1、そのとき~トリスの場合 1~
短いです。
[第九章:そのとき、それから。]
1、そのとき〜トリスの場合 1〜
その朝は、清々しい目覚めだった。
いつになくクリアな視界。
明快な思考。
迷いの無い心。
アリ君でいっぱいの想い。
身体が、心が、軽かった。
朝一番に修練と御祓を終え、私は慣れた手つきで着物に着替える。
特別な日に着るという、『振り袖』、というものであると、スサノオ君は言っていた。
丁寧に、身支度を整えてゆく。
普段は滅多にしないメイクアップも施す。
メイクアップの最後に、紅を一筆、唇に掃いた。
自分が出来る事を、精一杯やって、満足して、そして、休眠を迎える為に。
休眠中、体内に不要な物を残さない為に、私の最期の朝食は、霊水を沸かした白湯である。
準備は整った。
粛々と、私はスサノオ君の待つ、儀式の間へと足を運んだ。
ギィッ…。
重たい扉を開くと、目視出来る程神聖な神気が部屋を埋め尽くしていた。
スサノオ君の前に正座する。
スサノオ君の厳かな祝詞が始まる。
頭を垂れ、身体の中に祝詞を浸透させる。
そうして、どれくらいの時間が過ぎただろうか?
スサノオ君が、明らかに途中と判るタイミングで、呪文を止めた。
「トリスさん。どうしても外せない事態が発生したようです。別室でお待ちください。時が、来ました。」
ニッコリと笑い、有無を言わさぬ瞳で、スサノオ君は言った。
神の試練が、始まる。
明日も更新します。