16 放浪|(たび)の始まり~キタイの事 6~
7.キタイの事 6
其処に居たのは、光の巨人でありながら、今まで一度も目にしたことのないお方だった。
私達は、今までに三度、光の巨人と共に窮地を切り抜けてきた。
それは、ただ二人の光の巨人たちであった。
このお方は、その二人とは格の違う、威厳を讃えていた。
暖かく、全てを赦し、けれども敵対者には容赦の無い、光の守護神ともいうべき存在感だった。
彼は私達の魂に語り掛けてきた。
『よく、諦めずに闘ったな。小さな戦士たちよ。心に灯す希望の光をよくぞ翳らす事無く闘った。そして、囚われし我らの仲間を二人も救ってくれて有難う。感謝する。私は、彼等の統率者たる者。君らの戦いに、わずかばかりだが、力を貸そう。我等が光の世界と共に!』
どういう事なのだろうかと、疑問を口にする間も無く、
カッ
っと光が弾けた。
『何!?援軍だと!!?』
私達の復活を見て、ヤンダルゾックは驚愕の声を上げた。
『誰ぞと思えば、貴様、光の巨人たちの父ではないか!そんな虫けらどもの手助けをするとは、相変わらず酔狂なヤツよな!!いいだろう。お前たち諸とも潰してくれるわ!!』
これに対し、光の巨人たちの父と呼ばれた存在は、言い返した。
『久しいな。ヤンダルゾックよ。この様な場所で再び合間見えるとは、因果な事よな。だが、彼等のを虫呼ばわりするのは如何なものかな。その身で味わってみるがいい。彼等の光を。』
そう言って、光の巨人たちの父は、私達を暖かく癒し、励ましてくれた。
光の巨人たちの父が言い終わるや否や、身体の中から光が溢れ出し、私達の体力や気力、傷までが、まるで戦闘をする以前のように回復していた。
しかも、ただ回復しただけではない。
絶好調の状態にまでなっていた。
「有難い。これで俺らはまだまだアイツと渡り合える。制限時間までまだ闘える。感謝するぜ。」
と、カイル君。
「そうですわね。あの糞忌々しいヤンダルゾックをぶちのめしてやれそうですこと。ありがとうございますわ。」
と、おねえ様。
「感謝する。やれるだけの事はやった。あとは、ヤツが倒れるまで、トリス達に暴れさせるだけだ。私の策通りにな。」
と、アリ君。
「ご支援、感謝致します。これで、彼の策通りに動けます。」
と、私が。
それぞれに感謝を伝えて。
そうして。
ついに、第2ラウンドの幕が切って落とされた。
ヤンダルゾックが動くその前に、アリ君は、素早くある行動を取っていた。
それは、アリ君による指揮である。素早く私達に執るべき行動を指示したのだ。
まず、おねえ様のエルス1号の支援で、攻撃力を四倍に高めて貰った。
次に、おねえ様に、魔獣を召喚させた。目的は、パーティー全体に、この世界にある8つの魔法の属性(火、水、風、土、光、闇、雷、虚)全てを付与させて、物理攻撃で魔法ダメージを与えられる様にする事だ。
そうして下準備を整えておいて、カイル君には、愛馬トロンベと共に、ヤンダルゾックの足止めをさせた。
アリ君が、私に指示したのは、体力を代償に攻撃力を上げて、受けたダメージを攻撃力に上乗せして、二本の魔剣で攻撃する事だった。
私の行動は、基本的には、前の攻撃手段と変わらない。
だが、私自身は、周りを見回して、機を伺っていた。
何故なら、私自身にも、魂を奮わせる応援は使えるから。
私は、これで、おねえ様のエルスに元気を与えた。
私から活力を得たおねえ様のエルスは、パーティー全体に、私よりも規模の大きい応援を送った。これにより、ヤンダルゾックよりも速く、全員が攻撃できるだけの元気を得た。
今度は、私自身も含めて、3連続のアタックを行った。
「好きな人《アリ君》の前で無様なところは見せられないわ!私は、まだ、道具になんかならない!例え望みの情ではなくても、大切にされているから!」
