18 帰路~セリカにて.17~
18、セリカにて 17
無事に船に乗り込み、船賃を支払った私達は、九竜城の入り口まで来ていた。
「一人10クラウンだ。身の安全が欲しければ、一人50クラウンだな。」
門番が言う。
「支払えなければ?」
冷静に、アリ君が確認する。
「川へボチャン、だな。」
下卑な笑みを浮かべて、門番は言う。内心不快に思っている事をおくびにも出さずに、アリ君は質問を重ねた。
「中で稼げる方法はあるか?」
門番は、ひひっと笑うと、
「それこそ、実力次第でいくらでも。自分を質に闘技場で戦うも良し、カジノで遊ぶも良し、嬢ちゃんなら、身体を売るでも良しだぜ?勿論、男も売れるがな。」
と、私の身体を上から下まで舐める様にして眺めながら言った。
「ふむ。なら安心だな。一人50クラウンで、200クラウン支払う。だが…。保証書と引き換えだ。」
「ちっ…分かったよ。これだ。」
騙し討ちを仕掛ける積もりだったのだろう。門番は悔しげに保証書を準備してくれた。
アリ君はそれを確認すると、
「確かに。此れが4人分の代金だ。」
と、代金を置いた。
それを見て、目の色を変えた門番が、
「おっと。俺らには小遣いはくれねぇのかい?」
と、保証書を手渡すのを遮った。
アリ君は、片眉を上げると、
「トリス。カイル。やれ。」
と、指示を下してきた。
「「了解。」」
私もカイル君も、軽く殺気を滲ませた。
己の身の危険を察知した門番は、素早く態度を一変させる。
「おっと、冗談だよ、冗談。じゃあ、九竜城を楽しんでくれ。」
こうして、無事に、九竜城に入った私達は。
取り敢えず、資金繰りに走る事にした。
裏社会の都なだけあって、珍しい品々がたくさんあった。武防具もである。私には、武防具を購入するための資金が必要だった。コレクターとして、珍品をコレクションしないなんて、有り得ないのだ。
それ以外にも、今後の諸々の活動資金を得る必要もあった。いくらジェラート船長の好意に甘えているからと言っても、資金は多くて困るものではないのだ。
そんな訳で、資金繰りをする事にしたのだが、私達は、賭博は止めておく事にした。
アリ君に聞いたところ、カジノや丁半博打等の賭博では、稼ぎすぎない事が鉄則だそうで。ビギナーズラックをさせて貰えている内に手を引くのが、のめり込まないコツらしい。
その程度を見極めるのが難しいからだ。
それに。私達は、《宿せし者》である。ハイルランドでは、超人の部類である。戦って勝てばファイトマネーの手に入る闘技場に、選手として出場した方が、分かりやすく稼げる。強者を見極めて、その人にベットするという方法もある。
アリ君曰く、私とカイル君が出場して、自分達に賭けるのが、一番効率が良いそうなので、その案を採用する事にした。
の、だが。闘技場の様子を伺って、私は出場を躊躇した。
自棄に強い選手がいたのだ。
彼は金髪で、身の丈程もある大剣を背負っていた。
《神々の欠片》(ピース)の反応もある事から、彼も《宿せし者》であると分かる。
選手名、クラウド。
最も効率良く稼げそうなランクに、彼はいた。
「アリ君、あの選手とぶつかりたくないです。彼は、強い。」
「あれを倒すのは、骨が折れそうだぜ?アリ。」
「ふむ。暫くは彼にベットだな。トリス。カイル。お前達の出場は低ランクで留めておけ。彼が出場しない隙に、高ランクに出るのがベストだな。」
「分かりました!」
「了解。」
アリ君の指示に大人しく従う二人。
「アリのにぃちゃん、引率の先生みたいだ。」
ポツリとジェンユ君が呟いた。
「あながち間違っていないな。私は、こいつらの保護者みたいな者だからな。」
