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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
帰路~セリカ~
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7  帰路~セリカにて.6~


7、セリカにて 6






 セスさんに連れられて、やって来た、待望のパンダのコーナー。

 そこで待っていたのは…。




『パンダだよ〜ん♪』




 という、看板を持っている、一頭のパンダだった。

 そのパンダ、可愛くボールをお腹に持って、脚でくるくると回したり、



『お捻りは竹がいいよん♪』



という看板をその場で作って掲げたりしている。



 勿論、パンダは一頭だけではなく、何頭も居るのだが、その…明らかに言語を理解しているパンダは、際立って目立つ存在だった。



「これが、我がセリカが誇る珍獣パンダ達だよ♪」


ジャジャンっ♪


と、手を広げて、セスさんが言う。


「そして、あの目立ってるパンダが、ここのマスコットの元元だね。セリカ全土でも有名なパンダだよ!おいらが一目見てみたかったパンダなんだ。」


 瞳をキラキラさせて、ジェンユ君が解説してくれる。


「着ぐるみ、では、ないのですか?精巧に出来たぬいぐるみが動いている様に見えるのですが…。」


 白と黒の愛らしい巨体をゆさゆさと揺らしながら動いているパンダ達を見ながら、私は、パンダという生き物は着ぐるみではないのかと疑問に思った。


「パンダっていう生き物は、それ位可愛らしい生き物なのさ♪ま、ぼくの可愛らしさには負けるけどね♪」


 ふふん♪とセスさん。



「可愛らしいだけでなく、愛嬌もあるのが、元元の素晴らしいところなんだよ!」




 そんな話を、パンダ達の前でしていたら、件の元元が、此方に看板を向けてきた。



『私は着ぐるみじゃないよん♪』


 一生懸命看板を製作しながら話し掛けてきてくれる元元に、私はとうとう、直接話し掛けた。



『動物園に飼われていて、不満は無いのですか?不自由があるのでは、無いのですか?』


と。私は、半分以上、野生で生きてきたと言っても過言ではないくらい、自然界に馴染んでいると、自覚している。その私から見て、悠々と暮らしているパンダ達に、疑問を抱いたのだ。




 パンダ達は口々に、パフォ〜っと鳴いた。


『自然に比べたら、此処は天国だ。』



『保護してくれる皇帝ウラディミカ陛下は、神様みたいな存在なのだよ。』



『密猟者から保護してくれてるからね。恩返しに、いろんな技を覚えたのだよ。』



…等と教えてくれた。


『そんなに、恩を感じているのですね。』


 セリカを治めるウラディミカ陛下について、動物からも慕われている事を聞いて、私は内心びっくりしていた。ハイルランドとはえらい違いである。


 そんな中、自分も負けじとアピールをしようとしていた元元が、


『そうだなぁ。陛下がお忍びで来られたら、案内している客人にアピールするくらいのサービスはすりなぁ。あ!すまない。失言だった。』



と、口を滑らせたらしく、慌てた様子で言った。



『え?何ですって?』


 私は、詳しく追求しようとしたが、


『聞えな〜い。私はただのパンダだよ〜ん♪』


元元は、それ以降、会話をしてはくれなくなった。


 ただ、


『寝るよん♪』


という看板を掲げたきり、後ろを向いてしまったのだ。




「トリスのねぇちゃん、何してたんだ?」



 いつの間にか隣に来ていたジェンユ君に言われる。


「パンダさん達と直接お話ししてたのですが…寝てしまわれました。」


 しょんぼりしながら、ジェンユ君に告げる。



「あ〜…動物は自由だからね。でも、ねぇちゃん、パンダと話ができるの?」



「気付いているかも知れないですが、私達3人は、《神々の欠片》を宿しているんですよ。だから、言葉に不自由してないんです。まぁ、私は動物達との会話にも不自由しない能力を持っているんですけどね。」



「え?《神々の欠片》を宿しているって?そんなのお伽噺の中の存在だと思ってたよ!セリカじゃ、凄い能力を持っているのは、英雄か、仙人か、皇帝陛下くらいなんだぜ?だいたい、そんな人達も滅多に人前に出てこないし…神話やお伽噺の人物って認識だよ。」



「え?まさか、魔神や魔物なんかもいないんですか?」



「いないよぉ!だいたい、一番怖いのは、人間なんだぜ?まぁ、たまぁに、僻地で妖怪仙人が悪さしてるって話も聞くけどさ。セリカは文明国なんだぜ?そんな幻想、通用しないよ!」



 確かに、ここセリカは、文明が明らかにハイルランドより進んでいる。見上げる程の高い箱形の建築物に、贅沢な硝子窓。随所に設置された、夜街灯。馬車も走っているが、鋼鉄の車輪を使用していたり、重輪車(バイク)や軽輪車が、当然の様に広い街道を走っている。



「そうだ、ねぇちゃん!そろそろお腹も空いてきたろ?さっきセスちゃんとも話がしたいって言ってし。だからさ、おいら、個室のある茶房を予約しといたんだ。そこに行くのはどうだい?」



