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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
帰路~セリカ~
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8  帰路~セリカにて.7~


8、セリカにて 7






「さて。何について話そうか?」


 様々な飲茶を食べながら、セスさんはニコニコと上機嫌に言った。



「…トリス。私から先に口を開いていいだろうか?」



 女性相手に、自ら疑問を挟もうとしたのは、アリ君で。そんな事は、余りにも珍しくて、私は目を見張った。


(珍しいです、アリ君が女性相手に積極的なのは…。好みのタイプなのかしら…。私の事は、『妹』なのに…。そりゃ、殿方には、夜のお友達も必要とは聞きますが…。私の目の前で口説かれるのは、ちょっと…いや、大分嫌ですね…。いえ、そんな権利は私にはないのですが…。こんな勘繰りをしている自分にも、辟易しますが。でも、あの、アリ君ですもの。色恋とはきっと関係無いに違いありません。むしろ、そうであって欲しいです。)


 私は、そんな事を考えているとは、おくびにも出さずに、



「何か、気になる事があるんですか?アリ君。」


と、素直に聞いた。



「あぁ、セスとか言ったか。お前は、セリカの国力に詳しそうな口振りだったからな。その辺についてもう少し詳しく聞きたいんだ。」



 案の定、アリ君にとって大切だったのは、『セス』という女性ではなく、『セスという女性がもつ、セリカの情報』の方だった様だ。


(アリ君がこういう人だってわかっていましたが、こんなにも心乱されるなんて、恋とは何と厄介なのかしら。一人相撲で、私、バカみたい。)



 そんな想いを振り切って、会話に集中する。



「確かに、詳しそうでしたね。セスさん、分かる範囲で、いえ、教えられる範囲で構わないので、ご教授願えますか?セリカの事。」



 セスさんに目線を合わせて、丁寧にお願いしてみた。セスさんは、それに気を悪くするでもなく、面白い事を見付けた猫みたいな眼でこちらを見ると、にっこりと笑った。


「勿論いいとも。君らは、異国から態々お越し頂いたお客人だからね。こちらとしても、正しい情報を得てもらいたいと、考える訳さ。だから、君らの申し出は、願ってもいない事だね♪」



 詳しく聞いても大丈夫だとお墨付きを頂いて、アリ君は、遠慮なく切り出した。



「ではまず、この国の基本的な事柄を伺いたい。」



「ふむ。セリカの基本的な知識だね♪まず、セリカとは、皇帝ウラディミカによって治められている国であるのは知っているかい?」



「ああ、勿論だ。」



「皇帝ウラディミカは、君らの言うところの《神々の欠片》を宿せし不死者でもあり、セリカ建国以来、お一人で国を支えていらっしゃるんだ。そして、セリカの長い歴史、具体的には、大体5000年くらいかな、の中で様々な、革新的な制度を採り入れ、国民の生活を守っていらっしゃる、セリカ国民にとって、神にも等しい存在なんだ。」



「建国5000年だと!?という事は、聖書にある、大皆食…太陽が陰り、月が欠け、星が見えなくなったという事象を体験しておられるのか!?」



「ハイルランドでは、そんな事もあったみたいだね。セリカの空は、太陽は輝き、月は満ち欠けし、星空は満天だよ♪…これも、皇帝陛下のお力だと言われているよ。」



 言われてみれば、極北から南下してから、太陽は眩しいばかりに輝き、月は満ち、星は美しく夜空を彩っていた。薄闇に被われたハイルランドとは大違いである。



「それから、二本の大河、黄河と長江だね、これらの河が運ぶ肥沃な大地と高い気温のお陰で、稲が実り易いから、食糧も豊富だし、国境の長城のお陰で、外敵からの侵略も防げるんだ。平和だから、技術開発も盛んなんだよ。」



「私達からすると、信じられない位発展してますもんね。メニュー表だって、均一な文字ですし、何より、紙が羊皮紙ではなさそうです。どういう製法なのかしら…?」



「この国の書物は、竹巻から発展してるからね。態々腐食しやすい、保存しにくい羊皮紙なんて使わないんだ。インクは墨汁だし、植物から採った繊維で作る紙が普及してるんだよ。セリカのたゆまぬ研究の成果だね♪そして、紙の詳しい製法は、秘匿されているんだ。当然だよね♪この技術一つ取っても、他国より抜きん出て進んでいるんだから。自国の優位を勝手にばらしたら、どの国だって怒るでしょ?」



「それはそうだな。」



「後は、そうだな。武器に使う鉱物が、鉄ではないって事とか?」


「なっ…何を使っているのですか!?」



 他国の武器の情報に、思わず前のめりになる私。



「鉄を更に鍛えた、『鋼』だね。鉄より硬く、鉄よりしなやかで強い金属だよ。使い方が独特で、特殊な訓練が必要なんだ。但し、他国で使用する場合は、皇帝ウラディミカ直々に許可を頂かないと使えないけどね?」



