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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
北極圏
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1  北極圏編~懐かしい人達~

出会いがあれば別れもある、またその逆も然り、というお話です。


【第五章 北極圏編】




1.懐かしい人達





 賢者ロカンドロス様にお会いする、という、当初の目的は達成した。

 そこで発生するのが、『次にどうしたいか』、という新な目標の設定である。

 目的は、賢者ロカンドロス様とお会いし、直接お話しした事で生まれている。『自分自身と向き合う』である。

 私は、どうすれば自分自身と向き合えるのだろうか?

 全く見当がつかない。

 では、どうしたら良いか。

 こういった場合、我が師グリーンヒル先生はおっしゃっていた。


「問題にぶつかってどうしたら良いか分からない時には、取り敢えず動いてみる事も有効である。状況が動く事で、少なくとも膠着状態からは脱する事が出来る。」

と。

 そこで、私は考えてみた。

 このまま戻る事が、本当に私の望みなのかを。




 しばらく考えてみたのだが、私には、知らない事が多すぎる。世界とは何なのか自分自身で知ることから始めよう。幸い、私は今、最果てとも言える前人未到の地にいる。つまり、何処へでも行けるし、何処へ行っても咎めるモノは何もない。


 だから、先ずは北の果てを目指す事にした。

 それを、パーティーメンバーに伝える。



「あの、皆さん。私は、此れから、自分自身を見直す為に、世界のあちこちを見ながらゆっくり戻ろうと思います。まだ誰も見ていないモノを知る為に。」



 そう言って見回すと。



「俺は、トリスに着いて行くぜ?家訓にもあるからな。『一度関わったら、最後まで付き合う事。』って。それに、余裕が出来たら、俺の事も考えてくれる余裕も出てくるだろうからな♪」



と、カイル君がサムズアップをしながら応えてくれた。



「はぁっ。トリス。私はお前の軍師だからな。お前の進む道には付き合ってやるさ。学園に帰るまでがこの旅、だからな。仕方ない。」



 やれやれ、困った妹だ、と、アリ君も応じてくれた。


 そして、お兄様は、



「トリスちゃん。お姉ちゃんはここで帰りますわね。そろそろ、御父様達の暴走が心配ですからねっ。トリスちゃんは、きちんと無事に戻って来る事。出来るわね?」


と、何時ものドレス姿で小首を傾げながら、己の為すべき事に、互いに向き合う事にしようと、告げた。



「分かっています。世界を見て、自分の幅を広げて帰ります。」



 深々と頭を下げて、妹思いの優しいお兄様に言う。


「それでこそ、僕の妹だね♪」



 よしよし、と、満足気に私の頭を撫でると、お兄様は、颯爽と、もと来た道を引き返して行った。




 それを見送った後、私は徐に一本の木の棒を取り出した。



「ん!?トリス?その木の棒で何をするつもりなんだ?まさか…」



「え?アリ君、まさかも何もありませんよ?色んな本に書いてあったんですけどね、古今東西、昔から今に至るまで、道に迷ったら棒を倒して進むべき先を決める、という、由緒正しい方法があるんですって♪ですからそれを試そうかとおもいまして♪」



