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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
帰路~セリカ~
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16  帰路~セリカにて.15~

今回も短いです。


16、セリカにて 15






 セリカにやって来て初めての《神々の欠片》(ピース)の昇華を目の当たりにして、私は、『世界が繋がっている』と言う事を、改めて実感していた。


 ハイルランドでも、極北の地でも、そしてセリカでも。何かしらの『特別な力』…国や地域によって呼び方は変わるけれど…を持った者は、闇に堕ちると、更に力を増し、消滅すると、『力の源』(私の認識では『神々の欠片(ピース)』)が空へ昇華し、肉体や魂は、虚空に呑まれていく。

 その法則は変わらないらしい。




 真教の教えと重なる所、異なる所がある事に、私は驚いた。

 聖書(真実の書)に書かれている事の外に、世界が広がっている。その事実に、自分の故郷(ハイルランド)の『思考的基盤の頑なさ』が表れている様で、私は不安を抱いた。



 魔神とされている、明らかに超常的な力を持った、唯一神アーとは違う上位存在がいる事。魔に堕ちると欲望のままに行動するとされていながら、自意識を保って、自制心を働かせながら人々と折り合いを付けている存在もいる事。

 それらを認識した事で、私は、私の『世界』が、また少し広がったのを感じた。




 ぼんやりと、昇華されていく《神々の欠片》(ピース)を眺めながら、感慨に耽っていると。




 不意に、カツンカツンと足音がした。




「自己紹介ヲシヨウカ。ワタシ、コノ『蛇禍』ノとっぷ、カルシ・バクウ。早速ダガ、オ前達、中々ノ使イ手ノヨウダナ。強サヲ求メルノガ、『蛇禍』ノ本質。オ前達ノ個トシテノ強サデナク、オ前達ノ全トシテノ強サヲ試サセテ貰イタイ。はいるらんどノ《宿セシ者》達ノ強サヲ。」




 穏やかに、包み込むようなバリトンの声が、辺りに響いた。

 訛りはあるが、わざわざハイルランドの言葉で語り掛けてきたのは、なんと、『蛇禍』のトップだという。

 包容力のある、闇が凝った様な男が、舞台中央にやって来た。


 私が口を開こうとした瞬間、すっと男は右手を挙げて、私の問いを遮った。



「警戒無用。ワタシ、魔道ニ嵌マッタ、罹瘟ト違ウ。命マデ、イラナイ。はいるらんどノ戦士ノ強サ、知ルノガ目的。」




 厳粛な神父の様に、彼は話始めた。




「…。何の、為に、知りたいのですか…?」




 不自然に現れたカルシ・バクウさんに、私は疑問をぶつけた。




「己ノ強サ、知ル。是、他ト相対スルトキ、トテモ重要。相手ノ強サ知ル、是モマタ、重要。両方ヲ良ク知ラバ、怖イモノハ無イ。故ニ、はいるらんどノ超人《宿セシ者》タル汝ラノ強サヲ測ラン。」



 粛々と、彼は問いに答えてくれた。楊先生も仰っていた通り、『己を知り、敵を知らば、百戦危うからず』ではあるのですが。まさか、相手に其れを言われるとは思わなかった。




「随分と、厚待遇ですね…。トップ自らがお相手して下さるとは。私達を買い被りすぎではありませんか…?」




「オ前タチ、陸続キトハイエ、北ノ大地ヲ越エテ来タ猛者ダナ。はいるらんどノ中デモ、恐ラク警戒スベキ好敵手。配下ニ相手ヲ任セルニハ、荷ガ勝チスギルト判断シタマデ。」




 人好きのする笑顔で言い切られた。




「3対1だぞ?いいのか?」




 気圧された口調で、カイル君が口を出した。




「《宿セシ者》ノ本当ノ強サ、ちーむヲ組ンデ始メテ発揮スルト、調ベハツイテイル。元ヨリソノツモリダ。」




至極落ち着いた様子で、カルシ・バクウさんは断言した。




「ソレニ。オ前タチニ遅レヲ取ル程、ワタシモ弱クハ無イ。」




「戦いたく無いのですが、どうしても、戦わねばなりませんか?」




「戦ワネバ、コノ舞台ノ起爆装置ヲ発動サセル。ワタシガすいっちヲ押ス前ニ奪ッテミロ。ソレナラバ、否ハアルマイ。」




 起爆装置と思われる、スイッチの付いた四角い物体を見せられて、私は、覚悟を決めた。




「…。分かりました。腕試しとしてなら、お相手致しましょう。」










 そうして、激しいやり取りが3分間に渡って続いた。




 私が繰り出す攻撃は、余りにも起爆装置を狙って放たれる為に、カルシ・バクウさんには、軽くあしらわれる。かといって、カイル君と連携してのフェイントも、練度が足らないらしく、今一つの所で、決定打には至らなかった。


「ソンナモノカ。」



 歴戦の戦士らしい武術を極めるカルシ・バクウさんには、私達が助言も受けずに行う脳筋的な動きは、動物的で、とても読みやすいものだった様だ。



 それは、アリ君の目から見ても同じだった様で。



「トリス!カイル!動きが甘い!何も考えず、指示に従え!」



と、私の軍師様から、激が飛んだ。


 アリ君の指示に、絶対的な信頼を置く私は、一もニもなく反射で返事をした。


「はい!アリ君!分かりました。」



 アリ君の戦闘時の指示の正確さを、身に染みて知っているカイル君も、


「おう!」


と、返事をした。




 そこから、戦場の空気が一変した。



「カイル!右から横一閃!後に足元に降り下ろし!」



「同時にトリスは三本同時に上から突き刺せ!」



 次々と下される指示に、私は、いや、私達は応えて行った。


 それは、カルシ・バクウさんを舞台中央から次第に舞台縁へと追い詰めていき。



「カイル!足元を斬鉄剣!」



というアリ君の指示により、足場を崩されたカルシ・バクウさんを。




 漸く地底川に落とす事に成功したのだった。







ありがとうございました。

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