5 大学生活編~動き出す、《運命》~
11.動き出す、《運命》
今日もいつものように、楽しい揚先生の講義が始まった。
「さて、皆、ここで質問だ。〔戦略に於いて、自分に有利な条件を整えなさい。〕」
揚先生の質問に対して、私は真剣に考える。前回の授業で、戦争はいけないと習った。私も、争うのは間違っていると思う。じゃあ、どうしたらいいのだろう?
私が悩んでいると、アルヴィン君が言った。
「直感的に、敵陣の後ろに陳を張る。」
(なるほど、敵の後ろを捕れたら強いよね。)
アルヴィン君の意見に感心する私。
次にレヴィちゃんが言った。
「もう戦は始まっているのですわね?ならば、戦に関して私のとれる手は一切ありませんわ。私が考えつくものは、1時間くらいで効果を発揮する毒を敵陣にまく、など、戦の前に行う事ばかりですもの。」
(すごいなぁ。戦の前準備に相手の戦力を削ぐのかぁ。考えつかなかったよ。)
レヴィちゃんの意見に私が驚いているのを横目に、アルヴィン君が一言。
「やっぱり、お前とは合わねぇわ。つか、卑怯臭くてかなわねぇ。」
それを聞いたレヴィちゃんも負けじと
「それは、私の方ですわ。『直感的に』って何なんですのっ。理論と言うものも分からないんですか?」
と返した。
(このままでは喧嘩になっちゃう。)
そう思った私は、二人を止める意味も込めて、挙手した。
「はい。」
その意図を汲み取ってくださったのか、揚先生が私を指名する。
「うん。なんだい、トリス。」
「はい。私達は、前回の授業で、戦争はいけないと習いました。私も、争うのは間違っていると思います。だから、相手に、『戦争は良くないので、降伏勧告?でいいのかな、戦争するのをやめましょう』という主旨の勧告を送ります。っていうのは駄目ですか?」
と、否定される事を前提とした、〈普通なら間違いであろうけれど、自分ならこうする〉という回答をした。
すると、後方から、
「馬鹿か貴様らはッ!!!!!」
と、如何にも我慢の限界を超えたという風な怒鳴り声が聞こえた。大喝である。
意見を争わせていた二人、そして、ある意味ボケに聞こえる私の回答。
そのすべてに、彼は怒ったのだ。
「馬鹿か貴様らはッ!!!!!」
その一言で、教室内は、しんっとなった。
そう、彼こそ、天才軍師と噂されている、アリス・トートスさんである。
彼は南国エクセター王国の出身で、浅黒い張りのある肌、群青の瞳、黒い短髪、身長180cmを超える長身の美男子(18歳)だ。
遠くから眺める事はあったが、大きくて歳も離れているので、私としては威圧感を感じる相手である。
以前であれば、〈出来れば近づきたくない相手〉だった。だが、今、この状況で大喝を入れれる人物である。
只者ではないだろう。親しくなって、その考え方を聞きたい、と思った私は、授業中ではあったが、彼に向き会った。
「はじめまして。私、トリスティーファ・ラスティンです。貴方のお名前は何ですか。」
と聞いた。
律儀な彼は答えた。
「アリス・トートスだ。」
「アリスさんですね。」
「アリでいい。長いからな。」
「じゃあ、アリさん。」
「アリ、だ。」
前述したが、私は呼び捨ては苦手だ。それが年上なら、なおさらである。苦肉の策で、
「アリ…君。」
と呼び掛けた。
「まぁいい。何だ。」
呼び方の妥協点を見出だした私は、とても気になっていた事を尋ねた。
「いつもの授業だと、アリ君は発言なさいませんよね?何故今回は発言をしたのですか?というか、貴方ならどうするのですか?」
「お前らの発言が余りにも目に余ったからだ。いい加減我慢の限界だ。いいか、ここはだな、敵軍がこういう配置ならば、地形を考え併せて、こことここに3部隊、相手の補給部隊を狙う一軍をここに置いてだな…。」
…。アリ君は、親切にも、黒板に図解付きで詳しく説明してくれた。
(本当にこの人は、律儀な人なんだなぁ。)
と、説明を聞きながら思った。
と同時に、
(こんなに楽しい話しを聞けるなら、今度からは狙ってアリ君に怒られる発言をしよう。講義内容も解りやすくなるし、活気に満ちて、楽しさアップだし、いい事いっぱいだよね♪)
と、アリ君のツッコミポイントに近づく質問・発言を心がけようと決意した。
これが、これから先、数々の絆を結んでいく仲間達の、出会いであり、はじまりなのだった。