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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
決意
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5、決意~約束~


5、決意〜約束〜






 エクセターからラスティン家に戻り、事の顛末を報告する。




 ここを出たら、この半年の長いようで短い冒険もいよいよ終わるんだな、というのが、私達3人の共通した認識だった。



 だから、その夜、私は、アリ君に、聞きたい事を聞く事にした。



コンコン、コンコン。



 何時かの夜の様に、アリ君の部屋をノックする。



「空いているぞ。」



 中から、アリ君の声がした。


 ドキドキしながら、扉を開ける。

 部屋に入り、私は後ろ手で鍵をかける。

 アリ君以外、室内に居ない事は察知済みである。



「失礼します。トリスです。」



「今夜は、どうしたんだ?何か思い詰めているようだが、聞きたい事があってきたんじゃないのか?」



 私に優しいアリ君は、先に、私が話したいであろう用件を察知して、聞いてくれた。




「さすがアリ君。お見通しですね。」




「まあ、な。お前は、悩み事があって煮詰まると、体当たりで聞きに来るからな。読みやすい。」



「読まれていましたか。」




(かなわないなぁ…。)



と、思いながら、拳を握る。



「では、遠慮なく聞きますね?」



 すぅっと息を吸い込んで、聞いてみた。



「アリ君。私は、まだ、貴方にとって、『妹』のままですか?」



 アリ君は、頭を振って反論した。



「いいや。理性では理解しているんだ。お前は、『妹』ではないことを。これは、わたしの問題だと。」



「では、どうしたら、私を女として見てくれますか?」



「もっと魅力的になったら、かな。」



「参考までに、聞きますね?どうしたら、魅力的だと、貴方に思って貰えますか?」



「少なくとも、自分に自信がある奴は魅力的だと思うぞ?好みの女かどうかは別だがな。」



「私に、そう思って貰える目はありますか?」



「お前次第だな。今は、命を賭けて助けたい仲間だと思っている。」



「そうですか。今夜は、有り難うございました。」



「すっきりしたか?」



「…微妙ですね…。今後の課題が増えたって所でしょうか?」



「そうか…。力になれなくて、すまないな。」



「いいえ。いいんです。そろそろ、明日に差し障りますね。また、あした。おやすみなさい、アリ君。」



「ああ、おやすみ。トリス。」




 私は、そのままアリ君の部屋を後にした。




 翌朝。

 ラスティン家を旅立つ。

 何となく、名残惜しくて、中々歩き出せない。





「取り敢えず、お前達との旅は、此処まで、に、なるのかな?」



 アリ君が何気無く、確認事項として、聞いた。



「そうですね。出生のあれこれに関する旅は、ここで終着でしょうね。」



 そう言った後、私は背筋を伸ばし、姿勢を正して、二人を交互に見詰める。


 そして、耐えきれず、もじもじと目を泳がせながら、私は続けた。



「カイル君も、アリ君も、有り難うございました。この半年、凄く、成長できました。とても、居心地が良くて、楽しい日々でした。ホントに、輝かしい日々だったと、皆さんと、心を一つに出来た日々だったと思うんですっ…。」



 言いたい事が、なかなか言葉にならなくて、喉がカラカラになる。だんだんと、視線は下がり、ついには、ギュッと胸の前で無意識に握り締めていた手を見詰めていた。

 それでも、意を決して、言葉を紡ぐ。



「あのっ…ですねっ、お二人は、この後、どうなさる予定なのですかっ!?わっわたしはっ…私達がっ…仲間だと思っているのでっ…お二人の事が、大切なのでっ…れっ…連絡先を知りたいと思っているのですがっ…お二人はっ…どうお考えですかっ?」




 勇気を振り絞って、聞いてみた。




「俺は、湧水亭に戻ろうかと考えてるよ。やっぱりクエストするにも鍛練するにも、水路の交易都市ケルバー付近は最適だからな。もし外出中でも、親父達に伝言してくれたら、直ぐに対応するぜ!」



「なるほど。湧水亭ですね。」



 私は、カイル君の目的地をメモに取り、



「落ち着いたら、必ず顔を出します。」



と、笑顔で告げた。




「私は、仕官先を探すとするかな。私程の軍師を放っておく訳など、ないからな。」



「え?イシュトヴァンさんの所はどうするんですか?」



「あ〜…これ見てみろ。最近届いた。」



 言い澱んだアリ君に見せられたのは、一枚の紙だった。



【解雇状:アリへ。

俺は俺で好きにやる。お前は要らん。好きにやれ。

イシュト】



「え?これ、解雇状じゃないですか!もしかして、私のせいですか?なら、文句を言いに行かなくては!」




「トリス。お前のせいじゃない。あいつのやりたい事に私が不要になっただけの話だ。双方で話し合いは済んでいる。安心しろ。…それにな。イシュトの国、解散したらしいんだ。」



