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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
北極圏
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2  北極圏編~アズライト~


2.アズライト 





 その日は酒場の納屋に泊まらせてもらい、旅の疲れを暫し癒す。




 翌日は、日が登ってからの目覚めとなった。

 思っていたより、疲れが溜まっていたようである。

 だが、剣士として、毎朝の鍛練は欠かせない。

 私は、まだ疲れて寝ているアリ君とカイル君を起こさない様に、そっと寝床を抜け出す。

 そして、酒場の裏手に周り、素振りを開始する。

 程なくして、



「精が出るな。私も加わらせて貰おう。」



と、グインさんも鍛練に加わった。

 それを良いことに、私はグインさんに、



「身体が暖まったらでいいので、稽古をつけては頂けませんか?」


と申し出た。



「…。熱心だな。良いだろう。」



 グインさんが言った直後。

 納屋から出て来たカイル君が、



「いいな♪俺にも宜しくお願いします。」



と、参加を表明した。



「分かった。二人まとめて掛かってこい。それくらいで丁度良いだろう。」



 グインさんは快諾してくれた。



「グインが楽しそうだ♪二人とも、頑張ってね!」



「私はその間、自分の鍛練をしておく。お前達みたいな事はできんからな。」



 そんなグインさんと私達二人の稽古を、マリウス君とアリ君は楽し気に眺めていた。






 船乗り達のゆっくりし出す昼下がりを狙って、私達はそれぞれに別れて、情報収集を開始した。

 この寒い地で、他国まで漕ぎ出せる性能を持った船と船乗りを探すのだ。

 グインさん達は、その他に、『豹頭の神・シュレノス』の情報も調べるらしい。




 私が、船と船乗りの情報を集めていると、



「すまない。少し訊ねたい。」



と、後ろから声を掛けられた。

 振り向くと、身長2メートル近い、腰まである長い黒髪で、バランスの取れた肢体のお姉さんが立っていた。ラピスラズリの様な深い青色の瞳の、深紅のマントの出で立ちだった。



「ひゃあっ…!」



 私は、びっくりして、私がお話を聞いていた漁師さんの後ろに隠れた。


 それを見た漁師さんは、


「嬢ちゃん、いきなり俺を矢面に立たせないでくれるか?」



と、私に非難の抗議をあげた後、私の様子を観察して、



「それから、そっちのデカイねぇさんも、順番ってもんは守ってもらいたいな。」



と、そちらにもまた注意した。



「それは、失礼した。」


 お姉さんは、素直に頭を下げて、大人しく順番を待つ事にしたようだ。


 それに気付かず、おどおどしながら、私は漁師さんにお礼を告げる。



「漁師さん、ありがとうございます。私は、実はあんまり人が得意ではなくて…。どう接していいか分からない事があるんです。」



 そんな私を見て、ふぅ。と溜め息を吐くと、漁師さんは優しく宥める様に言った。



「嬢ちゃん、おいちゃんは嬢ちゃんの事情は詳しく知らねぇがな。ちょっと話を聞いてやるから、ゆっくり話してみな?聞いてやるだけなら、おいちゃん力になってやれっからよぉ。」





 そうして、優しく一から小一時間程、話を聞いてくれた漁師さん。



「ははぁ。性能の良い船と度胸のある船乗りを探してるって事かい。成る程なぁ。」



 船乗りさんは、私の後ろを見やると、



「さっきから、頷いてる所を見ると、そっちのデカイねぇさんも、同じみてぇだな。」


と言った。



え?