「えっおいっ早まるなっ!それは正しいやり方では…」



と、慌てている姿を尻目に、私は



「えいっ」



と、棒を倒して行くべき先を決めたのだった。




 私は、棒の倒れた方角を見据えた。

 そちらには、だだっ広い雪原が広がっていた。





「ロカンドロス様、お世話になりました。行くべき先も決まりましたので、そろそろお暇を戴こうと思います。ありがとうございました。」



 私は、ロカンドロス様に頭を下げた。


 すると、もぞもぞと胸元からラクウィークさんが這い出てきて言った。



『トリス、なかなかスリリングな体験をありがとな♪おいらはここでお別れだ。人間の街を見たいからな♪今度はフェイフェイと行くよ♪』



 ぴょんと跳ねて、彼はフェイフェイ君の肩にちょこんと座った。

 それを確認して、ロカンドロス様はおっしゃった。



「フェイフェイや。お前さんは、キタイにお戻り。ついでに悪いがラクウィークも連れていっておくれ。トリスの嬢ちゃんには、ゆっくり考える時間が必要みたいじゃからな。」



「分かったぜ。ロカンドロス様もこう言ってるし、キタイにもどるな!短い間だったが、楽しかったぜ、ねぇちゃんたち♪またな。」



 フェイフェイ君は、やたらと嬉しそうにそう言って、笑って見送ってくれた。勿論、ロカンドロス様とラクウィークさんも。






 そんな別れがあって、2日が過ぎた頃。


 私達の目の前には、大きな氷の島が、幾つも浮かぶ海が広がっていた。

 その岸辺に、私達は、小さな港を有する、小さな集落を見つける事ができた。



「人里ですよ!やっぱり、導きの神様はいらっしゃるのですね♪」



「トリス?お前、棒倒しが本当に死なない道を指し示していると本気で思ってるんじゃないよな?」



「思ってますよ?自分の可能性を試しているんですもん。当然です♪」



「アリもトリスも、そんな事は今は置いとこうぜ。何せ、人里があるんだ!そっちが先だろう。」


「くっ…。カイルが正しいな。今は、人里での補給や情報の把握が先決だ。行くぞ!」




 という訳で、北極圏にある、名もない小さな港村に私達は向かう事になった。




 漁村に着いた私達は、先ずは宿を探すべく、酒場に行った。

 寒風吹きすさぶ中歩いてきた私達を、酒場の空気が温かく迎え入れてくれる。

 先ずはカウンターに向かう。

 カイル君が手慣れた感じでマスターに尋ねる。


「身体の暖まる、旨い飯を五人前と、それぞれに暖かい飲み物を頼む。それから…」



「色々聞きたいことがあるので、教えて貰えると助かる。」


 カイル君の後を引き継いで、チャリっと金貨を置いてアリ君が交渉のテーブルに就いた。

 マスターはチラリとこちらを見て、



「あんたら、旅人かい。珍しいな。こんなに余所者が集まるのも。生憎とこんな漁村だ。宿屋なんて酔狂な物はねぇ。納屋でも使いな。壁があるだけ少しはましなハズだぜ?」



と、寝る場所のサービスまでしてくれた。


ありがたい。


 そう思いながら私が先にテーブルに着くと、


♪ポロロン♪


とリュートの音色と、柔らかな歌声が、酒場を満たした。暖かな春を待ち望む、冬の寒さを忘れるような陽気で楽しい気分になる曲目だった。




 音楽に聞き惚れながら、料理を待つ私に、


「相席いいかな?」


と、声を掛ける人がいた。


誰だろう、


と不思議に思い、振り向く。

 そこには、極寒の地に似合わない、暖かな質量を持つ人物が立っていた。



 彼を見た瞬間、私は喜びに顔を綻ばせた。




 何故なら、声を掛けてくれたのが、グィンさんだったからである。

 ならば、この素晴らしい音楽を聞かせてくれているのは、懐かしい、あのマリウス君に違いないのだ。




 私は喜びのままに、



「ええ。どうぞ♪是非ともご一緒致しましょう!」



と、快く申し出を受けた。




「「「「「再会を祝して、乾杯♪」」」」」


 私、アリ君、カイル君、グインさん、マリウス君がテーブルを囲んだ所で、私達は再会の乾杯を交わした。



「お久しぶりですね。グインさん。マリウス君。こんな所で再会出来るとは思っていませんでした。お元気そうで何よりです♪」



 ホットワインをふうふうと冷ましながら、私はグインさんに挨拶をした。

 彼は、ふっと目を細めて私を眺めた後、



「そちらもな。悩みが晴れた様な顔をしているな。」



と、言った。



「ええ。お陰様で。新たな悩みもありはしますけど…どれだけ自分と向き合えるか挑戦中です♪」

 見透かされてるな、と思いながらも、近況を報告した。

 そして、私も彼をじっと眺めて、感想を述べる。



「グインさんこそ、少し心の重みが軽くなられたご様子ですね。安心感が増してますよ?」



 グインさんは、右手で口元を覆い、クスクス笑って、



「マリウスのおかげだな。彼の明るさに救われているよ。ありがたい事だ。」



と、寛いだ様子で応えてくれた。



「解るぜ。マリウスは相変わらず凄いもんなぁ。極寒の地に春が来たみたいな見事な演奏だったぜ?」


 モグモグと口を動かしながら、カイユ君がマリウス君の話をした。



「そっ…そんな事はありませんよ。やだなぁ。ハハハっ」



 マリウス君が照れていた。



 それを尻目に、アリ君が、マスターに注文を追加する。



「マスター、更に追加だ。このメンバーだからな。とりあえず、10人前頼む。」



 マスターは、



「ハイヨ!」



と、前に注文していた分の料理を持ってきながら、渋い顔をして了承した。

 置いた先から料理がどんどん消費されていくのを目の当たりにしたからだ。




「で、今後グイン達は、どうする予定なんだ?」



 真面目な顔をしたアリ君が、グインさんに旅の予定を確認した。



「ああ、私達か。豹頭の神の伝承のある地があると噂を耳にしたんでな。そちらに向かおうと思っているところだ。私と同じ種族の話が聞けるかも知れんからな。」



「成る程。それは、どちらにあるんだ?」



「ここから海を越えた先にあるらしい。今、船を探してこの村に滞在しているんだ。」



「途中まで同行する事は可能だろうか?トリスの奴がな、自分の運を試すとか行って、棒倒しで

道を決めてしまったんだ。」



 その後、アリ君は、グインさんにだけ聞こえるように呟いた。



(トリスはともかく、私達二人は人里が恋しいのでな。なるべく彼女の望みは叶えてやりたいが、限度があるんだ。)



 グインさんは、当たり障りなく、



「同行するのは構わないぞ。旅は道連れ、とも言うしな。何より、彼女は私に怯えなかった。そういう相手は大変貴重だ。」



 目の前で、アリ君とグインさんによる握手が交わされる。



「トリス。いいか?船を探すのに、グイン達と一緒に探すからな?」



「わかりました。アリ君! グインさん、マリウス君、暫くの間、よろしくお願いします。」



「こちらこそ、よろしくな。」



 そうして、私達は、臨時的に協力することになった。






ありがとうございました。

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