「はぁ?」



 思わず、聞き返してしまった。渋い顔をして、アリ君は言った。



「だから、新しい仕官先を探す必要があるんだがな。」



「では、私のせいで、二人の仲に亀裂が入った、とかじゃ、ないんですね?」



「ああ。そうだ。不安がるな。連絡先が決まったら、私から教えてやる。そうだな。それまでは、楊の所にでも連絡するといい。私の仮眠室もまだ健在だしな。」



 そうなのである。学生時代のアリ君は、楊先生の部屋を勝手に改造して、仮眠室を造り上げていたのである。




「最初は何処を目指すんですか?」



「手始めに、ブリスランドを目指す予定だ。」



「分かりました。有り難うございます。」



「そういうトリスは、どうするんだ?」



「私は、まず、学園に戻ります。そして、グリーンヒル先生に報告の後、自分の気の赴くままに、各地を巡ろうかと思います。 自分に自信をつけたいですから。」



「いいんじゃないか?」


「いいと思うぜ。」




 それぞれの道が、分岐する。



 私達は、己の進む道へと歩き出した。










 まず、カイル君との道が分岐した。



 大剣を背負い、機構馬を駆るカイル君は、あっという間に見えなくなった。



 カイル君を見送った後。学園へ向かう前に、私には着けておきたいケジメがあった。




 隣を歩く、アリ君の手を取る。



「どうしたんだ?トリス。」



「アリ君。あの…お願いがあるんですが、聞いて頂けますか?」



 真剣な想いを乗せて、アリ君を見上げる。



「だから、どうしたんだ?言いにくいなら、ゆっくりでいいから、言葉を紡ぐんだ。」



「屈んで貰って、良いですか?」



「…?こうか?」



 屈んでくれたアリ君の耳許で、精一杯の決意を告げる。









「…アリ君…いえ。アリス・トートスさん。私の『初めて』の相手になってもらえませんか?」












 ぐっと、アリ君が息を飲むのが分かった。



 暫く考えたアリ君は、真剣な私と眼を合わせて、アリ君も真剣な面持ちになる。



「後悔、しないか?」



「私は、貴方がいいんです。想いが実らないかも知れない事も理解していますし、貴方の人生の邪魔も、したくないんです。でも、私がケジメをつけるため、と思ってください。私を、妹としか見れなくても。今夜だけ、私を女として、扱ってもらえませんか?」



 真っ赤になって、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。



「そこまで言われて断るのは、男として駄目だな。トリス。いいだろう。まずは、食事から、だな。」



「えっ?あっ、はい。」


 覚悟していただけに、間の抜けた返事になる。


 そんな私を見て、アリ君は、



「なんだ?そういう行為だけ、だと思ったのか?違うぞ?きちんと一人前の女性として、エスコートするさ。今夜だけは。お前の願いだからな。」






 その夜。

 アリ君は、とても紳士的に、私を女性として扱ってくれた。











 翌朝。

 目覚めると、隣にアリ君の寝顔があった。アリ君が目覚める前に、素早く身支度を整える。

 そして、気付かれない様に、触れるか触れないかの口付けをする。

 アリ君に気付かれない事にほっとしながら、何気無い顔で、アリ君を起こした。


 お互いの身支度を終え、いつも通りの朝食をとり、日常に戻る。



「アリ君、ありがとうございました。次に会うときは、きっと、クリスお姉さまの結婚式だと思うんです。その時は、『義妹』(いもうと)として、よろしくお願いしますね。」



 晴れやかな笑顔を取り繕って、アリ君に告げる。

 最期に見せる顔は、最上の笑顔でいたいから。



 そんな私の思惑に気付かず、アリ君も、いつものペースに戻って言う。


「あぁ。そうだな。それまで、息災でな。」



「ええ。今度こそ、本当にお別れです。本当の義妹になりますね。妹分として、可愛がってくださいね。」





 私が決めた、最後の約束。

 それを心に秘め、私達はそれぞれの道を歩き出した。

 今度こそ。






 もう、道を交えはしないと、一人心に誓いながら。









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