3、そのとき~トリスの場合 2~
短いです。
3、そのとき〜トリスの場合 2〜
スサノオ君のお屋敷の、一際豪華な一室。桜の花の綺麗な、お気に入りの一室。鹿威しの音が、静かな中に色を添えている。
儀式の間からスサノオ君に案内されたのは、私が好んで使わせて貰っていた、その部屋だった。
私は、鹿威しの音に耳を傾けながら、はらはらと乱れ散る桜の花弁を数える。
(いつ見ても、美しい景色ですね…。時を留めているなんて。いつか目覚めても。きっと、この景色は変わらないのでしょうね。)
穏やかに時を数えていた私の耳は、聞き覚えのある、けれど、今まで聞いたことの無いほど乱れた足音を拾う。
(何故…アノヒトの足音がするのかしら…?これは、幻聴?この期に及んで、今更私は後悔しているのかしら…?いいえ。きっと、儀式のを中断する事で、スサノオ君は、私の心を試しているのね…。惑わされない。私は、休眠するの…。だって、決めたもの。)
ここは、神の家。
感覚を惑わす位、当たり前に出来る場所。
だからきっとこれが、スサノオ神の言っていた、試練。
幻聴なんかに惑わされない。
細波の立ちそうな心。
幽かな胸のざわめきを、思い出の中のアリ君への想いで塗り替える。
一つ一つ、彼との思い出を振り替える度に、心は百年先の未来を向いて、平静さを取り戻して行く。
(なのに、何故…?アノヒトの足音が近付いてくるの…?次は、幻影でも見せるのかしら?ふふ。スサ神の試練は、容赦が無いですね。でも…。揺れ動く心なんて、あの日、あの人の下へと預けてきたもの。私にあるのは、あの人の残した軌跡を護るという、未来への希望だけ。さあ。眠りに就きましょう?)
目を閉じて、自分の心に向き合っていた、その時だった。
スッと障子が開き、スサノオ君が室内に入って来た。後ろに、居るはずの無い、アリ君を連れて。