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 家へ帰ればすぐに夕食だが、透はあまり空腹を感じていない。資料の細かい不備を課長に(なじ)られた吉尾が拗ね、その機嫌を取るべく誘った昼食であれこれ頼みすぎてしまったのだ。

 駅のエスカレーターを降りて、駐輪場へと歩く。屋根下の蛍光灯が音を立てて点滅している。コンクリートの隙間から雑草が伸びている。襟首の熱を(さら)う、薄闇の風。透は片手でシャツのボタンをひとつ開け、指で襟元を緩めた。


 道草でも、散策でもない、気ままな回り道だった。学生の頃から、こうして無為に自転車を走らせることが好きだった。それほど遠くには行かず、といって近所でもない、日常で使うことのない道。見慣れぬ景色に囲まれてペダルを漕いでいると、自力で進んでいる実感が強く沸いてくる。

 通りから逸れて畦道(あぜみち)に入ると、稲穂が音もなく揺れている。向かい風で速度は思うように上がらないが、それに逆らうことこそ走る行為そのものだった。

 空には少しずつ、静かに闇が注がれてゆく。堤防の向こうの雲はまだ光を湛えている。空が広く感じられるのは、いつもより視線が上向いているからかもしれない。


 有里の宿題は終わっているのだろうか。マンションの外灯はいつも明るすぎる。しかし、それでもいいと透は思った。

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