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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
帰路~耶都~
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1、帰路~耶都 1~

耶都編スタートです。懐かしいあのヒトも出てきますよ♪


[第七章:帰路]



1、帰路〜弥都 1〜





「次は何処へ向かおうかのぅ?」



「ジェラート船長。お久しぶりです。準備の方は如何ですか?」



「おお。久し振りじゃの、トリス。バッチリじゃよ♪」



「じゃあ、次の目的地ですね。えいっ!」



 ジェラート船長の船長室で、地図を拡げた私達二人は。パタリと倒れた棒を見て言った。



「次は此処ですね♪」



「うむ。耶都じゃの。楽しみじゃ。」




 次の目的地は決まった。耶都だ。スサノオ君の国である。前途は揚々である。





 そんな事があった翌日。


 ジェラート船長の船は、私達を乗せてセリカを出港した。その舵の前で、船長は呟いた。



「次の目的地は、何処かのう♪」



「「え?このままハイデルランドに戻るんだろ(だよな)?」」



 その呟きを聞いた、アリ君とカイル君が口を揃えて言う。

 彼らを見遣りながら、私は言った。



「え?せっかくの船旅ですよ!?」



 そして、船長室でやった様に、私は地図を広げ、準備を整えた。



「えいっ!」



「ちょっと待て…っ!」


 何だかアリ君が言っているが、私は気にせずに棒から指を放した。



ぱたり。



 倒れた棒を見て、ジェラート船長は言った。



「この方角じゃと、弥都じゃな。南方の琉球王国や無人島に向かわんかっただけ、幸運じゃな。しかしトリス。お主、導かれておるのぅ。二回も此処を示しおった。」



 ケラケラと笑いながら、明るくジェラート船長は言った。



「「え?二回も…?」」



「うむ。そうじゃの。船長室でもやったのじゃがな。やはり同じところを示しおった。」



「ちょっと待て。何故二回も試してんだよ!?」



「いや、独断で決めたら悪いかな、と思いまして。」



「そもそも、それ(棒倒し)で行き先を決めるなと言っとるだろうが!」



「二回目で違う所が出たら、ちゃんとそちらを優先させる積もりでしたよ!?」



「だからな〜トぉリぃスぅ〜!?そう言う事ではないと言うておろうが〜!!!ば〜か〜も〜の〜め〜!!」



「きゃ〜!ごめんなさい〜痛い痛い痛いですぅ〜!」



 私が、アリ君から、拳骨でグリグリとこめかみを挟まれて、半泣きで悶えていると。

 ジェラート船長がそんな私達を眺めながら言った。



「耶都はの。鎖国をしとる国なんじゃが、入国は可能じゃろう。なに。武力で攻撃されたら、うちも容赦はせんから、安心して弥都を楽しんで来るんじゃ♪」



「おぅ!仕方無いから、サクッと行こうぜ!」



「お、カイルよ。という事は、大きな湊町が良いかの?堺や江戸が良いじゃろうか。」



「ちょっと待て。ジェラート!其処は確か外国船は入港制限が掛かっているんじゃなかったか!?攻撃されるんじゃないのか?」



「うむ?じゃから、バージョンアップしたうちの船の試し射ちをしてくれるわ♪」



「いたたたた。駄目ですよぅ。安全は大事です。何処か、入港制限を設けていない港もありますよね?そちらでお願いします。」



「そうか?仕方無いのぅ。ちと潮が面倒じゃが、そちらに向かおうかの。」



 こうして、しぶしぶと承諾したジェラート船長の導きにより、私達は、弥都は長崎の出島と呼ばれる地へと降り立ったのである。


「では、何時ものように、うちは船に居るからの。帰りたくなったら声を掛けてくれれば、何時でも出港出来る様にしておくからの。楽しんで来るんじゃぞ。」



「はい!ジェラート船長!ありがとうございます♪行ってきます。」



「おぅ!ではの〜」



 ジェラート船長を残し、私達は長崎の出島へと上陸した。



「アリ君、スサノオ君の住んでる国ですよ♪ご挨拶したいですね。」



 私がこの国に来てみたかったのは、偏にスサノオ君の統べる国だから、である。懐かしさで、アリ君に声をかけた。



「そうだな。」



 アリ君は、ちょっと不貞腐れた様に肯定した。


 そんなに、棒倒しがご不満だったのだろうか?

