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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
決意
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6、決意~未来への希望~


6、決意〜未来への希望〜 






 アリ君と別れ、色々と事件に巻き込まれた後、私は、学園へと向かった。


 グリーンヒル先生に、事の次第、お互いの兄と姉の結婚が決まり、アリ君と義兄妹になる事を報告する為である。



「で、ですね。先生。私は、この『器』としての機能を悪用されない為の方法を探しに旅を続け様と思います。」




「うむ。自分の道を決めたのだな。よろしい。」




「また暫く戻れないと思います。」




 そう話して、学園を後にした。






 次に、エステルさんのいる教会を訪ねた。

 懺悔室で、エステルさんに面会する。



「お久しぶりです。エステルさん。」



「トリスさんじゃないっすか!お久しぶりっす。で、どんな用件なんすか?」



「単刀直入に聞きます。私は、クレアータです。ですから、そろそろ活動を停止して、暫く休眠に入ろうと思うんですが、教会で、私の身体を保管しては頂けませんか?」



 エステルさんは、じっと私を見詰めて言った。



「本気っすか?トリスさん。それは、教会に、唯一神アーを降ろす『器』を渡すって事っすよ?本当にいいんすか?」




「…。いけませんね。すみません。忘れてください。」




 エステルさんの言葉に、私は自分が血迷っていた事を認識させられた。



 私は、見知らぬ唯一神アーなんかに身体を使われたい訳でも、ややこしい権力争いの道具にされたい訳でも無い。それは、絶対的な拒否反応だった。



「聞いてくれて、ありがとうございました。まだ、自分で頑張れるって、励まされました。ここでの話は外には漏れないんですよね?」




「どういたしましてっす。懺悔室の内容は漏らさないのが鉄則っすね。大丈夫っす。言わないっすから。」





 エステルさんに礼を告げ、私は更に、旅を続ける道を選んだ。




 自分を眠らせる場所を探す為に。



 テクテクテクテク。



 私は歩く。

 歩きながら、考えていた。



(活動停止のプログラムも組みましたし、解除プログラムは、万が一にも発動しないでしょうね…。あの人は、私を私が望む形では想ってくださらないですし。それは、もう、いいんです。あとは、身体の保管場所と、活動停止までの拠点、あと、資金稼ぎ、でしょうか?)



 つらつらと物思いに耽りながら歩を進める。

ふと、顔を上げると、水路の交易都市ケルバーの南門前に来ていた。

 湧水亭まで来てしまっていたらしい。



(リューネさんやアーサガさんなら、いい案を持っているかも知れませんね。)



 そう思って、私は湧水亭の扉を叩いた。



「いやっちゃい!」



 元気よく、マリーシアちゃんの可愛らしい声が響く。

 カイル君の妹さんである。



「こんにちは。マリーシアちゃん。カウンターは空いてるかしら?」



「あい!こちらでしゅ!」



 可愛らしい声で、マリーシアちゃんは席に案内してくれた。




 すると、私に気付いたボーイのカイル君が声をかけてきた。




「こないだぶり!トリス、どうしたんだ?」



 心配そうに問いかけでくれるカイル君。



「うん。あのですね。クレアータの保管場所についての情報を集めているんですよ。」




「トリスは、なんでそんなもんを探しているんだ?」



 至極真っ当な事をカイル君に聞かれた。




「私、クレアータじゃないですか。だから、ずっと生きますよね?それで、どんな保管場所があるのか、興味本意で調べてみようかと思いまして。」




 その発言を聞いていたアーサガさんが口を挟んだ。




「教会とか、他国の力のある神が創った神殿なんかだと、長い年月保管可能なんじゃないか?」




「あとは、遺跡とかにあるのではないでしょうか…。」



 リューネさんも口を挟んできた。




「教会、はちょっとヤなので、他国の神殿とかですね。ありがとうございます。早速向かって見ます。」




「あっ、俺も…」




「お前はボーイの仕事があるから、今回は不許可だ!どうしても行きたいなら、俺を倒してからにするんだな!」



 アーサガさんが、すかさずカイル君を止める。


 私は笑いながら、



「いつもありがとうございます、カイル君。私は私自身の成長も知りたいので、暫く一人旅をします!お気持ちだけ、いただきますね。カイル君。私は耶都に行こうと思います。落ち着いたら、連絡しますから!」



