のように曇りない剣が君臨していた。
「構えろ、人間の天才よ。この『鏡の刃』でもって冥府へ送り届けよう」