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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
帰路~セリカ~
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2  帰路~セリカにて.1~

よろしくお願いします。


2、セリカにて 1





 北極点よりは南下して、しかし私達の船は、大河を海と勘違い。挙げ句の果てに、長江を北西に遡上し、なんと絹国(セリカ)は荊州(けいしゅう)に着いていたっというのだから、自分たちでもびっくりである。




 忙しそうに働いている漁師さんを掴まえて、現在地の確認をしたら、前のような事実が判明したのだった。




 しばし、現実に呆然としていた私達。


 それがいけなかった。



 カイル君に、走ってきた少年がぶつかったのだ。



「おっとごめんよ!兄ちゃん。」



 二人が縺れて転んだかと思うと、少年はすぐに立ち上がり、走って行った。

 アリ君が、カイル君に、



「あっ!マズい!おいっ!カイル!急いで追え!摺られたぞ!」



と注意した。

 ハッとしたカイル君は即座に立ち上がり、彼を追い掛けてゆく。

 私もハッとして、懐を押さえ、カイル君を追う。



 少年も手慣れたもので、障害物の多い裏路地へ入り、逃げていく。


 小石の多い通路を通り、洗濯物を抱えたご婦人の脇をギリギリですり抜け、木戸をノックして、金網の下に空いた穴に滑り込もうとする少年。

 カイル君は彼を追いながら、ジャンプで小石をかわし、少年にびっくりしたご婦人の反対側を、洗濯物を溢さない様に素早くすり抜け、ノックで開いたドアの反対側の壁を走り抜け、金網をジャンプして、穴を抜けようとしていた少年の上に着地した。



「なっ何するんだよ!」



 ジタバタと暴れる少年。


「まずは、盗ったモノを返して貰おうか?」



 カイル君の有無を言わさぬ迫力に、少年は、しぶしぶお金を返した。



「やっと追い付きました。いきなり走り出すから、びっくりしましたよ。」



 私達が追い付いた時には、既に勝敗は決していた様である。



「いや、悪い。油断していた。」



 私とカイル君が話している足元で、バツが悪そうにしている少年。

 私は彼の目を見ようとしゃがみこんだ。

 そして、じっと目を除き込むと、



「こんにちは。私はトリスティーファ・ラスティンって言うの。この国は初めてなんだけど、良かったら案内してくれないかしら?右も左も分からないから、難儀しているのよね。」



「でも…」



「おいっ!トリス!」



 少年が言い淀み、アリ君が止めようとした。けれども、私の直感は囁くのだ。この出会いは意味のあるものだと。

 だから、続けた。



「案内料はちゃんと払いますし、経費はこちらで持ちます。だから、正直に案内してくれると嬉しいんだけど。勿論、駄目なら他を捜しますけど…。どうでしょう?」



 少年は、びっくりした様な顔をして、



「おいらでいいの?おいら、その兄ちゃんから摺ろうとしたんだよ?」



「構いません。私は、君ならいい案内をしてくれると直感しました。この土地の良いところを、貴方の目線で、私達に教えてくれませんか?」



 少年は、意を決した様に顔をあげ、立ち上がると、カイル君に、



「摺ろうとしてごめんよ、兄ちゃん。おいら、ジェンユ。尤も、もうこの名前を呼んでくれる奴は居ないんだけどな。こんなおいらでもいいのかな?」



と精一杯謝ってくれた。

 カイル君も、



「お前の判断も、すげぇよ。トリスが案内を頼んだんだ。宜しく頼む。おれはカイル・オニッツだ。」



と笑顔で少年の肩をポンポンと叩いた。

 アリ君は、はぁ。と溜め息を一つ吐くと、



「私はアリス・トートスだ。アリでいい。次に我々に危害を加えようとしたら、覚悟しとけよ?次は容赦しないからな?」



と、私とジェンユ少年に忠告をした。



「そういう訳なんで、案内、宜しくお願いしますね♪」



 私はジェンユ少年の手を握ると、ブンブンと上下に降って喜びを表現した。






 さて、文明の味に焦がれていた私達は、案内人ジェンユ君に、オススメのお店に連れて行って貰う事にした。

 因みに、ではあるが、私達を乗せてきたジェラート船長の船には、シャワールームが完備されている。よって、長旅ではあったし、未踏の地を旅しては来たが、私達の身なりははっきり言って小綺麗である。

