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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
帰路~セリカ~
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17  帰路~セリカにて.16~


17、セリカにて 16






 トップーン。


 と、水音がして、カルシ・バクウさんは、足元の岩と共に地底川に落ちた。




 だが、《宿せし者》や魔神等、《神々の欠片》(ピース)が空へ昇る気配は無かった。どうやら、彼は死なずに流されただけの様だ。



 よく観察していたアリ君によると、最後のカイル君の攻撃をかわしながら、カルシ・バクウさんは、自ら後ろに跳んだらしい。笑顔で、退場する事を選んだ様に見えたのだそうだ。

 よく考えたら、彼は、私達の戦闘データが欲しかっただけで、身命を賭して戦う必要は無かったのである。




「見事に逃げられたな。くっそ!一撃も当たらなかったぜ!」



 悔しそうにカイル君が言った。



「無事に終わったのなら、良かったじゃないですか。セリカの武道者の凄さが分かって、こちらとしても、収穫はあったでしょう?」



 剣を鞘に納めながら、カイル君に言った。



「そうだけどよ…。やっぱり悔しいもんは悔しいぜ!次あったら、一撃くらいは入れたいなぁ。」


 全面に悔しさを滲ませて、まだ強くなれる自分への焦燥を口にするカイル君。成長途中の少年らしい感想である。



「私は、稽古を付けて貰えるだけでも十分ですけどね。魔を狩る勤めも大事ですけど、命が大切ですもの。死にたくはありませんよ。」



 強さを求めるカイル君の素直さが眩しくて、私はそう、嘯いた。自信を持って敵と相対できる程、私の心は強くないのである。私も、カイル君みたいにはっきり敵対の意志を告げられる程の、自分に対する自信が欲しいものである。

 そんな想いが胸中を過る。



 と、カイル君が、剣を仕舞いながらアリ君に話しかけた。



「それにしても、アリの奴、やはり最高だな。的確で分かりやすい指示で、動きやすかったぜ。ありがとな。」


 爽やかに言い切るカイル君。その笑顔はとても眩しかった。


(私も、それに倣わなければ。)



 何時もは真っ先に告げる、アリ君へのお礼が出来ていない事に気付いた私は、慌ててカイル君に続いた。



「私からもお礼を言います。ありがとうございます、アリ君!貴方の指示はとても動きやすいです。貴方が私の軍師で、私はとても嬉しいです。」



 アリ君は、私達二人からの賛辞に、照れたような笑顔で応えてくれた。



「お前らへの指示だからな。なるべく分かりやすくを心掛けているんだ。」



 とくん。



 私の心臓が鼓動を速めた。


(この笑顔が見たくて、私は頑張っているんですよねぇ…。もっと、アリ君に構われたいです…。)



 私も、カイル君も、笑って戦闘の無事な終了を喜んでいると。



「アリのにぃちゃんって…猛獣使いみたいだったな。すげぇ…。」



 隅で戦闘を見ていたジェンユ君が寄って来て、そんな感想を呟いた。






 さてこれからどうしようかと、全員が舞台の中央に集まった時だった。何処かで何かが、カチリと鳴った。すると、カラカラカラカラと、歯車が廻り出して…。洞窟の天井部が左右に分かれ、音も無く、舞台が上昇した。

 岩舞台は、そのまま暗い穴を登ってゆき。





 私達は、大きな川の中に、ぽっかりと浮かんでいた。

 対岸には、天に聳える様な摩天楼と、複雑に入り組んだ水路が巡る雑多な印象の都市があった。

 川には何か巨大な生物が居るらしく、水が赤く染まっている部分がある。



「此処は、何処なのでしょうね…?」



 現在地も分からずに、私は茫然と呟いた。





「うわっ…。ここって…もしかして…。」




 対岸や、今の状況を見回して、何か思い当たる処があったらしいジェンユ君が、驚いた様な声をあげた。



「何だ?ジェンユ。分かるのか?」



 アリ君が聞いた。



「うん…。驚かないでおくれよ?おいら達、九竜城(クーロンじょう)の入り口に居るみたいなんだ。」




「「「九竜城?」」」




 聞き慣れない地名に、私達は声を揃えて聞き返した。

 ごくりと息を飲んで、ジェンユ君は語り始めた。


「うん。セリカの裏社会が誇る、嵐帝の居城でさ。あの対岸の都市は、裏社会のルールが罷り通っていてね、非合法が日常なんだ。困った事にね、この川には、人の味を覚えた鰐と鮫が棲んでいるんだ。…飼われていると言ってもいい。それから、ねぇちゃん達、気付いてる?この足場、少しずつ崩れて行ってるんだ。早く何とかしないと、鰐や鮫の餌食だよ!?」



 喋りながら、自分達の危うい状況に思い至り、ジェンユ君が声を荒らげた。



「落ち着いてください。ジェンユ君。状況を整理して対策を練りましょう。助かる道がある筈です。諦めてはいけません。」


 宥める様に、私はジェンユ君に言った。



「でも、九竜城は怖いよ!」



 怯えるジェンユ君に、今度はアリ君が聞いた。



「九竜城には行きたくなさそうだな、ジェンユ。では、九竜城と反対側には渡れないのか?」



 焦燥を抑える様に、ジェンユ君は言葉を紡ぐ。



「川から既に九竜城の支配下なんだよ。だから、川をどちらかに渡るには、船に頼むしか無いんだけど、九竜城側からしか船は出てないんだ。中途半端なこの位置じゃ、見捨てられて終わりだよ!」



 半ば錯乱しながらも、ガイドとして詰め込んだ知識を披露してくれるジェンユ君。



「安心しろ、ジェンユ。お前は俺らがちゃんと守るさ。な?」



「そうだぞ?ジェンユ。しかし、九竜城側にしか行けないとなると、船守りに此処に寄って貰う必要があるな。と、なると、だ。ジェンユ。船守りを呼ぶ方法とか、九竜城でのルールとか、分かるか?」




「うん。九竜城に入るには、莫大なお金が必要なんだ。勿論、中に入ってからも、莫大なお金は必要で…。つまり、お金次第で何でも出来るんだよ。」



「船守りも、か?」



「うん。賄賂があれば来てくれるって話が有名だよ。」



「安心しろ。資金なら潤沢にある。トリス。取り敢えず、1クラウンを彼処に見える船守りに向かって当てろ。やれるな?」



「勿論です。いきますよ♪」




 アリ君の指示に応えるべく、私は嬉々として目を凝らした。十分射程範囲内である。ちゃんと気付いて貰える様に、私は、これから始まる鰐と鮫による殺戮を楽しもうと、此方を見ている船守り目掛けて、1クラウン金貨を投げ付けた。


 船守りの額に見事に当たったらしく、彼は頭を仰け反らせた。そして、額に当たったのが、大金である事を知ると、鰐や鮫に大事な資金源であるお客が食べられて、資金の回収が不可能になる前に、此方へと船を渡してくれたのである。





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