11 放浪|(たび)の始まり~キタイの事1~
よろしくお願いします
6.キタイの事 1
マリウス君達と別れて一週間。
私達は、奇妙な場所に着いた。
まず、寒くない。
雪も無い。
空は青空が広がり、地面からは緑が生い茂っている。
そして、何より、目の前には、天にも届かんとする、巨大な壁があった。更に詳しく延べるなら、この異常とも言える状態は、壁の1メートルほど手前から始まっていた。
「何でしょうね?ここ…。春めいてるんですが。」
「分からないですわね。でも、本(魔導書)で調べるに、この町を通過すべしとありますわ。まずは、体験する事が大切ですわね♪そちらに門もありますし、レッツゴーですわよ!」
「まあ、幽世である事は確かだろうがな。」
「体当たり。いいねぇ♪」
そうして、門の前に着いたのだが。
門の前。そこには、一人の少年と、一匹のネズミさんがいた。
私はじっと少年とネズミさんを見ると、人の言葉と動物の言葉とで、二重に挨拶をした。
「こんにちは。私はトリスティーファ・ラスティンって言います。この門の中について、知っていたら、教えてほしいのですが…。」
少年とネズミさんは、互いに目配せして、答えてくれた。
「『この町に入らない方がいいぜ、嬢ちゃん。』」
「僕は、シャオロン。」
『俺らはラクウィーク。』
「ご丁寧に有難うございます。何故、入らない方が良いのですか?私は賢者ロカンドロス様にお会いしに行く途中なのです。この町を通らないと、ロカンドロス様にお会い出来ない様です。是非、私にこの町の事を教えては頂けませんか?」
ラクウィークはチラリと私を見て言った。
『俺らは、中には入りたくないなぁ。ただ…。』
「ただ?」
『嬢ちゃんの胸元に入れてくれるなら、知ってる事を教えし、着いていくよ♪勿論、直接服のなかに入れてくれって訳じゃないぜ?胸元の隙間に入れて欲しいって事…。』
私は、絶句した。
そして、申し訳なく思った。
なぜなら…。
「あの…。私はサラシを着用してまして。胸元がとても固くなっています。ガチガチです。居心地はあまり良くないと思いますが、それでも構いませんか?できる限り居心地良く整えようとは努力しますが、ツルペタでゴツゴツですよ?」
『え?』
「え?ですか?やはり、不合格ですよね?」
ラクウィークさんは非常に慌てて言った。
『違うよ!冗談で言ったのに、通ると思わなかったんだよ!』
「…。冗談、なのですか?」
『いや、やってくれるなら嬉しいけど…。』
「では、案内、宜しくお願いしますね?ラクウィークさん。戦闘で危険な時は、奥に隠れて下さい。危ないですから。」
私はそう言うと、胸元に手布を敷き詰めて、ラクウィークさんの居場所を確保した。
…以前クレアさんに薦めて頂いた下着は、今回の旅路では持って来なかったので、今はさらしに戻してある。戦闘時には揺れない、引っ掛からない、という事が重要なので。
「トリス…。問題はそこじゃないと思うな。」
カイユ君が、何かを堪える様に呟いた。
「え?何か私、間違えました?」
周りを見回すと、皆が呆れた様子で私を見ていた。
でも、何故か皆は私の疑問に答えてくれない。
「まあ、トリスだからな。」
「トリスちゃんだからね。」
「トリスだしなぁ…。解ってないなら、それでいいんじゃないか?」
と、三人ともに、溜め息を吐かれた。
詳しそうな道案内をゲット出来たと思ったのですが…。
違うのかしら?