「そんな…いつの間に…。」


 私がびっくりしていると、カイル君が言った。


「トリス、呼んでもちっとも気付かないくらい集中してたもんな。」



「そうだな。その間に、ジェンユに個室の予約に行かせてたんだが、正解だったな。」



 なんと私は、ジェンユ君がそんな行動をとれるくらい長く、パンダに見とれていたらしい。



「ジェンユ君、凄いですね♪案内の才能がありますね!頼もしいです。」


「えへへ。ありがとう。誉めて貰えて、おいら嬉しいよ。…この国は、自分の出来る事をやるのならば、それがどんな才能であれ、奨励されるんだけどさ。おいら、自分には、スリの才能しか無いと思ってたんだ。だけど…トリスのねぇちゃんが、あんまりにもおいらを信頼してくれるからさ。おいら…おいら、真っ当な道でも頑張りたいって思ったんだ。」



「素晴らしい心意気だと思いますよ。では、せっかくジェンユ君が見つけて来てくれた茶房に向かいましょうか♪」



「うん♪こっちだよ!」



 そう言って、嬉しそうに私達を案内してくれるジェンユ君が余りにも輝いていたので、私には、彼が眩しく見えたのだった。







 茶房に着くと、ジェンユ君は、一緒には室内に入らなかった。


「トリスのねぇちゃん、案内料、というか、チップをちょっと貰えるかい?おいら、ねぇちゃん達が話してる間に、もっと西安の事、調べとくよ!」


「え?そんなに頑張らなくても、構わないんですよ?一緒にお茶しましょうよ。」



「うん。気持ちは、凄く嬉しいんだけどさ。ねぇちゃん達を案内すんの、すげぇ楽しくてさ。おいら、もっと役に立ちたくて、居ても立ってもいられねぇんだ。だから、さ、行かせてくれよ。な?」



「トリスだっけ。行かせてやんなよ。この国では、こんなに生き生き仕事が出来るのを邪魔しちゃ、無粋に当たるんだ。才能を開花させる気があるなら、どんな職業でも卑下してはならないっていう、皇帝陛下のご意向でね。」


 セスさんが、ジェンユ君をフォローする。




「じゃあ、お願いしようかな。」



 チャリチャリと、ジェンユ君に、若干多目にお金を渡す。


「余ったお金は、好きに使っていいですよ?ジェンユ君、素晴らしい案内人ですから♪」



 ジェンユ君はお金を確認すると、



「トリスのねぇちゃんはさ、おいらが持ち逃げするとか、考えないのか?」


と、戸惑いを顕にして聞いてきた。



「え?するんですか?私は、ジェンユ君は、そんな事しないと信じてますよ?」


 きょとんとする私を横目に、


「諦めろ、ジェンユ。トリスには、そういう悪意は通用せんぞ。逆にコイツに心配されるだけだ。」



アリ君が、渋い顔で、そう告げた。



「アリのにぃちゃんが言うなら、間違いないね。分かった。おいら、行ってくるね!」



 元気よく駆けていくジェンユ君を見送って、私達は今度こそ、ゆっくりとお話しを楽しむ事にした。







「おぅ!セスちゃんじゃねぇか!久しぶりだな!元気だったか?」


「あ、セスちゃん!」


 店に入ると、セスさんを見掛けたらしい店員達がセスさんの入店に寄ってきた。セスさんは、慣れた様子で、店主に挨拶を交わす。



「店主〜セリカに初めて来られた異国の客人に、店主の素晴らしい飲茶を振る舞ってあげてよ♪」


 店主も慣れた物で、気軽に、でも親愛を込めて、これを受け入れていた。


「おぅ!セスちゃんの頼みとあらぁ、期待に応えない訳にはいかねぇなぁ!腕によりをかけるぜ。」



 店主は、ガハハと豪快に笑って快諾した。







 案内されたのは、最上階の個室。明らかに、上得意様向けの個室だった。


「まあ、まずお茶でも飲もうか。七宝茶なんかお勧めだよ♪」



「じゃあ、それをお願いします。」



 緊張しながらも、恐々と席について、出されたお茶は。


 セリカのお茶は、一言で言うと、優雅だった。

 七種類の色鮮やかな茶葉が、硝子細工の急須の中で、ゆっくりと花開き、舞を踊りながら、それぞれの色を溢れ出させ、香りを醸し出している。その香りも、味も、しっかりと調和を取りながら、お互いを高め会う組み合わせなのである。

 目にも、鼻にも、口にも美味しいお茶なのである。



「美味しいです…流石は、お茶の本番ですね…。洗練されていて、飲み慣れた祖国の紅茶より、歴史の深みを感じます。」


「綺麗だよな。旨いし。」



「優雅だな。」



「気に入ったかい?このお茶はね、ぼくのお気に入りなんだ♪」




 お茶に感激しているうちに、次々と飲茶が運ばれて来る。全品運び込むと、店主がやって来た。


「セリカの飲茶を、どうぞご堪能ください。お客人。」


「店主、ありがとう。これからぼくらはゆっくり話をするから、暫くぼくらだけにして貰えるかな?」



「勿論でさぁ。セスちゃんの頼みを断ったら、親衛隊の奴らにどやされちまうぜ。さぁ、お客人方、冷めねぇうちに、召し上がってくんなせぇ。」



 店主はそう言って、部屋から出ていった。




 私は、人間社会に馴染めていないので、ついうっかり、自然界でやることをしてしまった。それは、周囲に人は居ないか、安心出来るばなのか、という事を確認する為の、知覚チェックである。

 匂い、物音、不自然に見えるものがないか、等、感覚を鋭敏にして、隈無くチェックする。


 結果、私の感覚に引っ掛かる様な怪しいモノは無かった。



 ただ、私は気付かなかった。


 そんな私の態度を、然り気無く観察している者の存在に。






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