 だからこそ、ジェンユ君に狙われてしまったのっはあるが、それはご愛嬌、というものであろう。



 そんな、御上りさん全開な私達が案内されたのが、《猫手飯店》(ミャオシャンハンテン)である。一見、とても萎びた感じのある、開いているのか判断のつきにくいお店なのだ。何故なら、何十匹いるのか分からないからくらいの、野良猫?半野良猫?のたむろしている場所だからである。だが、猫好き同盟を友人と立ち上げてしまうくらいに重度な猫好きの私としては、天国のような場所である。…他の人の感性では抵抗があるかも知れないけれども。


 そう思って猫達を眺めていると、豪奢な馬車が停まった。

 そして、



「こんな所で逢うとは奇遇ね?三人とも、元気にしてたかしら?」



と、声を掛けてくる人物がいた。



誰だろう?



そう思って振り返ると、其処には、男性にエスコートされ、優雅に馬車から降りてくる女性の姿があった。


そう。それは…




「フォルフェクスさんに、クレアさん!?何故こんな所に???」


北に向かう前に、学園で別れた、あの二人だったのだ。

 この様子から察するに、クレアさんは男遊びを極力控えて、フォルフェクスさんをまだキープ扱いしているらしい。



「あはは〜。びっくりした?今ね、私はセリカを活動拠点にしてるのよ♪それより、久しぶりじゃない!トリス、アリ君、カイル君。このお店、個室もあるからゆっくりお話ししましょうか?」



 にっこりと綺麗に笑って、クレアさんは、有無を言わさず店内へと私達を連れ込んだ。




 クレアさんのオススメで、個室に案内された私達。そこで、文明の味に飢えた私達が行った行動は。メニューの端から端まで一通り注文をするという、暴挙だ。



「とにかく、美味しい料理が食べたいです。」



「ああ、サバイバルな食事にはちょっと飽いたな。」


「旨い飯!」



 と、ガッツいていたが。今思うと、若干人間性が低くなっていたかも知れない。



 そんな状態の私達を、クレアさんは質問攻めにした。


 当然である。


 私達は、遥か未開の地で数ヶ月を過ごしていた上に、音信不通だったのだから。





 長い話を聞き終わると、


「成る程。大変だったわね。」



クレアさんはそう言って、にっこり笑った。

 そして、グイッと私を脇に呼び、耳許で囁いた。



「で?二人との仲は進展したのかしら?」



「より強固な『仲間』としての絆が深まりました!」



 私は、現状を素直に申告した。



「つまり、男女としての仲は全く進んでいないのね?」



「はい。私の想いは確定してますし、今はそれでいいかな、と。アリ君にとっては、私は完全に『世話のやける妹』ですからね。再確認させられました。」



 クレアさんは、アリ君の方をちらりと見ると、残念そうに溜め息を吐いた。



「じゃあ、カイル君はどうなのよ?」



「安心して背中を預けられる戦友ですね!学ぶべき所の多い方で、尊敬できる仲間です。」



 今度は私が、クレアさんに、残念なモノを見る目で見られた。



「クレアさんこそ、フォルフェクスさんとはどうなんですか?」



 予想を確認すべく、探りを入れてみる。



「何時もの通りよ?私が男遊びを止めたら、それこそ私じゃないわね♪」


 いっそ清々しいくらいに彼女は言い切った。



 私は、そんな彼女だからこそ、尊敬できるし、魅力的なのだろうなと感じるのだった。






ありがとうございました。

難産です。


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