14 放浪|(たび)の始まり~キタイの事4~
よろしくお願いします。
6.キタイの事 4
はぁはぁはぁはぁ。
テッテッテッと走っていき、私達は、両腕への分岐点に辿り着いた。
「どちらに行きましょうか?」
息を切らせながら、私が尋ねると、
「うむ、そうだな。」
と、一瞬、アリ君が思案した。
その時である。
後方に、スタッと着地する何者かの気配がした。
「デヴィル メイ クライ。面白い事になっているようだな。加勢するぜ?」
という声がした。
「何故貴方がここに!?」
驚いて振り向くと、そこには、ハイルランドに居るはずの、ナイスガイ、そう。あの、魔狩人、ダンテさんが居た。 ダンテさんは、ニヤリと笑うと、
「ちょっと野暮用でな。で、見知ったお前らが楽しそうな事になっていたからな。」
と、何でも無い事の様に、言った。
「助かりましたわ。貴方の戦闘力は、トリスちゃんから聞いていますわ。その申し出、喜んで買わせて頂きますわ。」
おねえ様が、ダンテさんの協力の申し出を承諾した。
それを見たアリ君が、
「そうだな。正直助かる。ここから先に居る、竜王の右腕の化身を倒してくれ!」
と、すかさず指示を伝えた。
「OKだ!任された。負けんなよ?」
そう言って、この後に待っている激闘に胸が逸るのか、若干嬉しそうにダンテさんは駆けて行った。
「ご助力感謝します。負けませんよ!」
私は精一杯の謝意を込めて、その後ろ姿を見送った。
そうしてダンテさんが走り去り、私達も左腕を目指そうとした時だった。頭上から、声がした。
「我が名はゴーガン・ダンテス。魔神一の剣士!」
振り向くと、屋根の上に人影が見えた。残念ながら、背後の夕日で顔が見えない。
何者だろうと不思議に思ったが、彼の正体はすぐに知れた。
何故なら、その人影は、くるくると回転しながら、スタッと地上へと降りてきたからである。
彼は、明らかに魔神だった。
ここで、敵方の魔神が襲ってきたのか、と、普通なら警戒するところだが、今回はそうはならなかった。
彼は、着地と同時に、こう宣ったのである。
「困っているご婦人の苦難を見捨てるは、騎士の恥!ご助力致しましょう!」
仲間の息を飲む気配を感じたが、私は、
(この方は、悪い気配を感じません。しかも、強い。)
と、瞬時に判断した。
その上で、
「ゴーガン・ダンテスさん、私はトリスティーファ・ラスティンと申します。ご親切痛み入ります。正直、手が足りなくて難儀しておりました。ありがとうございます。こちらからもお願い致します。どうかお力をお貸しください。」
と、協力を要請する旨を伝えた。
「あーすまないが、ここから先に行くと、竜王の左腕の化身がいるはずだ。そちらを討伐願いたい。」
時間がないので、アリ君も瞬時に指示を伝えた。
ゴーガン・ダンテスさんは、さも当然、というように、優雅に一礼して、
「お任せください、レディたち。ご期待に添えるよう、全力を尽くしましょう。」
と言うや否や、颯爽と、敵の居る方向へと去っていった。
その後ろ姿を見送って、私達は、本命の、ヤンダルゾックの居城へと踏み行った。
次々と破壊されていく、シーアンの街。
竜人の数は精々200名。対して、ホータンの人口は100万人を超える。
暴徒と化した人々を前に、権力を嵩に着ていた竜人達はあっという間に制圧されていった。
それは、リーさんの優れたリーダーとしての資質の表れでもあった。
100人一組で、一人の竜人を相手にするよう、徹底的に指示を出していたのである。
それでも尚余る人々を、リーさんは城の破壊にも向かわせていた。
この様な、住民の全面的なバックアップもあり、私達は、比較的速やかに、竜王、ヤンダルゾックの元に到着出来た。
これだけの圧倒的戦力差にも関わらず、ヤンダルゾックは高圧的に言った。
「トリスティーファ・ラスティン。よく来たな。その『器』、我の物として使ってやろう。」
私は、私を信じて大切に想ってくれているパーティーの皆の熱意を胸に、意を決して告げた。
「お言葉ですが、大切な人達の為にも、私はまだ死ぬ訳には参りません。まだ消えるわけにも参りません。私の事は諦めてください。」
まだ、『消えたい』と願う心から解放された訳ではない。
まだ、『生きていていい』とは、自分を認められてはいない。
でも、どんな意味合いであれ、『生きていて欲しい』『大切である』という、明確な熱意を、私は確かに受け止めたのである。
どんな形であれ、『愛されている』事を自覚させられたのである。
ここで退くわけにはいかない。
「では、力ずくでも終わらせてやろう。我は不滅故にな!」
ヤンダルゾックは、未だ自身の優位を微塵も疑っていない、絶対者である事を当たり前に思っている。
決して自身の秘密が漏れる訳がないと、そう確信している。
けれど。
「オホホホホホホホホ。悪いわねぇ♪ヤンダルゾックちゃん。貴方の事は、このわたくし、エリスティーファ・ラスティンが全て洗いざらい調べ尽くしましたわっ!観念なさい。わたくしの大事なトリスちゃんを道具扱いしたこと、奈落で後悔するのねっ!!!」
高笑いと共に、ヤンダルゾックをビシッと指差しておねえ様は豪語した。
「私の指示で、シーアンは壊滅する。私の指揮で、お前の真の死を与える儀式も行う。あまり人を見くびらない事だな!」
アリ君が吐き捨てる様に言った。
「さぁ、ここからは、俺らの時間だ。全力で行くぜ!」
カイル君は、スラリと愛剣を抜き放ち、早くも臨戦態勢である。
「舐めるなよ、下等生物が。」
ヤンダルゾックのその一言で、戦いの火蓋は切って落とされた。
ありがとうございました。