15 放浪|(たび)の始まり~キタイの事5~
よろしくお願いします。
6.キタイの事 5
竜王・ヤンダルゾックは、強大である。
その単体での戦闘力もさることながら、自身の世界からのエネルギー供給量が半端ではない。
ヤンダルゾックの厄介な処は、背後にある竜王の世界との繋がりを断絶して二分以内に倒さないと、世界との繋がりが復活し、無限に再生するという点である。
だから、彼にとって、この世界の、私達を含むあまねく知的生命体は、口を聞くまでもない、微生物の様な存在なのだろう。
煩わしい虫けらを追い払うかの様な扱いで、私達の相手をしてきた。
「我が本気を出すまでもないわ。」
そう言って、ヤンダルゾックは、手を振り払った。
ビュッと音がして、周囲の壁が一直線に斬れた。
そして、その衝撃は、私達から、75%の体力を奪ったのだ。
おねえ様が愛書『全記の書』で調べあげた内容には、真の死を与えるための方法は載っていた。だが、更に厄介なのは、その絶対的ともいえる、エネルギー供給量の多さである、とも記載されていた。
勿論、私達は、何の対策もしていなかった訳ではない。
故に、私達は、光の巨人やダンテさんやダンテスさんの力を借り、一斉にヤンダルゾックと竜王の世界との繋がりを断つべく行動していたのである。
そしてそれは、ある程度は巧く行っていた。
アリ君の指揮と、おねえ様のエルスの支援による戦力の底上げに加え、私やカイル君の多重攻撃、更におねえさまの『全記の書』による明確な情報のリーク…。
ヤンダルゾックが次の攻撃に移る前に、おねえ様のエルス(二体目)の応援による自軍の攻撃ターンの増加…。
卑怯と言われようが、出来得る限りの手段を使い、ヤンダルゾックと竜王の世界との繋がりを断絶する事には成功した。
だが、それでも、ヤンダルゾックは強大だったのである。
ところで、冒険をする上で、パーティーには、それぞれの役割を持ったメンバーが、均等にいることが、成功や生存の確率を上げる為には有効である、と私は考える。
それは、能力面だけでなく、機能面でも、である。
さて、戦闘をする際、アタッカーが居ない場合、敵への攻撃が行えず、ダメージが出ない為、戦いが長引き、結果的にジリジリと全体的に体力を奪われて蹂躙されて終わる事は明白である。
ディフェンダーが居ない場合、アタッカーが敵の体力を迅速に奪い切らないと、やはり防御の面で不利に陥り、蹂躙される未来が予想される。
そして、サポーターがいるかどうかで、そのパーティーの全体的な総合力の底上げを謀ることができるかどうかが別れる。
更に、ヒーラーが居る場合はどうなるか、というと、パーティー全体及び個々人の生存率が劇的に跳ね上がるのである。
私達のパーティーは、これまで3人のヒーラーを迎えた事があった。
1人は、豚人のアミョアさん。
1人は、神官のミストラルさん。
1人は、吟遊詩人のマリウス君である。
残念ながら、3人とも、それぞれの事情により離脱してしまったが。
私は、この時ほど、アミョアさんが恋しく感じたことは無い。
ミストラルさんが、いて欲しいと感じたことは無い。
マリウス君の存在を意識した事はない。
何故なら、私達のパーティーには、ヒーラーが居ないのである。
体力の75%を奪われた我々は、ヤンダルゾックに復活系のスキルを使われたら、後がないのである。
なのに。
なのに、である。ヤンダルゾックは、二重に攻撃をしてきた。今度は、全体ダメージが1000点程はあろうかという凪ぎ払いだった。
使い切られた攻撃も、使い尽くした禁じ手も、出来得る限りの手段をもってしても、今一歩、手が足りなかった。
それは、パーティーの皆が自覚していた。
けれども。
私達は、諦め無かった。
立ち向かうと、決めていた。
退くなんて、微塵も考えて居なかった。
その『心』に、『闇の中にある光』に、『希望』という輝きに、奇跡は宿った。
ヤンダルゾックの容赦ない攻撃に、自分たちは消し飛んだと誰もが思った瞬間である。
意識体となった私達は、暖かな光の中に包まれていた。
その光の中で、響く言葉があった。
『苦境にありし、光の子らよ。闇に囚われて尚、心に光を持つもの達よ。汝等の光、確と受け取った。我らも助太刀しよう!』
と。
ありがとうございました。