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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
放浪の始まり
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13  放浪|(たび)の始まり~キタイの事3~

よろしくお願いします。

6.キタイの事 3







「只今戻りました♪」



 私がホータンにある、リーさんのアジトに戻ると、おねえ様がリーさんと話を纏めていた。

 そんな二人に、ヤン・ゲラールさんから預かってきた書状を渡す。

 すると、おねえ様が何やら考えた後、言った。


「リーさん。目的は竜王を倒す、という方向性で、間違いありませんわよね?」


 おねえ様の念押しに、リーさんは微笑を浮かべて応えた。


「ええ。最終的には、排除出来れば嬉しいのですが。」


 それを聞いて、おねえ様は嬉しそうな笑みを浮かべた。


「では…」

 おねえ様はくるりとアリ君の方を見ると、


「取り敢えず、シーアンに入ってみることに致しましょう。宜しいですわね?」


と、軍師の確認をとった。アリ君も分かっていた様で、うむ、と頷いた。


「リーダーたるトリスも、穏便に済ませたいだろうしな。」




 という訳で、ホームレスを含む民の人身掌握はリーさん達に任せ、我らがパーティーは、ホータンの中心地、シーアンに向かう事にした。

 竜人と無駄に争いたくないという、私の希望を叶えるべく、全員、フードで顔を隠しての行動である。


 シーアンとの境、門の所に来たとき、私達の頭に、声が響いた。


『ちっぽけな人間風情が、この地に何用か?』


 その声は、とても威厳と自信に満ち溢れ、傲慢なものだった。それでも、私は争いたくないと思っていたので、王に対面した時の様に、恭しく、礼儀正しく、を心掛けて膝を折り、話し掛けた。


「わたくしは、トリスティーファ・ラスティンと申します、旅の者です。私共の一行は、この地を抜け、北へと向かう事を目的としております。しかし、気になる事象もございまして。竜人様がたと、我々人間とは住む次元が違う様に思います。どうか、人間の自治をお認め頂けないでしょうか?そうしていただければ、目障りであろう私共は速やかに北へと去ります。いかがでしょうか?」




 すると、尊大な声は、こう言った。


『小さき人間どもの事など我は関せぬ。だが…。』


 第一段階を突破したな、と思った次の瞬間。

爆弾は投下された。



『北へ抜けたいのなら、トリスティーファ・ラスティンとやら。お前はここに留まれ。何。そうすれば、お主以外は何もせず通してやろう。』



 困ったなぁと思った私は、



「あの、この一行は私が北の賢者ロカンドロス様にお会いするための一行です。中心たる私が抜ける訳にはいかないのですが。」


と、真っ当な要求をした。

 すると、声は尚も、


『トリスティーファ・ラスティンよ。居残れ。』


と告げてきた。



 埒が開かないと、交渉をアリ君にバトンタッチする事にした。

 途端に、声は続けた。


『その『器』、お主などより余程有効に活用してくれようぞ。』



 これを聞いたアリ君は、無言でおねえ様を前に押しやった。



『我が、力の解放の為にな!』



 これを聞いたおねえさまは、清々しい笑顔になった。



 そして、私以外の3人から、それぞれに怒号が飛んだ。


「よくも私の大切な(妹分の)トリスを!!!」


「よくもわたくしの大事なトリスちゃんを!!!」


「よくも俺の大事なトリスを!!!」


「「「赦さん(赦しませんわ)!!!!その首洗って待っていやがれ(待っていなさい)!!!」」」



 竜王は、見事に、私以外の虎の尾を踏んだのだった。






 さて、私は、3人の、私を大事に思ってくれているという事態に、胸が熱くなった。

 と同時に、切なさで胸が潰れそうにもなった。



 …。彼にとって、私はやはり、『妹』のまま、のようです。

 分かっていたけど、胸が痛いなぁ…。




 アリ君とおねえ様は私とカイル君にコソッと


「とはいっても、準備は必要だ。一旦退くぞ。」


「ええ。そうですわね。一度冷静になりませんとね。」


と告げた。

 軍師と参謀の両名が揃って戦略的撤退を提示した為、私達はこの場を辞す事になった。

 なので、痛む心を抑えつつ、私は竜王に挨拶した。


「仲間が失礼を申し上げてしまい、申し訳ございませんでした。わたくし自身、どうするにしても覚悟を決める時間が必要ですので、しばしお暇を頂きたく存じます。それでは、失礼致します。」


