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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
決意
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3、決意~因縁 2~ 


3、決意〜因縁 2〜






 私がアリ君から聞き齧った、アレス・トートスの情報を纏めてみよう。


 過去、アリ君は、兄のアレスさんと妹のルナミスさんの3兄弟だった。


 平和だった頃、アリ君は兄のアレスさんを慕って、力になろうと努力していた。

 そんな折、トートス領に不幸が訪れる。

 敵からの侵略を受けたのだ。

 その際、アレスさんは、ルナミスさんを見殺しにする策をとった。

 その事により、ルナミスさんは死亡。

 その時から、アリ君にとって、アレスさんは仇敵となった。

 そんなアレスさんは、天才らしい。

 情報収集してみたら、公式文書に名前が残っていた。あの、『シャナイアさんのお茶会事件』で、南国エクセター側の現金受取人を務めたとの記載を発見した。




「アリ君の仇敵で、公式文書にも名を残していて、今は一領主。更に、お姉様との婚約も破談…。お会いした事も無い方に対して失礼かも知れませんが、《殺戮者》でしょうか…?」


 私の中で、アレスさんのイメージは、とにかく悪い方へと傾いている。


「さぁな。だが、アレスは強いぞ。」



「アリ君が言うのですから、余程ですね。」



「おまけに、万能超人だ。悔しいが、私では勝てん。」



「アリ君に倒せないなら、私が倒しますよ!」



 クスリと笑って、アリ君が言う。



「気持ちだけ、有り難くもらっておく。」



「本気にしてませんね?私にとって、アリ君の敵は私の敵なんですよ?」



「はいはい。」




 私はアリ君に、ポンポンと頭を叩かれて、宥められてしまった。




 そんな道中を終え、南国エクセターのアレス・トートス領に入った。


 途端に、空気が重苦しく、禍々しいモノに変わる。


 領内で、悪徳がばら蒔かれている様だ。



 重苦しく禍々しい空気の原因を探るべく、調査を開始する。

 すると、この領内から南国エクセター全体に対して、塩の質と流れについて不自然な点がある、という情報と、領主についての情報を得る事が出来た。


 私が一方的に敵視している領主の情報としては、次の様な評判が集められた。

 曰く、アレス・トートスは有能であり、画期的な幾つもの政策で領内の安定と発展に貢献している、領民にとって、大変有難い領主様であるというモノだ。

 だが、他の情報が出てこない。

 邪悪なる気配がアレス・トートスからは出てこないのだ。



「そうなると、考えられるのは、何者かの陰謀が働いているという可能性じゃな。」



 そう言ったのは、ギルデンスさんだった。



「ギル様、どういう事なんですか?」



 サラが問う。




「ふむ。簡単に言うとじゃな。塩に不純物が混じっていて、質の悪い塩が流通する事によって、資金の差額を故意に着服している輩が居るか、この領地が、何処かと戦争する為の資金集めをしたがっとる、という可能性が考えられる、という事じゃな。」




「陰謀の事とか私には詳しくは分かりませんが、アレスさんが、闇堕ちして、戦争をしたがっている、とか?」




 この時点で、私の中ではアレスさん=《殺戮者》又は《魔神》である。

 極端な意見になるのは、致し方ない。



「トリスのその考えは、一考の余地はある。が、間違っている可能性の方が高いぞ?」



「う〜…。」



 私とアリ君の言い合いを眺めながら、クリスお姉様が言った。



「兎に角、だ。いいにしろ悪いにしろ、私にはアレス・トートスに会って、その人と為りを確かめる義務と文句を言う権利がある。直接乗り込むぞ!」




「俺も、直接会ってみるのが早いと思うぞ?トリス。」



 カイル君も追随した。

 クリスお姉様とカイル君に引っ張られる形で、私達は、領主の館に足を運ぶのだった。




 領主の館にて、クリスティーファ・ラスティンの名前で面会を申し込む。すると、領主、アレス・トートスへ目通りは、優先的に叶えられた。

アレスさんの方でも、クリスお姉様に対して思う所があったのかも知れない。

 一行は、すんなりと、応接室へと案内された。

 主の来訪を待つ間に、香り高いコーヒーが供された。



「いい豆使ってますね…。」



「本場エクセター産だからな。」



「にがっ…。」



等、様々な感想を言い合っていると、



「ようこそお客人。この度は、何用かな?」



と、メンバーを見渡しながら、領主と思しき人物が登場した。

 途端に、アリ君と、その人物の間に不穏な空気が流れる。



「なんだ。誰かと思えば、我が愚弟ではないか。凡愚なりに、今更ながら、謝りに来たのか?」



「はっ!誰がそんな事をするものかっ!私は、こいつの軍師として、この地を訪れたに過ぎんわ!」



 ぐいっと、アリ君によって、全面に押し出される私。



(仲悪っ!)