「どういう事ですか?」



「そりゃ軍事機密その物なんだから、容易く他国に流出させる訳にはいかないよね♪それに、例えば国の出入りに手続きもしていない輩とかは、不振者以外何者でもないから、武器とか購入不可なのも当然だよね♪」



「どうすれば、その貴重な武器をコレクション出来るのでしょうか!」


 ガバッと食い付く私に、


「トリス、武器が欲しいのは理解しているが、先ずは落ち着け。情報を集めなければ、対応もしようがなかろうが。」



しょんぼりしかかった私に、アリ君が宥める様に告げる。



「はっ!そうですね。聞かなければならない事が、それこそ山のようにありますよね。」



「わかったら、続きを聞くぞ。頼む。」



 アリ君はポンポンと私の頭を叩くと、セスさんに続きを促した。



「あとは…セリカはとても広いからさ。陛下の信任の下、12の将、12神将が軍務を取り仕切っているんだ。英雄の名を冠した人物も特定数いてさ。内政にもそう言った方々が関わっているんだよ。内政に関しては、科挙と言う制度があってね。全国民から優秀な人材を登用しているんだ。なんたって、識字率は99%を超えているからね。後は本人の努力次第で、いくらでも伸し上がれるって訳さ。あぁ、勉強が無理でも、兵士として有用な人材も、ちゃんと登用する制度も整っているんだよ♪」




 ニコニコしながら、話すセスさんに、私は少し、違和感を覚えた。それは、はっきりとした物では無かったが、試されている時特有の感覚、とでも言うべきだろうか。

 直感的に、判った。

 彼女を長く拘束してはいけない、と。

 だから、思い切って聞いてみた。



「セスさんは…どうしてそんなにセリカの内情に詳しいんですか?それに、何故、私に、いえ、私達に、そんな貴重な情報を教えてくれるのですか?」



 セスさんは、じっと私を見つめると、



「ふふふ。良く気が付いたね。それはね、トリス。ぼくが、君と友達になりたいからさ。君、面白そうだしさ。そうだ。後で、此処を訪ねて来てね。その時に、詳しい話をしてあげるよ。さぁ、ぼくの自由時間は終わりみたいだ。ああ、そうそう。ここの支払いはぼくが持つから、君たちはゆっくりしてってよ♪じぁあね。まってるよ♪」



 セスさんは、そう言うと、一枚のメモ書きを残し、止める間も無く部屋を出ていった。




 部屋には、まだ大量の飲茶が残されていた。極寒の地で、食糧の大切さを身に染みて実感している私達には、それらを無駄にする事なんて、到底出来ない事だった。

 だから、ジェンユ君が戻って来るのを待ちつつ、ひとまず私達はゆっくりと飲茶を堪能する事にした。









 それから一時間も経たないうちに、ジェンユ君は戻って来た。


「お帰りなさい、ジェンユ君。ジェンユ君の分も有るんですよ、どうぞ召し上がってください。」


 労いの意味も込めて、飲茶を勧める。



「ありがとう、トリスのねぇちゃん。口頭で全部説明すんのは、聞く方も疲れるだろ?だからさ、おいら、パンフレットを各種持って来たぜ。おいらが食べてる間、ねぇちゃん達は取り敢えず、それでも見てておくれよ♪そこに載ってる事は、大抵の奴が知ってる事なんだけどさ、おいら、どこでも案内出来る様にコネクションを作っておいたんだぜ♪」



「それは、ありがとうございます。ジェンユ君。アリ君、カイル君、手分けして資料を読みましょう。気になる事が分かるかも知れませんよ。」



「あ、パンフレットに無いことで、言い忘れてた。ねぇちゃん達、こういう席での食べ物は、全部食べきっちゃ駄目だぜ?露店ではいいんだけどさ。この国では、料理人に、『お腹に入らない位のもてなしをして貰って感謝する』って気持ちを込めて、少し残すのがマナーなんだ。全部食べ切るのは、『足りない』って不満を表すんだぜ。」



「忠告、ありがとうございます。危ないところでした。危うく全部食べちゃうところでしたよ。」



「忠告が間に合って良かったよ♪おいらが食べてる間に、行きたい場所をピックアップしといておくれよ!張り切って案内するぜ♪」





 美味しそうに飲茶を頬張るジェンユ君の持って来たパンフレットを読みながら、私達は幾つも驚くべき事を発見した。

 この茶房が、特級の位を持つ最高級の茶房であった事。

 セスさんの話した内容のほとんどが、パンフレットに載ってる以上の情報だった事。

 セリカは貿易鎖国の国であり、入国手続きが必要な国である事。

 そして、セスさんの残した住所が、皇帝陛下の居城、紫禁城である事。




 どうやら私達の、次の目的地は、この国の中枢、紫禁城であるらしい。





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