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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
帰路~セリカ~
69/151

15  帰路~セリカにて.14~

短めです。


15、セリカにて 14






 広い鍾乳洞の奥底。まぁるい舞台を取り囲むのは、自然に流れる地下の滝。地面の下で、人知れず落下するその滝の流れは、中央の平たい岩舞台を取り囲む様に、川を作り、広い空洞にさらされ、また次の滝へと姿を変える。

 その水は、光を浴びない事により、冷気が立ち昇る程に冷え冷えとしていた。

 川の流れは、地上よりも速く力強い事が、岩に叩き付けられる水音から察せられる。



 そんな、凛とした空気の中で、雌雄を決せんとする、二人の人影があった。




 白い民族服の男、罹瘟さんは、独特な構えをとっていた。両足を前後に開き、腰を落としたその姿勢と、ゆっくりと鎌首をもたげる様な両手。そのスタイルは、蟷螂を思わせた。ゆっくりと、前後に重心を移動している。その重心の移動の仕方や、どんな攻撃にも対応できる様に油断無く交差する両手の動きからは、熟練の威圧感が感じられる。




(まるで、白い蟷螂の様です…。)




 私がそう感じた様に、罹瘟さんは、セリカ特有の武術の極意、自然との一体化を、かなり具体的に習得している様であった。様々な動物という見本の中から、彼には蟷螂との相性が良かったのだろうと想像できた。




(これは…カイル君、苦戦するかも知れないですね…。)




 一方、黒い鎧に身を包み、黒いマントを纏ったカイル君は、基本に忠実に愛剣リベリオンを正面に構えていた。





 見ている側にも、対戦する側にも、ピリリとした緊張が走る。



 呼吸すら苦しいその空気の中で、先に動いたのは、意外にも、カイル君だった。




 カイル君は、基本的に、後の先を主体とする攻撃スタイルであり、反撃に特化した重戦士である。

 だから、先に足を動かし、上段からの袈裟懸けを仕掛け様とするなんて事は、私から見ると、とても彼らしからぬ行動に映った。



「せいやっ!」



 烈拍の気合いを込めて、カイル君がリベリオンを振り下ろした。



 罹瘟さんは、焦りもせず、真上から振り下ろされた剣を、半歩左にずれる事で避けた。







「…。トリス。あの罹瘟とかいう輩。お前にはどう見える?」


 小声で、アリ君が、私に尋ねた。勿論、目線は二人から外さない。

 私は少し考えて、


「あちらも、カイル君と同じ、後の先を得意としている様に見えます。」


と、見解を述べた。




「違うな。私の見立てだが、奴は、ゆっくりした手の動きで、カイルの注意を誘導している様に見える。だから、カイルは、其れを打ち消しに動いたんだ。」



 アリ君は、罹瘟さんの武威について、かなり正確に見抜いている様だった。


「でも、だとしたら、私が彼を相手にしたとして、やはり私から仕掛ける事になりますよね…。誘導される前に攻撃するのですから、私なら楽勝なのでは無いですか?」



「違うな、トリス。残念だが、お前が普通に斬りかかっても、いなされてしまうだろう。奴の重心移動は、並みの鍛練では身に付かないレベルだっただろう?」



「確かに。並々ならぬ修練を重ねていらっしゃるのが分かりますね。後、生気が凄いです。私では、気迫負けしますね…。」



「ああ。カイルだからこそ、相手になっている、と考えて間違えあるまい。私は戦士ではないし、お前には生気が足りない。闘気に呑まれてあっという間にKOだな。」




 そんな話をしている間にも、二人の攻防は続いていた。

 どちらも、大振りで、ゆっくりとした演武に見える動きだ。だが、互いに紙一重で避ける中で、避け損ねたかの様に、一筋、また一筋と、赤い傷が増えて行く。直撃は避けている筈なのに、互いの闘傷は避けきれていない様だ。




 カイル君の呼吸があがっている。

 対する罹瘟さんは、余裕綽々な態度で避けている様に見えた。



 だが、実際はそうではなかった。

 体が暖まり、呼吸が上がった事で、カイル君の動きが、段々と良くなってきたのだ。それは、極々僅かな変動だった。

 ずっと手合わせしている罹瘟さんには、気付かれない程度。

 罹瘟さんの闘気に触れるカイル君の傷が、少しずつ薄くなっているのである。




 目を皿の様にして、二人に注視していたからこそ気付いた、それほど些細な変化は。



 20分も続いた頃、状況を一変させた。




ガハッ!



と、口から胃液を吐瀉して、突然、罹瘟さんが、ガクリと崩れ落ちたのだ。



「へへっ。漸く、一撃入ったな。」




ゼイゼイと上がる呼吸を整えながら、してやったり、と、カイル君が、言葉を発した。




 リベリオンの柄で、カイル君は、罹瘟さんの鳩尾に一撃を加えていたのだ。


 それまで、刃で攻撃を繰り返していた、カイル君の変則攻撃である。

 罹瘟さんは、蟷螂の様な身のこなしで、カイル君を翻弄する事に夢中になっていたが、途中からその主導権をカイル君に奪われていた事に気付かなかったのだ。

 それほど巧妙に、カイル君は攻撃を加減していた。



「これで、最後だっ!」



 そう気合いを入れて、カイル君は、アーツを繰り出した。




ドゴンっ!



と、派手な音を響かせて、罹瘟さんは地に伏した。




「あ〜…完敗ですか…。素晴らしい手合わせでしたよ…私は、満足です…。」




 そう言った、罹瘟さんの体から、キラキラと、《神々の欠片》(ピース)が空へと昇ってゆく。



「ボス…すみません…後は、任せました…。」




 罹瘟さんの体が、虚空に呑まれてゆく。





 セリカでも、堕ちた存在はいるらしい。

 ハイルランドと違うのは、その存在は、自由意志を維持している、という点にありそうだ。


 満足気に、己の消滅を受け入れた罹瘟さんから、そんな事を感じた。








戦闘描写が苦手です。

でも、これが精一杯でした。

次回も戦闘回の予定です。


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