 カイル君は、初めて聞く、『スサノオ』なる人物が気になるのか、



「スサノオ?そいつ強いのか?」



と疑問を口にした。



「ええ。とても。こちらの国では、神社に祀られている武の神様らしいですよ♪お友達ですけどね。」



「えっ?おい!それって魔神って事じゃ?」



「この国では、明確に、『神様』、ですよ?加護と信仰で成り立っている関係だそうです。顕現もなさるとか。」



 パンフレットを読みながら、私は答える。



「あ、ここですね。」



 私は、出島内にある、スサノオ神社を見つけると、そちらへ駆け寄った。



「アリ君、カイル君。きちんと、礼儀は守ってくださいね?大事な私のお友達ですから!」



 そう注意をして。


 私は、スサノオ神社に二礼二拍手一礼とお賽銭を手向けた。




 皆で御詣りの作法通りの所作を終えた瞬間。



ピカッ



とお社が輝いたかと思うと、頭の中に声が響いてきた。



『よくぞ参ったな。』










と、なれば、格好いいのだろうが、そうはならなかった。



 私達が、御詣りの作法通りの所作を終えた瞬間、実にあっさりと、本殿の扉が開いたのだ。




 そして、出てきたのは、二十代半ばくらいの美青年だった。

 あの時と同じ、黒い瞳に、きらきらと好奇心を宿し、艶めく黒髪が豊かな姿。

 あの時と違う、筋骨隆々であると、服の上からでも分かる肢体。



「お久しぶりですね。態々弥都まで御越しいただいて有り難う御座います。トリスさん。」



 あの頃より深みを増した、低くて包容力のある、優しい声が、あの頃と同じ態度で迎えてくれた。




 スサノオ君その本神ホンニンが、直接出てきたのである。



「お久しぶりですね。スサノオ君。いえ、神様だから、スサノオ様、と、最敬語の方がいいのでしょうか?」



 私が遠慮がちに問うと、



「私と貴女方の、特にトリスさんの間でそんな遠慮は要りませんよ!水くさいな。いつも通りでお願いします。」




 スサノオ君は、あっさりと心の距離はあの頃のままだと言外に告げてくれた。


 私も嬉しくなって、



「ありがとうございます。どう接していいか、思案していたのです。では、改めまして、宜しくお願いしますね。スサノオ君。」



 ニコニコしながら答えたのだった。





 別れた頃には同じくらいの目線だった彼は、見上げる程の高身長へと成長していた。



「スサノオ君、あの頃も成長が早かったですけど、益々大きくなりましたねぇ。私達とは年の取り方が違うのでしょうか?」



 疑問を素直に口にしたわたしに、



「まぁ、私達弥都の神は、信者の信仰心との関係が深いですからねぇ。見た目も力も自分の領域、この場合、信者からの信仰心ですね、に明確に左右されるんですよ。」




 スサノオ君はすんなり答えてくれた。



「つまり、ここでは、ハイルランドより居心地が良くて、力も充実しているって事ですか?」




「簡単に言うとそういう事ですね。さぁ、ここで立ち話をするのもなんですから、中に入ってください。」




「では、失礼します。」



「入らせてもらうぞ。」


「お…お邪魔します。」


 お社の中に入ると、何かの境目を抜ける感覚があった。


 そして、目の前に広がったのは、弥都独特の、豪華な平屋の御屋敷だった。

 そのままお座敷に通され、お茶が運ばれて来た。

 お茶を頂きながら、ゆっくりとスサノオ君とお話を続ける。



「立派な御屋敷ですね。」



ほぅ。と、思わずため息が出た。



「ありがとうございます。こういった社内の格式とか、全て信仰心に依存するんですよ。だから、神威を顕現…つまり御利益を与えるのも、弥都の神にとっては大事な仕事になります。」



 スサノオ君が、この地の神と人との関係を説明してくれる。



「本当に神と人とが近いんですね。」



「ええ。ハイルランドとは全く別の法則が働いていると思って頂けると分かりやすいかと思いますね。ところで、どういったご用件で来られたんですか?」



 大人なスサノオ君は、私達の事情を先回りして聞いてくれた。



「ええ。旅の途中で、弥都に寄ったので、スサノオ君にご挨拶をと思ってお詣りしたのですよ。ご本神ホンニンがすんなり出てくるとは思わなくて、びっくりしていますけどね?」



「ああ、それはですね、弥都全国の自分が祀られているや司るモノや神社と、それぞれの神とは、つながっていますからね。知り合いとかが来たら直ぐに分かる様になっているんですよ。」



「それで出て来てくれたんですか。ありがとうございます。」



「いえいえ。私も懐かしかったからですね。気にしないでくださいよ。」



 大人なスサノオ君は、にこやかに答えてくれた。




 私は、思いきって聞いてみる事にした。



「ところで、スサノオ君。私達、文明圏に餓えていてね。弥都で楽しめる観光地って無いかしら?」



 スサノオ君が答える前に、すっと手を挙げて、アリ君もスサノオ君に質問した。



「ちょっといいか?私の調べた情報によると、京の都には見るべきところが多いと聞いたんだが、どう行ったらいいんだ?」



 便乗して、カイル君も質問する。



「はい!俺は旨い飯が食いたいんだけど、何処か知らねぇか?」



 スサノオ君は、皆の意見を聞くと、少し考える素振りを見せた後、




「では、京の祇園はどうでしょう?色々楽しめると思いますよ。」




「京の祇園、ですか。遠いんですか?」



「トリスさん達は友達ですからね。特別ですよ?着いて来てください。」


 スサノオ君がそう言って案内してくれたのは、御屋敷の門だった。




「祇園に入るには特別な手続きがいります。情報屋の辰という男がいますから、彼を頼るといいでしょう。それでは、いってらっしゃい。」



 そう言って、スサノオ君は、私達を門から送り出してくれた。







ありがとうございました。

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