5、試練~彼と彼女の場合 4~
五話目です。
5、試練〜彼と彼女の場合 4
最近のトリスさんのお気に入りは、桜の綺麗な[春の庭]を一望できる部屋で、扉を開け放しての箏のお稽古と、お茶の時間の様だ。
言い付け通り、全身全霊で修身に務めている。
「精がでますね。」
僕が問うと、華が綻ぶ様な笑みを浮かべて、彼女は顔を上げた。
「今までに感じた事のないくらいに、充実した気分なんです。もうすぐ、願いが叶うから、でしょうか。未来を想像すると、心が満たされるみたいで…涙がでるんです。」
「そうですか…。」
僕は曖昧に答えると、彼の事を考えた。
(やはり、彼がぼろぼろな事は、伝えない方が良さそうですね。彼女も、停止する心積もりが出来てしまっていますし。)
彼女の様子を確認すると、僕はまた、彼の様子を覗く事にした。
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「トリスを見掛けなかったか?」
空腹を満たしたアリさんは、トリスさんの知り合いに、片っ端から声をかけていた。
だが、トリスさんは、見つからない。
当たり前だ。ここ(耶都)に居るのだから。
「見てないぜ?」
「知らないわよ?」
「旅に出る、と言っていたな。」
「元気そうでしたッスよ。」
鬼気迫る勢いのアリさん。
だが、集まらない情報。
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僕は頭を抱えた。
(トリスさん、どんだけ行き先を簿かして僕の下へ来たんですか!?)
僕は、トリスさんとアリさんの追いかけっこを静観する事にした。