愛剣3本に気迫を込めて、ヤンダルゾックに叩き込んだ。
カイル君も、両手の大剣を二度三度と切り返し、
「好きな女を前にして、ソイツを護れないようじゃあ、俺は俺自身を許せねぇ!トリスを奪わせもしねぇ!くたばれよ!!!ヤンダルゾック!!!!!!」
人馬一体の剣技で斬りかかった。
おねえ様も召喚した魔獣に攻撃を指示しながら叫ぶ。
「大事な妹に何してくれやがりますの!!!滅しなさい!ヤンダルゾック!!!!!」
それを見ていたアリ君も、
「私もたまには攻撃してみるか。せっかく基本火力も4倍になっていることだし、通るだろう。」
と、呟くと、普段の冷静さをかなぐり捨てて、バスタードソードを握りしめ、
「よくも私の大切な妹分のトリスを!!!!覚悟しろ!アリスラッシュ!!!!!」
と、攻撃に参加した。
軍師のまさかの直接攻撃に、ヤンダルゾックは、大いに驚愕していた。
何故ならば、軍師であるアリ君の一撃は、何とか残ったヤンダルゾックのHPを、きっちり0点にまで削り切っていたのだから。
『ぐわあああああああ何故だあぁぁぁぁあ!!!!!ちっぽけな虫けらごときにィい゛イ゛イィィ…』
自身の消滅が最期まで信じられない、という様に、疑問の声を響かせながら、ヤンダルゾックは虚空へと吸い込まれていく。
そして、キラキラと、大量の《神々の欠片》が空へと昇って行った。
それは、極北の地で見られるオーロラとはまた違った美しさで。まるで世界を祝福しているかの様な光景だった。
こうして、強大な敵・竜王ヤンダルゾックを消滅させると共に、キタイを解放する事に成功した。
『ぷはっ。ようやく戦闘終了かっ!?』
ラクウィークさんが胸元からもぞもぞと這い出て来て言った。
美しい空を見上げながら、私は警戒を解いて、ラクウィークさんに応じた。
「ええ。終わりましたよ♪皆さんのお蔭ですね。」
私がそうやってラクウィークさんと話していると、
「うをっ!居たな、そういや。」
と、カイル君が此方に気付いて驚いていた。
「すっかり忘れていましたわ。潰れて居ませんでしたのね。残念ですわ。」
おねえ様もラクウィークさんを見て、残念そうに呟いていた。
「リー達の方にも報せんとな。」
アリ君が事後処理について想いを馳せている。
そこに、
『その心配は無い。ヤンダルゾックの奴は完全に消滅した。と、光の子らに伝えたのでな。』
と、光の巨人たちの父からのメッセージが心に響き渡った。
『皆のもの、ご苦労だった。後はこの地に住まう者の頑張り次第だ。光の子らよ。闇に屈しなかった事、誇るがいい。去らばだ。』
それを合図に、光の巨人たちの父及び戦闘に参加してくれた方々は、それぞれのいるべき場所に戻って行った。
そして、シーアンとホータンに別れていたキタイは、皆の支持により、リーさんが治めるシーホータンへと姿を変えたのだった。
見送りの時。リーさんの心尽くしがあった。
「これから皆さんは賢者ロカンドロスの所へ行くのですよね?手前のエリアまで、この者、フェイフェイに案内させましょう。連れて行ってください。」
それが、フェイフェイという、利発そうな少年である。
彼は、雪原のエキスパートであり、雪原を住み処とする民族との交流に長けているそうだ。
「わざわざ、ありがとうございます。宜しくお願いしますね。」
「町を救っていただいたのです。お礼を言うのは此方でしょう。フェイフェイ、案内をお願いしますね。」
「わかったよ。リーのあんちゃん。トリスねぇちゃんだっけ。宜しくな。」
「では、どうぞお気をつけて。」
都市中の見送りの中、私達は旅立った。
目指すは更に北。
賢者ロカンドロスの元である。
ありがとうございました。