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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
決意
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4、決意~因縁 3~

4、決意〜因縁 3〜






 教会に近付くにつれ、邪悪な空気は増していった。

 教会の前に着く頃には、扉から漏れ出でる障気が目で確認出来る程にまでなっていた。



「アレスさん、家宰の人は、人間ですよね?」



 背中に嫌な汗をかきながら、領主としてのアレスさんに問いかける。



「その積もりで雇ったんだがな。」



 憮然としながら、アレスさんは答えてくれた。

 私の感じているものと同じ厭な感じを、北極を越えてきた仲間達は感じている様だった。



「これは…本格的に俺らが来てて良かったのかも知れねぇぜ?ヒトから外れちまった奴が居そうだ。」



 カイル君が珍しく発言する。



「アレス、お前との個人的な因縁は取り敢えず、この際一時期に忘れてやる。ふん。魔神は人間がどうこうできる代物では無いからな。」



 アリ君ですら、優先順位を切り換える位、悪い予感に支配されていたのだ。



「まるで手強い魔神が居るかの様な物言いだな。愚弟よ。」



 アリ君に、懐疑的な視線を向けるアレスさん。



「この空気…間違いありません。何時でも戦闘に入れる心構えをしておいて下さい。」



 一応、皆に忠告を発すると、



「では、入りますよ。」


と声を掛けて、教会の扉を開いた。







 教会の中には、一人何やら怪しげな儀式をしていたと思しき人物が居た。祭壇の周囲には、独特な魔法陣が描かれ、生け贄に捧げたと思われる、沢山の死骸が、堆く積まれていた。




「こぉれはこれはぁ。よぉうこそ。領主様。私に何か御用ですかな?今の時間は休息の時間であり、私の自由を侵害される覚えは無いのですが?」



「通常であれば、そうだな。だがな…。」



 キッと家宰を睨むと、アレスさんは断言した。



「不正を働いて領地の資金を着服し、領地の信用を貶め、更には名簿に載らない人物を大量に拐かし、殺害する様なこの状況、私が見過ごすと思うなよ!」




「クックックッ。気ぃにする事なぁど無いのでぇすよぉ。アレス様。貴方はぁ此処で、我が主の器として死んで貰うのでぇすからねぇ♪」




 家宰は、その姿を徐々に人外のそれへと変貌させながら、叫んだ。



「捧げよ!《神々の欠片》(ピース)!今宵は殺戮の宴なり!我が主、ボリヴァトス様のお力になることを、誉れとするがいい!!!」




 その顔は、青黒く、瞳孔は縦に割れ、口は耳まで届かんばかりに大きく開き、先の割れた赤い舌がチロチロと見え隠れしている。

 全身の肌は、顔と同じ様に青黒い鱗の様なモノに覆われていた。



 アレはヤバいモノだと、本能が訴える。



「「霊操!」」



 カイル君と私が、真っ先に魔剣を浮かす。



「自衛の法。」



 攻撃手段の無いサラが、私の行動を見て、彼女の固有魔法である完全防御の魔法を発動した。


 慣れた手順でアリ君が皆に指示を下すべく、声を掛けた。



「アレス、今は私の指揮下に入れ。無論、他の皆もだ。」



「はい!」



「おう!」



「分かった。」



「うむ。」



「当然。」



「仕方あるまい、従ってやろう。」



 皆が素直にアリ君の指揮下に入るなか、渋々従うアレスさん。


 幸いな事に、アリ君の方が、家宰よりも速く指示を出せた。



「ギルデンスさん、奴の情報を教えてくれ!クリス殿は魔導具で援護を!トリスは右から、カイルは正面、それからアレスは左から、同時に斬り込め。サラは応援を頼む!」



 バラバラと分厚い魔神の書を捲り、ギルデンスさんは、目の前の魔神についての情報を引き出す。


「解ったぞ。奴は下級魔神『アザル』。上級魔神ボリヴァトスの眷属じゃ。弱点は額の宝玉。物理攻撃は無効。魔法攻撃が有効だな。」



 クリス姉様も、コレクションの魔導具を選び出して使用する。



「私の取って置きも、使っておきましょうか。我が魔導具《星屑の砂》よ!皆に力を能えたまえ。」



 クリス姉様の手元で、キラキラと輝く砂が入った砂時計がくるりと回転した。クリス姉様の周囲にいる皆に、暖かな光がまとわりついた。光が、身体の奥の力強いパワーを引き出してくれているのを感じる。