そんな私の戸惑いを他所に、ラクウィークさんから説明があった。
『道案内を買って出たからには、説明をするぜ♪ここは、[キタイ]と言う。この街を囲む壁に入ったら、注意しなくちゃなんねぇ事があるんだ。街中には更に壁があって、その中には竜人って奴らしか出入り出来ねぇんだ。其所を奴らは[シーアン]って呼んでる。でな。更にその中央に城壁があって、そこには竜人の王が居を構えている。その名前を呼んだ者は、どこにいても直ぐにしょっぴかれてしまうんだ。罪人として中に連れていかれた奴は帰って来ない。で、[キタイ]は、竜王の許可が無いと通れないんだ。』
「中に入る前に、僕からも忠告しておくね。竜人たちは竜王に守られているから、いさかいを起こしちゃいけないよ?それだけ厳重に監視されてるからね。」
アリ君がすっと右手をあげた。
「ちょっといいか?私はアリと言う。質問なんだが。そこのネズミの事はひとまず置いておくが、シャオロンと言ったか。君は何故壁の外に居たんだ?説明を聞くに、不自然に思えるんだが。」
「僕ですか?貴殿方を待っていました。我らのリーダーの占いの卦に出ていた、北を目指す一行。その方々に力を貸して頂く為に。」
そう言うと、シャオロンさんは、膝を折り、頭を下げた。
何やら、一筋縄では行かない事件が私達を待ち受けている様である。
シャオロン君の話によると。
竜人たちは、この春の地域、壁の中を[キタイ]と呼び、その都を[ホータン]更に竜王の城付近※マナが多量にある区域を[シーアン]と呼んでいる。
[キタイ]の中では、竜王の真名は思い浮かべるだけでも感知されてしまう。
竜王に不満を持つ者のリーダーが、シャオロン君の主である。
また、シャオロン君達以外の勢力もあり、そことは半ば膠着状態が続いているらしい。
シャオロン君達は、竜王及び竜人の支配を排除し、人の自治権を取り戻したい。
と、いう事だった。
ラクウィークさんと、若干の認識のズレがあった。
理由を聞いてみると、
『おいら、ネズミだからね。あんまり中には詳しくねぇんだよ。』
と、言われた。
「では、何処に詳しいんですか?」
と聞くと、
『おいらは、突如出来たここを見るのが好きなんだよ。』
と返された。
ラクウィークさんは、何か事情を抱えているな、と私は思ったが、今は突っ込まない事にした。時が来たら、きっと話してくれるに違いないと、彼を信じたからだ。
私達は、取り敢えず、シャオロン君の主に会いに行ってみる事にしたのだった。
門を潜ると、其処は、初めて目にする文化圏だった。
石と木で出来た建築物。煉瓦造りと木造建築の融合が見事で、極彩飾でカラフルな色味。屋根瓦は紅く、緑や青の壁をしていて、目に鮮やかである。
ハイルランドとは、使っている塗料が違うのかも知れない。
透かし彫りの木戸。
四つ脚の生えた蛇の様な、鬣と鬚、それに二本の鹿みたいな角を生やした幻獣。首の異様に長い亀。白い虎。赤い孔雀みたいな鳥。エクセターに居る、獅子の様な生き物。等々。様々なレリーフが豪華絢爛に、しかもあちこちに象られていた。
人々が着ている服も独特で、ちょっと弥都の服に似ている。下履き(ズボン)に前をボタンで留めるタイプの上着で、袖はゆったりしているというスタイルの人が多い様だ。
そして、思った以上に人が沢山居た。
ハイルランドでは、お祭りかな、と思うほどの人混みだった。
「シャオロン君、今日は何か祝い事でもあるんですか?すごい人混みですね?」
私が堪らず尋ねてみると、
「え?普通です。むしろ、何時もより人が少ないくらいですよ。」
という、私には俄に信じたくないお返事を頂いた。
おねえ様の服に掴まり、足元だけを見詰めて歩く。
暫く歩くと、シャオロン君が、立ち止まった。
顔を上げると、そこは狭い路地裏の行き止まり。目の前には木の壁しかない。
シャオロン君が何事が操作すると、木の壁がくるんと回転し、通路が表れた。
ありがとうございました