と思い、後ろを見ると、嬉しそうに頷く黒髪美人がいた。



「二人ともおんなじ目的みてぇだし、一度に教えてやらぁな。」





 私は、親切な船乗りさんのお陰で、有望な船と船乗りを教えて貰えた。

 仲間に有益な情報を持ち帰れる幸運に胸を踊らせながら、私は酒場に向かうのだった。






トコトコトコトコ。



トコトコトコトコ。




 私が酒場に向かっていると、後ろを付かず離れずに着いてくる足音がした。正確には、ずっと着いて来ている、と言うべきだろうか。

 後ろを振り返ると、その人は嬉しそうにニコニコと笑う。

 私は、着いてくるか、とも、一緒に行こうとも言っていないのに、である。



(狭い集落ですもの。目的地が同じでも不思議じゃないですよね。酒場位しかこの先にはないんだし。 )


 そう思うことにして、私は、知らない人が着いてくるという恐怖を忘れるのに必死になった。


 知らず知らずのうちに、足並みは速くなっており、酒場に着いた時には、半ば走っていた。



バタン!


 勢い良く扉を開けて、ダダダッとアリ君達のいるテーブルに急いだ。


「お待たせしました。」


 そう謝って、席につく。


「待っていたぞ、トリス。そちらは?」



 不思議そうに私の後ろを見ながら、アリ君が尋ねる。


「え?」


 私は単独行動ですよ、と言おうとして、後ろを振り返った。

 黒髪のお姉さんが、ニコニコしながら私の後ろに立っていた。

 そして、抑揚の少ない声で、自分の事を話始めた。



「私は、アズライトと言う。死んだ恋人を捜している。何処かに転生しているはずなんだ。」




「そのアズライトさんが、俺らに一体何の用なんだ?」



カイル君が尋ねた。



「恋人の手掛かりを求めてこの地に来た。君らの船に同行させては貰えないだろうか?」



「何故、私達の船に?」


 アリ君が尋ねた。



「私は、魔神だ。だが、君らはむやみやたらと敵対していない魔神を殺さないと聞いた。異形を異端と扱わない姿勢にも好感が持てる。そして何より、タロットに君らの事が顕れていたからね。私の道標として。」



 穏やかな雰囲気で、彼女は言った。




「同行できるかは、トリスと、船次第だな。我々のリーダーは彼女だ。」



 どうする?とアリ君が聞いてきた。



「うー…知らない人は苦手ですが…困っている人は放っておけません。私達を乗せてくれる船次第ですね。」



 そうして、アズライトさんの件は一旦保留とする事にした。






「話を戻しましょう。」



 私は親切な船乗りさんから得た情報を開示した。



 今、運良くこの港には、高性能な船が率いる船団が停留中である事。

 船長が、カメロンさん、副船長がジェラートさんという事。


 そう。以前お世話になった、あの二人である。


「その二人なら、既にスカウトしてきたぞ?」



 事も無げにアリ君が言った。



「本当ですか?」



 手配の素早さに驚く私。



「ホントだぜ?もうすぐ来るはずだ。」



 そう、私達が話している所へ大量の料理を持って、件の二人がやって来た。



「久しいのぉ〜♪元気じゃったか?こんな所で会えるとは、奇遇じゃのぅ。」



 明るい声でジェラート副船長が言う。



「元気そうで何よりだ。」



 ドサドサと料理を並べ、カメロン船長がドカリと席に着いた。



 そうして、食事を楽しみながら、それぞれの事情を話していく。




 結果、次の様な事が決まった。



 グインさんとマリウス君、アリ君とカイル君はカメロン船長の船に、私とアズライトさんはジェラート副船長の船に乗って、流氷の海を航る。



 何故ならば、ジェラート副船長の船には、蒸気船の副産物として、シャワー室が付いているからである。女性冒険者にとっては、お風呂問題は大変重要なファクターを占めているのである。




 アリ君とカイル君に関しては、何か思うところがあるらしく、男性だけでお話ししたい事があるのだそうだ。

 きっと、日頃のストレスもあるのだろうと、私は考える。




 それにしても、シャワーは良い。

 お湯が使える、身体が洗える、さっぱりできる。これは至福である。

 これからの旅路に、楽しみができた。







ありがとうございました。

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