 と思いながらも、仕方なしに私は自己紹介する。



「はじめまして。トリスティーファ・ラスティンと申します。姉、クリスティーファ・ラスティンの護衛として来ました。」



 そう言うと、クリスお姉様にバトンタッチした。



「私がクリスティーファ・ラスティンだ。突然の訪ない、失礼する。勝手に婚約破棄されたのでな。どんな相手なのか、顔を拝みに来たのだ。…私なりに、けじめが着けたかったからな。」



 哀愁を漂わせて、クリスお姉様が言う。

 アレスさんは、暫し熟慮して、



「今は、領内で不穏な動きがある様でな。片がつくまで、己の結婚は相応しくないと思い、婚約破棄を申し出たのだ。決して、貴女が悪いわけではない。だが、礼を失していたな。すまない。」



と、潔くお姉様に対して謝罪をした。



「謝まりました?聞いていたお話と違います!貴方は、自分が何処までもデキル天才だから、謝ったり、謝罪したり、非を認めたり出来ない人だと思っていました。」



 素直すぎる感想が、私の口から漏れる。



「確かに私は天才だがな。傷付けた女性に謝罪するのは当然だろう。」



 私の呟きに、律儀にアレスさんは答えてくれた。



「じゃあ、なんでアリ君には謝罪とか言い訳とかしないんですか?いつまでも仲違いしているのは、建設的では無いと思うのですが。」



 ずっと気になって居た事を、これ幸いと聞いてみる。



「「それはな、こいつが悪い。」」



 アリ君とアレスさんの両方から、断言された。



「何故、ですか?」




「私は、あの時、領主として領民を護る責任があった。それを果たす上での多少の犠牲は飲み込まねばならん。それが、どんなに大切な相手であっても、だ。」



と、アレスさんは言い、



「大切な家族も護れないで、何が領主だ!犠牲を出さずに済ます方法を模索もしないで何を言うか!」




と、アリ君は言った。

 私は、魂の何処か奥深い処が軋むのを感じた。



『ルナミス(私)は、あの時、どうしてもあの場に居なくてはならないと感じていた。誰に言われるでもない。私自身の意志として。後悔はしていないわ。』



 何処かで、そんな言葉が谺するのを、私は確かに聞いた。



「本人の行動について、第3者が意見しても、仕方無いのではないかね?若人達よ。」



 アレスさんとアリ君の兄弟喧嘩が始まりそうなのを読み取って、ギルデンスさんが間に割って入った。



「それよりも、今大事な事は、この領内の禍々しい気配、アレス殿の抱えている問題の解決の方ではないのかね?」




 ギルデンスさんのこの一言で、険悪だった空気が変わった。




「巷で噂されていた、塩の質、の問題ですか?ギル様。」



 サラが、ギルデンスさんに向けて質問する。




「何っ!聞き捨てならんな。その報告は受けていないぞ?すまないが、詳しく教えては頂けまいか、ご老体。」



 領内の一大事、と察して、アレスさんが食い付いてきた。


 そこで、調査してきた事をかい摘まんで説明した。


 天才と自称するだけあって、アレスさんの理解は速く、深かった。


 自分が掴んでいる家宰の不正に関する情報の開示と、その処罰に関する協力を即座に打診してきたのだ。



 クリスお姉様、アリ君、カイル君、サラ、ギルデンスさんが、私を見る。


 私は、皆を代表して答えた。



「分かりました。協力しましょう。ところで、アレスさんは、どの程度闘えるのですか?」




「私、一個人として、か?それなりだな。剣匠卿程強くは無いな。軍を采配する方が得意ではあるのでな。」




「解りました。共闘といきましょう。」




「共闘な。アリごときを軍師にしている時点で、程度が知れるがな!」




「分かっていませんねぇ…。私を扱えるのは、アリ君くらいなものなのデスヨ?余り私の軍師を馬鹿にしないでくださいね?」




「どういう意味だ!」




「貴方ごときじゃ、私は御しきれないって事ですよ!」





 そんな言い合いをしながら、この時間は家宰がいるという、領主の館内にある教会へと足を運んだ。






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