と、ペコリとお辞儀をすると、皆を掴んで脱兎で離脱を謀った。








 そして、場所は、ホータンにあるリーさんのアジトである。


 おねえ様の怒りは、凄まじかった。

 まず、唯の質問では応えなかった魔導書に対しては、細かく質問を重ねる事で、竜王の真名『ヤンダルゾック』と、真の死を与える方法についての情報(右手・左手・右足・左足・頭の場所、その全てを二分以内に破壊する事、独自のエネルギータンクの接続の破壊方法等)を洗いざらい全て調べあげた。

 その時のおねえ様は、これ以上ないくらいのいい笑顔で、遣りきった爽やかさを讃えていた。



 その、おねえ様がもたらした情報を基に、アリ君も燃えていた。

 地図を拡げ、戦略を練り、リーさんと何やら打ち合わせをしていた。

 そうやって会議を重ね、行動方針を固め、私達は討って出る事になった。






 前述したと思うが、シーアンとホータンの境には、巨大な壁がある。

 中に入るには、どうしてもその壁を破壊しなくてはならない。

 カイル君が、


「アリ、斬鉄剣で壁を斬ろうか?」


と提案したが、アリ君は首を横に振った。



「いいや。ここは、自分たちの街の自治を手にいれる為にも、この街の住人にやって貰おう。」



「え?どういう事ですか?」



 私が疑問を口にすると、アリ君はニヤリと笑って言った。



「トリス。この世界ではな。どんなに脇役に見える人々にも、出来ると世界に判断された行動は、可能になるんだよ。」


「えっ?つまり、どういう事ですか?」


 意味が理解出来ずに、重ねて質問する。

 すると、アリ君は、


「まあ見ておけ。」


と私に告げると、


「リー、それからランスロット!お前らの配下にいる連中にハンマーや槌、鉄鍋や中華鍋、あと打撃に向いている鈍器を持たせろ。そして、皆で石壁を殴れ。そうすれば、石の壁くらい破壊出来ると思わないか?」


 一瞬の沈黙の後、


 なるほど…!


と言う民衆の納得した声が辺りを包んだ。

 その空気を確認したアリ君は、


「と、いうわけだ。やれ。」


と、満足気に指示を下した。





ウォォォオオオォォォ!



 ほぼ全住民による総攻撃。その猛攻は凄まじく。


 町中の人達が、手に様々な鈍器を握り、壁に殴り付けている。

 ある者は、ハンマー、またある者は棍棒を、更に別な者は、鉄パイプを、…兎に角目につく限りの鈍器を揃え、携えた一団が、雄叫びをあげながら巨大な壁に殴りかかる様は壮観だった。

 今まで抑圧されてきた鬱憤を晴らすべく、人々が我も我もと争い競う様に突撃していく。 厚く、とても一人の力では壊せそうもなかった壁が、一時間と経たずにガラガラと崩れ去った。



「見たか?トリス。これがこの世界の民衆の力だ。弱き者を甘く見ると、痛い目を見るという実例だな。」


 アリ君の解説に、目が点になりながらも、納得した私。

 これだけでも、私は充分な奇跡を目の当たりにしていたと自覚している。

 だが、本当の奇蹟はここからだった。





 覚えているだろうか?

 この地に伝わる伝承を。


 あれは、真実だったのだ。



 悪によって苦しめられていた民衆が、自らの力で強大な存在に立ち向かい、心の光を見失わなかった結果…その光は、大きな希望の光となって、この地に降り立った。

 そう。

 かつて、私達が助けた、彼ら。

 光の巨人たちが、このキタイの危機に駆け付けて来てくれたのである。






『苦境にありし、光の子らよ。闇に囚われて尚、心に光を持つもの達よ。汝等の光、確と受け取った。我らも助太刀しよう!』



という、皆の頭に、直接響く声。


 天空から舞い降りる、眩い光の柱。


 そこには、あの、光の巨人たちが二人、悠然と立っていた。

 額に光る青い輝きの、紅き身体の巨人と、同じく胸に蒼き輝きを宿した、朱と蒼のラインを纏った巨人だ。


 彼らは言った。


『さあ、軍師殿。我等は両の足をそれぞれ担当しよう。我らはそちらのタイミングに合わせて撃破する。健闘を祈る!』


 そして、言葉違わず、彼らはそれぞれ、右と左の足を狙いに、飛び立ったのだった。




 それを見ていたアリ君は、


「よし、これで少しは勝率が上がったな。急いで他の地点へむかうぞ!」


と指示を飛ばした。

 私達は、互いに頷き合い、シーアンの内部へと走り出した。






ありがとうございました。

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