どうやら、アリ君の中での私のポジションは、まだまだ『手のかかる妹』の粋を出ないらしい。残念である。
それにしても、クラウド選手は強かった。オッズは低いけれども、確実に勝ってくれるので、心許なくなっていた懐は、すっかり温かくなっていた。
それを元手に、私達は、作戦を決行した。
実力を全部出すのではなく、オッズの高い内に、低ランクの出場枠で戦うのだ。当然ながら、ファイトマネーは少なくなるが、賭けには勝つので、儲けが大きいのだ。
選手は、自分には賭けれないルールだったので、私はカイル君に全額を、カイル君は私に全額を賭けた。
階級もずらしたので、お互いがぶつかる心配も無い。
アリ君も、ジェンユ君も、思い思いに賭けに興じた。
気付くと、私もカイル君も、お互いの階級で、10連勝を達成していた。
名前が知られ始め、いよいよ階級を上げなければ、稼げなくなってきていた。
仕方無く、二人とも階級を2ランクずつ上げた。
暫くは、オッズも高かった。いきなり2ランクも上げるとなると、舐めてると思われるからだ。
しかし。幸か不幸か、私もカイル君も、ちょっとやそっとじゃ、負けない位には強かった。
あっという間に、またもや10連勝してしまった。
そんな事が、3回程繰り返された頃。
次はどうしようかと話し合っていたところに、丁寧な物腰の老執事風の男性が、此方に近付いて来た。
「皇帝陛下のご友人、トリスティーファ・ラスティン様、カイル・オニッツ様、アリス・トートス様そして、案内人のジェンユ様ですね?主人がお話があるそうです。失礼ですが、此方にご足労願えますか?」
その人からは、穏やかな大海を思わせる武威を感じた。並々ならぬ使い手であると、察せられた。
「あの、どちら様のご使者様ですか?無礼の無いように心掛けていたのですが、何か失礼でもいたしましたか?」
『呼び出し=叱られる』と誤認している私には、此方に何か非があるのではと心配になる呼び掛けだった。
「おや、これは失礼。私は、嵐帝様の使いの者です。主は、貴女方をこの国に入られた頃より注視しておられました。どうぞ、重ねてお願い申し上げます。主の元までご足労願えますか?」
あくまでも穏やかな物腰で、しかし、有無を言わせない空気だった。
「分かりました。お目汚しになるやもしれませんが、よろしくお願いします。」
老執事はにっこりと微笑むと、私達を最上階へと誘った。
九竜城の最奥に、嵐帝の居室へと向かう通路がある。最上階に行くには、昇降機と呼ばれるデクストラ技術を使うらしい。歩く場合は、30階分の階段を登らなければならない。自動で上がるなんて、すばらしい。
嵐帝は、とても話の分かる人物だった。
あくまでも、皇帝陛下のご友人がどんな人物なのかを知りたかっただけの様で、戦闘を持ち掛けたり、私達の正義感に火を付けてしまう様な人物でも無かった。
せっかく来てくれたのだから、と、秘蔵の飛行機なる空を飛ぶ機械も見せてくれた。
代わりに、詳しいやり取りは記録に残さないと約束して、私達は、九竜城を後にした。
少なくとも、私にとっては、嵐帝さんは、裏社会を牛耳る、ではなく、裏社会を統治する、というスタンスの人物に映った。
こうして、私のセリカでの旅は終わり。
ジェラート船長の待つ、湊町まで移動して、ジェンユ君とも別れたのである。
「ジェラート船長。準備はどうですか?」
「おお。久し振りじゃの、トリス。バッチリじゃよ♪」
「じゃあ、次の目的地ですね。えいっ!」
ジェラート船長の船長室で、地図を拡げた私達二人は。パタリと倒れた棒を見て言った。
「次は此処ですね♪」
「うむ。耶都じゃの。楽しみじゃ。」
次の目的地は決まった。耶都だ。スサノオ君の国である。前途は揚々である。
セリカ編終了です。