 私とカイル君が、呼吸を合わせて左右からそれぞれの魔剣で斬りかかり、両腕の蛇を切り伏せる。


 だが、再生する腕。


「ははははは。何度やっても、無駄無駄無駄無駄!私の力の前に、絶望するがいいわ!」


 何度も、私とカイル君は腕を切り落とした。


 その度に生えてくる蛇の両手。


 アレスさんは、左右からの蛇を避けつつ、やはり魔剣で魔神アザルの額を攻撃し続けていた。


 アレスさんの、五度目の攻撃が、魔神アザルの額に直撃した時だった。


 ピシリ。



 終に、魔神アザルの額の宝玉に罅が入った。




 するとどうだろう。魔神アザルの両手の再生が止まったのだ。


「何ィ!?この私がやられるだと?」



 死に体の魔神アザル。



「くっ…斯くなる上は…我が主よ!最後の生け贄を捧げます!お受け取り下さい!!!」



 最期の悪足掻き、として、自害を選ぼうとする魔神アザル。



「させない。カイルさん、止めの一撃をお願いします。」


 待機していたサラが、カイル君を勇気付けた。



「でぇいやぁー…!!」



 カイル君は、烈迫の気合いと共に、魔神アザルを真一文字に切り裂いた。



「グギャアアアアアア…ボリヴァトス様ァアァア…」



 魔神アザルが、虚空に吸い込まれていく。

 遂に、私達は魔神アザルを消滅させる事に成功したのだ。



『今回は失敗したが。いずれ、貴様の《器》は私が頂くぞ。』



 魔神アザルの消滅と共に、私にだけ、耳許でざらついた声が聞こえた気がした。




 …私は、ヤバいモノに、目を付けられてしまったかも知れない…。


 キラキラと、《神々の欠片》が空へと返ってゆく。それを見ながら、私は背筋に冷たいモノが走るのを感じた。









 それから。アレスさんが、教会に火を放つ。

 手っ取り早く、障気を払い、魔神の痕跡を片付け、疫病を防ぐ為である。

 領主として、必要な処置、なのだそうだ。




 私達は、それぞれの部屋を宛がわれた。身を清め、ゆっくり話をするために必要な事であり、戦闘を行った身体を休める目的もある。



 翌朝。

 改めて、一同が会した。



「さて。ようやく我が領地の問題を解決出来た訳だが。」


 言い難そうに、眉間に皺を作りながら、アレスさんが溜め息を吐きつつ、続ける。



「ひとまず、問題の解決に協力して貰った事には礼を言う。人や軍隊相手には負けんのだがな。魔神相手は、私には無理だっただろう。感謝する。」



「ふんっ。精々感謝されてやるさ。お前の存在が憎いのは変わらんがなっ…!」



「構わんさ。凡愚には天才の事など分からんものだからなっ!」



 アリ君とアレスさんの応酬が繰り広げられそうになったその時。



「…。今回の事、気にするものでは無いと思うぞ?あんなモノと平然と対峙出来る、妹達3人がおかしいのだ。貴方は良くやったと思う。アレス殿。」



 クリスお姉さまがポツリと言った。



「お姉さま、その物言いは酷いです!確かに魔神相手ならお任せされますが。」



 私がクリスお姉さまに抗議の声をあげると、うっすらと頬を染めて、アレスさんを見詰めるクリスお姉さまの顔があった。



「悪いな。トリス。私は、どうやらこのアレス殿の肩を持ちたいらしい。」



 コホン。



 と一つ、クリスお姉さまは咳払いをすると、真っ直ぐにアレスさんの前に立った。



「アレス殿。貴方と私の婚約は、父上同士の酒の戯れの上で結ばれた物だ。だが…私は、私の意志で、アレス殿の隣で、アレス殿の見る景色を共に見たいと望むのだが、貴方は私の様な女が妻になるのを認めてくれるだろうか?」



 突然の、余りにも漢らしい色気の少ない姉による、結婚の申し出だった。

 それに対し、アレスさんはというと、



「構わんよ。貴女なら、煩わしい事が少なくてすみそうだ。よろしく頼む。」



と、これまたあっさりと承諾したのだった。

 暫くの話し合いの末、クリスお姉さまは、このままアレスさんの領地に留まる事が決まった。




「…ということは、サラや。アレス殿は儂らの義兄にあたる訳じゃな。」


「そうですわね。ギル様。」



 仲睦まじく、ニコニコと会話を重ねる妹達。

そこで、私はふと気付いた。



「ちょっと待って下さい!アレスさんが義兄になるのは分かります。では、年齢的に、アリ君も私の新しい義兄になるんですか…!?」



 アリ君は暫く考えた後、


「そう…なるのかな?どうなんだ?ギルデンスさん。」



「まあ、そう呼んで、差し支えは無い間柄じゃな。」




 どうやらアリ君は、わたしのお義兄ちゃんになるみたいです。








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