4、試練~彼の場合 3~
四話目です。
4、試練〜彼の場合 3〜
別な日、また僕は、外視鏡を覗いてみた。
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アリさんは、更に惨敗続きだった。
そして、誰も、彼を、『軍師』として見ていなかった。
彼は、トリスさんに会いに行くでも無く、自害をしようとしだした。
勿論、全力で、彼の友人達に止められていた。
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こんな状況、ますますトリスさんには伝えられない。
僕が仄めかした試練は、間に合わないかも知れないし、下手をすると、発生しないかも知れない。
はらはらしながら、今日も外視鏡を覗く。
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遂にアリさんは、10連敗した。
彼は、世捨て人になる、と言って、山に入って行った。
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これでは不味い。
僕は、アリさんの血筋を辿り、アレスという男の夢枕に立つ事にした。
他国で加護の届きにくい場所だが、武神としての加護をフルに使って、アリさんの連敗情報を夢に見せた。
正直、もう懲り懲りなくらい、神力を消費した。
だが、これで効果はあるだろう。
もう一度外視鏡を覗く。
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アレスは、怒っていた。
夢で見た事が現実であると確認して、戦術においてのみ、自分を超すかもしれないと思っていた愚弟が、凡夫以下に成り下がっていると知ったからだ。
こんな奴と張り合えるかも知れないという期待が裏切られ、アレスは失望したのだ。
ミールック便を使い、山中に隠った愚弟アリの元へと急行した。
「この愚弟が!凡夫以下に成り下がりおって!!今の貴様には、戦術のせの字もないわっ!思考も集中力も直感も皆無!この馬鹿者がっ!」
散々罵ると、アレスはおもいっきり、アリさんを殴り倒した。
アレスは続けて言った。
「おいっ!愚弟と呼ぶのも烏滸がましいお前!今の貴様には、見所など何一つ無い!こんな精神状態の原因は解っているのか?」
酷く苛立ちながらアレスはアリさんの胸ぐらを掴みながら詰問した。
アリさんは茫然としながら、緩く首を横に振った。
「馬鹿か貴様は!戦術で解決しないのなら、戦略レベルまで立ち返るんだ!貴様の悩みの元はなんだ?」
ガクガクとアリさんを揺さぶりながら、尚も追及する。
「…トリス…?彼女に、酷い態度ばかり執っていたんだ。…好きだと気付かず、『妹』としか見れないと、彼女を突き放した。…散々、彼女に『好き』だと言われていたのに…。」
「なんだ。」
アレスはアリさんをドサリと手離すと。
ずいっと手をアリさんの上へ突き出して。
じゃらじゃらと金貨を落とした。
「そこまで解っているなら、やることは一つだろう。10クラウンある。まずは腹拵えでもして、不調の原因である彼女に会いに行け。会って、伝えて来い。自分の想いを。」
アレスは、アリさんの様子を返り見もせず、くるりと背を向けた。
「とことん手のかかる愚弟だな。これで立ち直れなかったら、今度こそ見捨てるからな。」
そう告げると、アレスはアリさんを残して、ミールック便でその場から帰って行った。
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これで何とか、彼は動き出せるだろうか。
僕は、少しだけ胸を撫で下ろした。