と、一気に捲し立てた。




 そうして、また、私はハイルランドを後にしたのである。




 今後の方針を考えて歩きながら、つらつらと未練がましく、アリ君を想う。

 そして、はっと気付いては頭を振る。



(アリ君とは、もう会わないって決めました。あの人が、私を『妹』としか見れない事は、身に染みて、私が一番実感してます。でも…あの優しい手が、あの優しい目が、他の人に向かう様を、私は許容できるでしょうか?あの声が、私以外を呼ぶのを、許せるでしょうか?生きて活動していれば、義妹として、いつかは必ずその場面を見詰めなければいけない日が来ます。私は笑っていられるの?私は祝福できるの?)




 自問自答するまでもなく、私は、私には解っていた。

 …私自身が、それを許せないことを。


 だから、尚も考え続けた。



(もし、活動停止を解除する日が来るのなら、アリ君が居なくなった後がいいわ。そうね。それなら、私は未来を見られる。あの人の残したモノを護ってゆくの。それは血筋かも知れないし、歴史的な遺跡かも知れないわ。でも、絶対に、後世に名を残す才能の持ち主だもの。何かしらの功績の欠片が、あちこちにあるはず。アリ君の居なくなった世界で、私はそれを守護する役目に着きましょう。)




 それは、とても良い案に思えた。

 思い付いて、すぐに、私は、その案を実行すべくプログラムを設定した。


 今までで一番、充実している自分を感じていた。



(と、なると、やはり、耶都で、スサノオ君を頼るのが、一番安全かしら?教会は不適切って、エステルさんに教えて戴きましたし。)




 そう考える私の足は、自然と、耶都行きの船着き場へと向かっていたのだった。





 そして、耶都に着き。

 前回の様に、スサノオ神社にお詣りをする。

 スサノオ君は、あっさりと私を迎え入れてくれた。


 相変わらず豪華なスサノオ君の御殿の一室。

 その中で、お茶を淹れながら、スサノオ君は質問した。




「雰囲気が大分、落ち着かれましたね。何か、あったんですか?」




 ふわりと微笑み、私は答える。




「ええ。やりたい事が、やっと定まったんです。」




 不思議そうに、スサノオ君が尋ねる。


「やりたい事、ですか?」


ずっ。と、出されたお茶を啜って喉を湿らせる。



「ええ。百年後まで活動を一時停止して、アリ君が残したであろうモノを護る、守護者になろうと思うんです。」




 晴れ晴れとした心で、私は告げた。



「トリスさん。それは、彼との別れを意味するんじゃないですか?貴女は、全ての人との関わりを絶って、満足なんですか?」



 神の視点で、スサノオ君が尋ねる。



「実は、ですね。私の姉と、彼の兄がこの度結婚する事になりまして。本格的に、私はあの人の『いもうと』になるんですよ。私は、あの人が、他の女の人と仲良くしている場面で、平静にはいられない自覚があります。私は、あの人が、私を『いもうと』としか見れないという現実に、疲れてしまったんです。『いもうと』でしか居られないなら、二度と会わない様に、眠りに就いてしまいたいんです。」



 カタカタと、湯飲みを持つ手が、震えた。その手に、ぎゅっと力を込めて、想いを吐露する。



「このまま、恋に狂って酷い事を仕出かす前に、未練がましい自分を取り返しのつかない[時の彼方]という場所へ追いやりたいんです。彼への想いが、風化する前に、彼を、彼のいるこの時代を過去にしてしまいたいんです。幸いにも、私はクレアータですから。休眠は、死ではありません。」



 ふぅ。


 と、スサノオ君は息を吐くと、




「トリスさん。貴女は、僕に何を望むんですか?」



と、問いかけた。



 神からの問だと、心が悟った。




「一月後。私が活動を停止してからの、身体の保管をお願いしたいのです。」




 核心を、偽らずに伝えた。




「条件があります。その時がくるまで、精一杯、生きなさい。新たな芸術を伸ばすでも、鍛練を重ねるでもいい。一秒を無駄にせず、一瞬を大切に生きなさい。僕の館での滞在を許可します。そして、時が来たら、迷わないでください。貴女の心に、嘘をつかないでください。いいですね?」



 そこには、人の世とは価値観を異にする、神様が顕現なさっていた。







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