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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
帰路~耶都~
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2、帰路~耶都 2~


2、帰路〜弥都 2〜






 スサノオ君の御屋敷の門を潜ると、来た時とは異なる風景が、眼前に広がっていた。


 先ず飛び込んで来たのは、縁起の良い神獣や瑞獣、吉祥紋といった霊的守護の高いモノが丁寧に彫り込まれた鮮やかな色彩の柱と屋根だった。

 その造りに圧倒されていると、後ろで


たんっ


と言う音がした。


 振り返ると、お社の本殿の扉が閉じていた。

 くるりと向きを変え、正面を向くと、参拝者が列をなしている。石畳と玉砂利の敷き詰められた境内が見えた。

 下を向くと、賽銭箱があった。そのまま歩き始めたら、ぶつかってしまいそうだ。



 スサノオ君にお詣りしたのとは違う、出島にあった場所ではない、別な場所の神社の景色が眼前に広がっていた。


 何が起こったか、処理の追い付かない私達。



「こっ…此処は何処ですかっ!?」



「何処だ此処!?」



「取り敢えず、何処かの神社の様だが…。」



 状況を把握しようとした私達の頭に、スサノオ君の温かな低音で張りのある声が響く。



『あはははは。混乱している様ですね。門を、京の都にある、私の社の出口に繋げておきました。帰りも声を掛けてくれれば、出島までお送りしますよ。弥都観光、楽しんでくださいね。』



 スサノオ君からの、旅の餞別らしい。



 私は、振り向き、手を合わせて感謝の念を送ると、アリ君とカイル君を伴って、スサノオ君の神社を後にした。





 神社の鳥居を潜った後。

 私はアリ君達に呟いた。



「スサノオ君、本当に高位で神格の高い神様なんですね。疑っては居ませんでしたが、神々しさがハイルランドにいた頃とは桁違いでした。」



「そうだな。弥都の信仰のシステムは解りやすいな。そして、社を通じての転移は便利だな。戦術的な優位を確保するのに、これ程活用法のある手も珍しい。」



「アリ君、スサノオ君の軍事利用とか物騒な事は止めましょうね?彼は友達ですからね?」



「はっ!いかん。すまんな。何時もの癖でつい考えてしまうんだよ。」



「アリ、そんな事考えてたのかよ。俺は別だぜ?トリス達は、感じなかったか?あいつ、斬り込む隙が全く無かったんだよ!」



「カイル君、斬り込もうとしてたんですか?無謀ではないですか?スサノオ神は、武神の一面が強い神様らしいですよ?」



 パンフレットを見ながらカイル君に言う。



「そうなのかぁ。一度手合わせ願いたいもんだぜ。」



 カイル君は、全く気にしていない様だった。





 ひと段落すると、アリ君が切り出した。



「さて、混乱も落ち着いた事だし、『情報屋の辰』とやらを探すか。せっかくのスサノオからの助言だしな。」



「そうですね。」



「おぅ!」




 楽しい観光をするべく、私達は案内役の情報屋を探して、街に繰り出した。



 私達は、『情報屋の辰』さんを捜すべく、聞き込みを開始しようとした。


 だが、思っていた以上に、彼の拠点は見つけ易かった。

 スサノオ神社から徒歩二分。

 目の前に、でかでかと、看板が掲げられていた。



『何でも屋 辰 』




…。


 じゃあ、『祇園』という場所を調べよう、と思ったのだが…。これまた容易く見つかった。



 『何でも屋 辰 』の脇に、立派な石壁で囲われた門があった。

 石壁は、町一つを覆う城壁の様だった。

 そして、閉ざされた門には、『祇園』と、これまた立派な文字が記されていたのだ。

 スサノオ君は、私達を目的地に一番近くの神社に転移させてくれていた様だ。

 本当に、スサノオ君は、感謝の念の絶えない相手である。




 さて、目的地も見つかったので、私達は、祇園について、辰さんに情報を聞く事にした。




「すみません。こちらで優秀な情報案内をして頂けるとお聞きしたのですが、間違いないでしょうか?」



 がらりと引き戸を開けて、煙管を吸う青年に声をかけた。



「唐突だな、嬢ちゃん。誰にそんな事を聞いたんだ?」



「あ、すみません。私はトリスティーファ・ラスティンと言います。知り合いのスサノオ神様に聞いて、京や祇園に詳しいという、『情報屋の辰』さんという方を捜して来たのですが、違いましたか?」



「情報屋の辰たぁ俺の事だがよ、それなりのお代は頂くぜ?」



「構いません。えと。それでですね。弥都は初めてでして、弥都らしい事を体験したくてですね。私は弥都独特の武具について見たいのですが、情報提供をしては頂けませんか?」



