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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
そのとき、それから
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6、それから~アリ君の場合 2~


6、そのとき〜アリ君の場合 2〜






 コンッと、鹿威しの音が室内に響く。


 あちこち探し回って、漸く、トリスを目の前に捕捉出来た。


 なのに、トリスと来たら、まるで私がここに居るのが心外だとでも言う様に、ただただ、私を凝視していた。


 久しぶりに見るトリスは、何かを決意したかの様に儚くも強い決意を感じた。

 このままにしておいたら、彼女は消えて終うんじゃないか、という不安を、否が応にも掻き立てられる。


 言いたい事を口に出そうとして、口の中がからからに渇いているのに気付いた。




(このままでは、緊張で言いたい事もまともに言えんな。)




 私は、出された茶を、一気に口に流し込んだ。


 こんな時だと言うのに、まろやかな甘味と旨味、そして爽やかな苦味が口に広がる。


 その茶のお蔭だろうか。


 少し気分が落ち着いた。



「トリス。私はお前に言わなければならない事がある。」



 私は意を決して切り出した。




「言わなければ、いけない事、ですか…?」




 トリスの声が、震えていた。



(彼女は、こんな声をしていただろうか…。)



 久しぶりに聞く彼女の声に、ちょっと驚く。



ドクン。



 心臓が高鳴った。


 正念場である。




「そうだ。トリス。私には、お前が必要だ。」



 私は、目をさ迷わせながら、言葉を探す。



「お前が居ないと、私の調子が悪いんだ。」




 チラチラと伺うと、彼女の顔が、みるみる赤味を帯びて行く。



「つまりな、私は、お前の事が好きだ。勿論、妹としてでは無いぞ。傍に、居てくれないか?」




 私が言い切ると、トリスは、はくはくと、言葉にならない、息が漏らした。


 そして、何度目かの呼吸の後。




「…いいんですか?アリ君。私が、貴方の傍に居ても…。」





 消え入りそうな震える声で、私に確認した。




「こちらからお願いする。私の傍に居てくれ。頼む。」




 彼女の頬を、ポロポロと、熱い滴が伝う。




「…はい…。はい。アリ君。私は、傍に、居ます。」



 絞り出す様に、彼女は応えてくれた。

 そんな彼女が愛しくて、そっと近くに寄り添うと、緊張の糸が途切れたかの様に、トリスは、意識を手放した。


 危ないと抱き止めると、スッと障子が開いた。



「おめでとうございます。良かったですね。」



スサノオが、其処に立っていた。







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