 私が辰さんに切り出すと、珍しく、カイル君が辰さんの言葉を遮って、



「悪いな、トリス。俺とアリは、別行動させて貰うぜ?ちょっと男同士で親交を深めたいんだ。構わないよな?」



と、断りを入れてきた。

 珍しい事態にちょっと私は目を丸くしたが、個人行動したいのは、当然の欲求である。



「勿論です。私が武具に興味があるように、お二人にはお二人なりの、気になる事があるのは当然ですから。」



 私は二人の後押しをした。


 すると、アリ君が辰さんに耳打ちした。



「では、辰さん、私はアリ、こっちがカイルと言う。それでな、ゴニョゴニョゴニョ…という訳で、お願いしたいんだが、構わないだろうか。」



辰さんは、



「了解だ。まず、トリスの嬢ちゃん。腕のよい鍛冶師を紹介してやるよ。これが地図と案内状だ。」



と、鍛冶師さんの情報をくれた。



「ありがとうございます。」



 私はお礼を述べたが、内心、男同士の様子が気になって仕方なくなった。



「で、アリとカイルだったか。そちらの用件は夕刻以降の事になるからな。暫く茶でも飲んでいくといい。」



 だから、追加で辰さんに聞いてみることにした。



「あ、辰さん、再度すみません。私は追加でゴニョゴニョ…という事がしたいのですが、出来ますか?」




「そうだな。二刻くらいで手配してやるよ。そね間に観光して来るといい。その位で丁度良いはずだ。」



「何から何まで、ありがとうございます。」



「良いって事よ。勿論、依頼内容は漏らさねぇから安心しろよ?」



「はいっ!ありがとうございます。」



 そんな訳で、私は安心して、鍛冶師さんを訪ねる事にした。





 彼は、その名を、『役小熊えんの おぐま』さんと言うらしい。



 トントントンと引き戸をノックして、在宅を確認する。



「もぅし、鍛冶師の役小熊さんのお宅はこちらでいいでしょうか?」



 暫くすると、ガラリと扉が開いて、二十代半ばくらいの渋い男性が出てきた。

 …弥都の人達は若く見えるので、実際にはもっと歳上なのかもしれないが。

 彼はボサボサの黒髪をワシワシと掻きむしりながら、



「そうだが、お前さんは?」



と、ちょっと怪訝そうに訊ねてきた。



 私はにこやかな笑顔で自己紹介をした。



「初めまして。私はトリスティーファ・ラスティンと申します。ハイルランドという異国の地より参りました。実は私、武器や防具に興味がありまして。情報屋の辰さんにお聞きしたら此方を紹介されました。弥都の武具を拝見させて頂けると嬉しいのですが。」



「何だ。珍しい。異国の方かい。大層な品は持ち合わせちゃいないが、それで良ければ見ていきな。」



 小熊さんは、快く、私の申し出を受けてくれた。



 そして、一般的な武具の数々を拝見させて頂いているうちに、気になる事が出てきた。



 陳列棚の壁に、違和感を感じたのだ。

 私は居ても立ってもいられなくなり、思い切って、小熊さんに尋ねみた。


「あの…素晴らしい品の数々ですが、気になる事があります。」



「何だい?嬢ちゃん。」



「彼方の壁、動きますよね?もしや、銘のある、特別な刀など、あったりするのですか?」





 暫くの沈黙が、二人の間に流れた。



 そして、小熊さんは、

ふぅ。


と一つ、溜め息を吐いた。



「分かるのか、嬢ちゃん。」



「はい。上等な、鋼の匂いと様々な気配を感じます。」



 私は、確信を以て告げた。



「じゃあ、仕方ねぇな。」



 そう言って、小熊さんは何やら操作して、壁を横にずらした。


 そこには、鎖に繋がれた刀や、見るからに妖気を孕ませた剣、逆に、清々しい程の霊気を纏った剣等が自分の出番を待つかの様に陳列されていた。




 私は息をのんだ。

 魅入られそうな程素晴らしい刀剣の数々に、鼓動が跳ねた。




 …。いつの間にか、真後ろに立っていた小熊さんが、私に呟いた。



「特別に、呼ばれている様な感じはあるか?」




 ごくり。と唾を飲み込んで、私は答える。



「あります。」



 私には、どうしても琴線に引っ掛かる、一太刀があった。



「あれなのですが…。」


 すっ、と、その一振りの太刀を指差すと、微かに、リィンと鍔なりが聴こえた気がした。



「剣が主人を選んだ、か。嬢ちゃん。ソイツはあんたのもんだ。大事にしてやってくれ。」




 小熊さんは、そう言って、私にその剣を渡した。



「ソイツは、日本刀、銘を『影清』と言う。研ぎをしたい時は俺に言ってくれ。西洋刀とは扱いがちがうからな。」



「はいっ!ありがとうございます。大事にしますね。」



 日本刀を受け取ると、私は小熊さんにお礼を言った。



 勿論、



「これから、宜しくね、影清。」



と、日本刀にも、挨拶をした。





 それから暫く時間が出来たので、小熊さんと世間話をした。

 後で祇園に立ち寄りたいと話すと、彼は、ちょっとした話をしてくれた。

 なんと、妹さん(蘭華さんというらしい)が、祇園でデビューする事になったのだそうだ。

 最近は、祇園の中で、借金の返済の為に働く、というだけでなく、ハイルランドで言うところの、アイドルを目指して働く女性もいるのだそうだ。蘭華さんも、そういった女性らしい。

 縁があったら、見てみたいものだ。




 そうこうする内に、約束の刻限になった。

私は、一人、辰さんの元へと向かった。








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